紀の川上流の奈良県川上村に国が建設した大滝ダムは、試験湛水中に大規模な地すべりが発生し、地すべり対策のためにダム完成が10年も遅れました。昨年、大滝ダムの貯水域周辺ではトンネルで亀裂が発生したことが明らかになり、昨年12月1日から通行止めになっています。
奈良県では12月に記者発表が行われ、「国道169号高原(たかはら)トンネル安全対策検討会」を設置し、変状の原因究明及び交通開放に向けての検討が行われています。
以下は、第一回検討会が開催された昨年12月18日に地元紙が伝えた第一報です。
◆2018年12月18日 奈良新聞
https://www.nara-np.co.jp/news/20181217091732.html
ーひび割れ、5年前にも – 対策検討会 県が設置 あす現地を調査/川上の高原トンネルー
今月1日から通行止め規制が実施されている川上村迫の国道169号高原トンネル(長さ495メートル、平成8年完成)で、規制の要因となった11月の定期点検で確認された複数のひび割れが、既に平成25年の点検でも確認されていたことが分かった。県道路管理課は「5年前の点検では安全とみられていたが、ひび割れの幅が拡大し、安全性に問題ありと判断した」としている。
同課によると、ひび割れの長さは最大で約10メートルあり、長さは25年の点検時と変わっていない。一方、幅については、今年11月の点検でうち1本が約2・5ミリから約7ミリに、もう一本も約3ミリから約5ミリに拡大していた。…
—転載終わり—
奈良県公式サイトには、2月19日に開かれた第二回検討会も含め、「国道169号高原トンネル安全対策検討会」の資料が掲載されています。
http://www.pref.nara.jp/item/206698.htm#itemid206698
高原トンネルは大滝ダムの堤体から数km上流の、ダム湖の左岸側にあります。
トンネルとダムの位置関係は、国交省近畿地方整備局の「大滝ダム 白屋地区について」のページに掲載されている以下の図を見るとよくわかります。
大滝ダムは2003年の試験湛水後にダム湖の右岸側の白屋地区で地割れが発生しました。白屋地区では38戸全戸が移転を余儀なくされた後、2005年に地すべり対策工事が始まりました。
同年、国交省は対岸の迫地区での観測を開始。第一回検討会の資料にある以下の「経緯」によれば、高原トンネル内でも計測を開始し、迫地区でも地すべり対策工事が行われました。
大滝ダム事業では、白屋地区及び大滝地区で押え盛土工、鋼管杭工等による地すべり対策を実施、迫地区では押え盛土工、アンカー工等の対策工事を実施しました。地すべり対策の追加工事に308億円投じて、2013年3月にようやく大滝ダムは運用を開始しました。
検討会の資料を見ると、高原トンネルの亀裂発生は大滝ダムの貯水位変動の影響の可能性が高いようです。
大滝ダムは国直轄のダム事業です。国道169号の付替えも高原トンネルの建設も、ダム事業の一環として行われたものですが、三ケタ国道の道路管理は県が行うことになっています。
八ッ場ダム事業では水没予定地を走っていた国道145号が2010年に完成しましたが、2014年にダム本体工事現場の近くで地すべりが発覚し、調査の結果、2017年に地すべり対策工事が実施されました。まだダム事業が完了していないこともあってか、道路を管理する群馬県が行った対策工事費1億5000万円は国と群馬県が半額ずつ負担しました。
(参照➡「八ッ場ダム本体工事現場の脇を通る国道の災害防除工事(その1)」
地質が脆弱な八ッ場ダム予定地では、現在、試験湛水に備えてダム貯水地周辺の5ヵ所で地すべり対策工事を行っています。しかし、当会が調査分析を依頼した専門家のチームは、地すべり対策に問題があるとしています。
(参照➡「八ッ場ダム事業における地すべり対策と代替地の安全対策についての記者会見)