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角哲也京大学防災教授による論考記事「豪雨が問うダムの賢い運用」 

 昨夏の西日本豪雨災害のあと、国土交通省に設置された「異常豪雨の頻発化に備えたダムの洪水調節機能に関する検討会」の座長を務めた角哲也・京大防災研教授の論考が日本経済新聞に掲載されました。
 気候環境が厳しくなる中、「ダム管理の現場は悲鳴を上げている」という角氏の認識は事実に即したものですが、この論考で角氏は「ダムの管理には予算と人員の確保が重要」、「ダムを有効に働かせるためには十分な投資が必要」と、ダムに偏重した現在の国交省による河川行政を守ろうとしているように見えます。

 西日本水害を踏まえて問題とすべきことは、治水効果が限られたダム事業ばかりに力を入れ、氾濫防止のための河道整備を後回しにし、蔑ろにしてきた河川行政の誤りです。角氏は論考でこの基本的な問題には触れていません。
 なお、角氏は穴あきダム(流水型ダム)の専門家であって、山形県が強引に進めてきた最上小国川ダム事業等で、穴あきダムの有効性を推奨してきました。

◆2019年1月28日 日本経済新聞 私見卓見
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO40473150V20C19A1SHE000
ー豪雨が問うダムの賢い運用 角哲也氏 京都大学防災研究所教授ー

 2018年7月の西日本豪雨では愛媛県内のダム放流が大きな議論になった。ダムの容量を超える恐れがある場合に規則に基づきダムへの流入量と同じ量を放流する「異常洪水時防災操作」が実施された。

 河川に安全に流すことのできる水量を超える放流が行われ、浸水被害が起きた地域があった。「ダムがあるので安心」と聞かされてきた人たちが裏切られた気持ちになるのも無理はない。

 ただダム自体に問題があったわけではない。被害を発生させないよう、下流の要請に応えて放流を抑えた結果、早い段階でダムが満水となり、急激な放流となってしまった。ダムの運用ルールに課題があったと考える。

 国交省が西日本豪雨後に設置した検討会で委員長を務めた。重要なのは、今回は広域に300ミリ以上の総雨量があったが、治水容量が流域換算で50ミリ以下のダムもあり洪水を貯める容量には限度があることだ。防災心理学が専門の委員から「ダムがデリケートな操作を行う装置であることを初めて知った」との発言があった。ダムは水をためる器に過ぎない。限られた容量をいかに使うかは我々の工夫次第である。

 だが、ダム管理の現場は悲鳴を上げている。気象環境が厳しくなる中、大雨が予測されると、職員は何日も前から宿直して洪水に備え、洪水後も下流の安全を見定めながらダム放流を続けている。豪雨前に事前放流し、洪水でためられる容量を確保すべきだとの指摘も多い一方で、事前放流は降雨予測がはずれた場合の利水者からの苦情との戦いでもある。関係者の協力なしに実行は難しい。

 17年7月の九州北部豪雨では、寺内ダム(福岡県朝倉市)が洪水と1万立方メートルもの流木を捕捉した結果、下流の大氾濫を防止した。今後は貴重なダムをいかに効果的に使っていくかが課題だ。

 ダムの管理には予算と人員の確保が重要である。日本のダムは堆砂による容量の減少という問題もある。ダムを有効に働かせるためには十分な投資が必要だ。流域の中で、治水と利水の面から重要な流量の多い河川のダムを見定め、降雨予測を活用した運用ルールの高度化やかさ上げ工事などの「ダム再生」を進めたい。
ダムをいかに賢く、永く、必要に応じて増やしたり、連携させたりしながら使っていくか。ダムの役割に改めて目を向けてほしい。