昨年12月に改正水道法が成立したことにより、全国各地で水道の民営化・広域化が促進される可能性があります。嶋津暉之さん(当会運営委員、元東京都環境科学研究所研究員)がこの問題をテーマとした講演で、群馬県の東部水道について説明したスライドを紹介します。
群馬県東部の太田市、館林市等の8市町の水道は統合され、2016年4月から群馬東部水道企業団になりました。給水人口は約45万人と、国内最大の水道企業団とのことです。
(参照:群馬東部水道企業団公式サイト)
8市町の水道の統合は、以下のスライド1の右側のグラフのとおり、今後、人口、給水量の減少が進み、水道経営が非常に厳しくなると予想されていることによるものです。
東部8市町は、群馬県の水道用水供給事業の東部地域水道及び新田山田水道の受水市町です(以下のスライド2を参照)。この統合で群馬県水道と企業団が1対1の関係になって経営を分ける意味がなくなってきたので、近いうちに、県の東部地域水道、新田山田水道も企業団と統合するということです。
8市町の水道は群馬東部水道企業団に統合されましたが、以下のスライド3のとおり、水道の管理と施設更新は㈱群馬東部水道サービスに委託しています。㈱群馬東部水道サービスは企業団が51%出資して設立された会社です。今回の水道法改正で可能となった施設の運営権の譲渡ではなく、施設の運営権は企業団が保有したまま、管理と施設更新を委託する形態です。今後、運営権の譲渡は予定していないとのことです。
とはいえ、企業団の職員は、発足時は各市町からの出向で100人以上いたそうですが、現在は68人に減っており、仕事が㈱群馬東部水道サービス(現在は100人以上)に移りつつあるように思います。
施設の運営権を譲渡する民営化ではありませんが、各地の水道事業においてこのような形態の一種の民営化が行われていくことも考えられます。
上記で説明したように、群馬東部水道企業団に県水を供給しているのは、東部地域水道と新田山田水道です。
四つの県営水道の保有水源は下記の通りで、東部地域水道が冬期の水源を得るため、八ッ場ダム事業に参画しています。本当は冬期はかんがい用水の取水量が激減しますので、川の流量に余裕があり、水源確保は不要なのですが、不合理な水利権許可行政により、東部地域水道は八ッ場ダムへの参画を余儀なくされています。
しかし、水需要の減少で、冬期の八ッ場ダムの水源も不要になってきています。
上のスライド1の右下の図を見ると、群馬東部水道企業団の水需給は、自己水源217230㎥/日(表流水53712㎥/日、地下水163518㎥/日)、受水(県水)81450㎥/日に対して、
一日最大配水量 H23 201761㎥/日、H36 193579㎥/日、H62 155804㎥/日 ですから、
県水なしで、一日最大配水量に対応できつつあることが読み取れます。
さらに、東部地域水道と新田山田水道の水源の約半分を占める新田山田水道の水源は安定水源ですから、八ッ場ダムの暫定水利権(*)なしで、水需給に十分に余裕があります。
したがって、群馬東部水道企業団にとって、水道経営を圧迫する八ッ場ダムは不要のものになっています。
群馬県水道の保有水源
東部地域水道 夏期 冬期
広桃用水転用 0.510㎥/秒 (八ッ場ダム暫定)
新田山田水道 夏期と冬期
四万川ダム 0.165㎥/秒
奈良俣ダム 0.350㎥/秒
県央第二水道 夏期 冬期
矢木沢ダム 0.350㎥/秒 奈良俣ダム 0.350㎥/秒
広桃用水転用 1.490㎥/秒 (八ッ場ダム暫定)
県央第一水道 夏期 冬期
矢木沢ダム 1.370㎥/秒 奈良俣ダム 1.370㎥/秒
群馬用水転用 0.630㎥/秒 群馬用水転用 0.630㎥/秒
*暫定水利権
河川法に基づき、水道水などの各利用者が河川管理者の許可を得て一定の水量を使う権利を「安定水利権」と呼ぶ。基本的に早い者勝ちのため、後発組はダムなどの新たな水源の確保を前提に、「暫定」の権利を得る。東京、埼玉、千葉、茨城、群馬の5都県は、八ツ場ダムの事業参加と引き換えに、利根川の河川管理者である国土交通省から得た暫定水利権で、一部の水道水や工業用水をまかなっている。「暫定水利権」はダム完成後、「安定水利権」となる。