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水道等の民営化(施設運営権の譲渡)の実際ー浜松市と宮城県のケース

 昨年12月、改正水道法が成立したことで注目を集めた水道等の民営化の問題について、すでに民営化(施設運営権の譲渡)が行われた浜松市下水道と、水道等の民営化を具体的に計画している宮城県について、当会運営委員の嶋津暉之さん(元・東京都環境科学研究所研究員)による論考をお送りします。

1 浜松市・西遠流域下水道事業の民営化

 浜松市・西遠流域下水道事業の民営化が2018年度から始まりました。水道・下水道関係では国内初の例となる施設運営権の長期譲渡です。
 下記スライド1の通り、水処理世界最大手の仏ヴェオリアと日本の会社が設立した浜松ウォーターシンフォニー株式会社が20年間運営を行うことになりました。

 浜松市が運営権を譲渡するのは、西遠流域下水道事業の下水処理場と中継ポンプ場2カ所で、下水管の部分は譲渡されません。運営権譲渡の対価は25億円です。民営化で20年間の総事業費を約86億円削減できるとされています。

 下記スライド2の通り、料金の収受は市が行い、料金収入の24%を運営権者に渡すことになっています。

 

 なお、運営権者が行う処理場等の改築費の負担割合は、運営権者10%、市35%、国庫補助金55%になっています。運営権者にとって随分有利な仕組みですが、市の資産になるからという理由らしいです。

 下記スライド3の右側は、20年間で約86億円も削減できるという根拠資料を情報公開請求で入手したものです。わかりにくい資料ですが、要点は次の通りです。
(86億円は現在価値に換算した金額(将来の価値を20年国債の利率で割り引いて20年間の効果を現在価値に換算した金額(割引率1.59%/年))で、現在価値化前は106億円の削減)

・人件費が33億円増加、運営業務等委託費が25億円減少 → 従来は民間会社に委託していたが、管理の一部を運営権者が直営で実施
・修繕費が46億円減少、改築費が72億円減少 → 耐久性がある設備を導入、調達方法の改善(長期契約等)など
・ユーティリティ(電気代、薬品費、消耗品費等)が39億円減少 → 機器、調達方法の改善など

〈参考記事〉
◆2019年1月28日 静岡朝日テレビ
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20190128-00010001-satvv-l22
ー浜松市の水道民営化委託の議論延期へー

 浜松市長選への出馬を表明している鈴木康友市長が、水道事業を民間委託する議論を当面、延期する方針を固めたことがわかりました。

浜松市は去年4月、公共施設の所有権を持ったまま民間に運営を委託するコンセッション方式を、全国で初めて下水道事業に導入しました。鈴木市長は、生活用水の上水道にも導入するかどうか当初、今年度中に判断する方針でしたが、市議会や市民団体から反対の声が上がっていました。

関係者によりますと鈴木市長は、上水道へのコンセッション方式導入の議論を期限を設けずに延期するということです。

その背景には、4月7日に行われる浜松市長選挙があります。

市長選に立候補を表明している市議会最大会派・自民党浜松の山本遼太郎市議はコンセッション方式に反対しています。

自民党浜松・山本遼太郎市議:「市としても十分な説明責任を果たしていないまま、このような結論になるのは疑問。そういったことに我々の税金を使ってやろうとしていたのかという気持ち。」

関係者によりますと4選を目指す鈴木市長陣営は、水道のコンセッション方式には「安全性が損なわれる」など女性の反対が強いことを懸念していて、山本市議に選挙の争点とされることを避ける狙いがあるとみられています。

鈴木市長は31日の定例会見で説明したいとしています。

2019年1月31日 共同通信
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20190131-00000098-kyodonews-soci
ー浜松・上水道民間売却、議論延期 市民の理解進まずー

  上水道事業の民間企業への売却を検討していた浜松市は31日、導入に向けた議論を当面延期すると発表した。料金高騰や水質悪化を懸念する声が上がり、市民の理解が進んでいないことが理由という。市議会最大会派の自民党も議会で慎重姿勢を示していた。

 水道事業を巡り、浜松市は昨年4月、自治体が公共施設の所有権を持ったまま運営権を民間企業に売却する「コンセッション方式」を、全国で初めて一部の下水道処理施設に取り入れた。上水道事業にも同方式を導入するかどうかを2018年度中に決める方針を示していた。

2 水道・工業用水道・下水道の民営化を計画している宮城県

 宮城県は水道用水供給事業、工業用水道事業、流域下水道事業の民営化を計画しています。
 村井嘉浩知事の主導によるもので、村井知事は昨年12月、参議院厚生労働委員会で参考人として水道法改正賛成の意見を述べました。

 下記スライド4の通り、民営化を計画しているのは、二つの水道用水供給事業、三つの工業用水道事業、四つの流域下水道事業です。

 

 下記スライド5の通り、民営化を計画しているのは、水道用水供給事業、工業用水道事業、流域下水道事業の管路を除く処理場等の部分で、資産の割合としては3割にとどまります。

 

 下記スライド6の通り、民営化することにより、20年間で水道・工業用水道・下水道で166〜386億円(現在価値化前の数字は335〜546億円)の費用が削減できることになっています。

3 上記の二つの事例を見て言えること

〇 民営化は管路を除く部分のみ

 浜松市・西遠流域下水道事業の民営化も、宮城県が計画中の水道用水供給事業、工業用水道事業、流域下水道事業の民営化も、管路を除く処理場等の部分であって、資産の割合としては3割程度にとどまります。
 処理場等の管理の民間委託は従来から行ってきていることです。上記の民営化はそれに施設運営権の譲渡がプラスされたものですが、それで現状とどの程度変わるのか、今一つ分からないところがあります。
 資産の大半を占める管路部分を含めた民営化が行われないのは、全体の民営化が実際には結構難しいことを物語っています。

〇 大幅な費用削減の根拠への疑問

 民営化すれば、大幅なコスト削減がされることになっています。浜松市西遠下水道は20年間で106億円の削減、宮城県の水道・工業用水道・下水道の場合は20年間で335〜546億円の削減です(現在価値化前の数字)。

 しかし、そのような大幅なコスト削減が本当にできるのか、どれだけの裏付けがあるのか、よくわかりません。浜松市が示した上記の西遠流域下水道の費用削減根拠資料もその裏付けが不明です。運営権者が示した数字をうのみにはできません。

〇 魔法の杖のような方法があるのか。

 水道等の事業は、施設の老朽化、人口等の減少による料金収入の長期的減少、技術職員減少による技術継承への懸念という深刻な問題に直面していることは事実であり、対応策を真剣に考えなければなりません。
 しかし、民営化すれば、それらの問題が本当に解消できるのでしょうか。魔法の杖のような方法があるのでしょうか。
 それらの問題を解消できる方法がもしあるならば、その方法の詳細を徹底的に調べて、公共のままで、そのような方法の導入に努めればよいのではないでしょうか。
 民営化すれば、それらの問題が解消できるような宣伝に惑わされることなく、民営化の実態をしっかり吟味することが必要です。