昨年7月にラオスで水力発電用ダム「セピエン・セナムノイダム」の補助ダムが崩壊し、死者40人、行方不明者66人、罹災民6000人余りという凄まじい事故が起きました。ラオス政府がこの事故は韓国・SK建設の施工不良によると発表しましたが、この発表に対してSK建設が猛反発しているとのことです。
なお、メコン・ウォッチの木口由香さんのお話によれば、SK建設には日本の年金積立金管理運用独立行政法人も出資しており、日本も無関係ではありません。
東南アジアのメコン河流域の環境社会問題や日本のODAの問題について政策提言を行っているNGOメコン・ウォッチのホームページにセビアンセナムノイ水力発電ダムについての詳しい解説が載っています。
➡http://www.mekongwatch.org/report/laos/laos_xepian-xenamnoy.html
ここに掲載されている関連メールニュースでは、セビアンセナムノイダムの事故の概要も読むことができます。
◆2019年5月29日 Record China
https://www.recordchina.co.jp/b630303-s0-c10-d0058.html
ーラオス政府がダム決壊は「人災」と結論も、韓国企業は猛反発「科学的根拠がない」ー
2019年5月29日、韓国・ニューシスによると、昨年7月にラオスで発生したダム決壊事故について「天災ではなく人災だった」との調査結果が発表された。
記事によると、ラオス政府は、水力発電用ダムであるセピエン・セナムノイダムの補助ダムの一部が崩壊した理由について「ダムの基礎地盤である土砂層に漏水が発生して正常に機能せず、補助ダムのバランスが崩れて円弧状に崩壊した」とする調査結果を発表した。記事は「ラオス政府が公式に、今回の事故が韓国・SK建設の施工不良により発生したと認めたということ」と説明している。
これに対しSK建設は「科学的、工学的根拠がなく、同意できない部分が多い」と反発している。同社関係者は「漏水により円弧状に崩壊したのなら、事故前にダムの下段で土砂流出が目撃されているはずだが、そうした事実はない」などと主張しているという。
同社はこれまでも「ダムが崩壊したのではなく、異例の豪雨のため川が氾濫し、不可抗力的に補助ダムの上部が流出した」との立場を貫いてきた。そのため、責任の所在をめぐる戦いはさらに激しさを増すものとみられている。
これに、韓国のネットユーザーからは「ラオスで韓国とのワードがタブーになるかも。多くの被害者を出したのに知らんふりするんだから。本当にひどい」「多くの被害を被ったラオスの人たちに心から謝罪し、最大限の補償をしてほしい」「雨がたくさん降っただけでダムが崩壊したのに施工会社の責任じゃないだって?。誰の責任かは小学生でも分かるよ」「恥ずかしい。SKは早く責任を認めてほしい。それでこそ会社が発展する」など、SK建設側の責任とみる声が多く寄せられている。
一方で「ラオス政府に科学的に検証し、調査する能力はあるのか?」「SK建設が大雨を想定せずに建設したとは思えない。これは不運な天災だよ」「ラオスは補償を受けたいがために人災と主張しているのでは?」との声も寄せられている。(翻訳・編集/堂本)
◆2019年6月1日 Yahoo!ニュース
https://news.yahoo.co.jp/byline/dandoyasuharu/20190601-00128245/
ーダム崩壊の原因究明、韓国がズサンで被災者放置ー
昨年7月、ラオスで起きたダム崩壊の原因を調べた政府調査委は「不可抗力と言えず、ダムの建設地盤が不適切」と結論。これを拒否する施工の韓国SK建設はズサンな対応を続け、被災者が救済されない惨状が続きます。日本語で読めるニュースは中央日報の29日付《「ラオス補助ダム崩壊、防げた」という発表に韓国建設会社「同意できない」》ですが、読んでも意味不明の内容です。3月20日にラオスのバウントンチットマン副首相が地盤不良と言明したrfa.orgの記事を見ると、米スタンフォード大研究者の分析に依拠しているので、分析を詳報したASIA TIMESの《Collapsed Lao dam ‘was built on a sinkhole’》から見ましょう。
スタンフォード大のリチャード・ミーハン氏はラオスの隣国タイでダムを設計・施工した経験があり、今回のダム崩壊について解析を発表しています。上の模式図はミーハン氏が描いた図で、もとの図は断面図と平面図の境目が無かったので見やすいように水面上部の補助線を入れました。
崩壊したダムはダム湖の貯水面積を稼ぐための補助ダムであり、メインダムにほど近い谷間に700メートルにわたって架けられました。ダムの西端部が設けられた場所が沈み込む穴のような地形であるとミーハン氏は主張します。この場所には古い盆地があり、雨期になると深さ1-4メートルの水を湛えていたと言います。ダムは現地の赤土を盛って表面をアスファルトで覆っただけのアースフィルダムであり、盛土は吸水性に富んでいます。ダムの貯水が進むとダム湖の底は20メートルもの水圧に晒され旧盆地の底から水が漏れる経路が出来て大量洩れにつながり、やがてダムの基盤部も侵食して崩壊に至ったとの主張です。
ラオス副首相は「この地質が事前に分かっていればダムの建設を許可しなかっただろう」と言っています。
決壊した補助ダムの代わりに「1キロ離れた谷に長さ400メートルのコンクリートダムを建設中」と伝えられていますから、上の地図のグリーンの線あたりになるでしょう。
しかし、施工業者のSK建設は《「調査結果は事故前後に実施した精密地盤調査結果と一致しないなど科学的・工学的根拠が欠如している」としながら「経験的推論に過ぎない調査結果に同意することはできない」》と反発し、受け入れようとしません。調査委の認定では「ダムの水位は最大貯水レベルよりも十分低かったのに崩壊した」点も論拠とされ、これは下の、崩壊直前に満水になっている現場写真と明らかに矛盾します。
どうやら調査委はメインダムでの水位を基準に議論しているようです。第594回「決壊ダム高さ、コスト削減で6.4メートルもカット」で伝えたように、基本設計を大幅に変更して低い補助ダムを建設した事実をSK建設はきちんと説明しなかったのでしょうか。6.4メートルも低いダムだったのでSK建設が言うように大雨で氾濫、越流が起きた可能性もあるのですが、地域の降雨特性なども勘案して考えられた基本設計に手を付けたのが後ろめたいのでしょうか。この件に限らず韓国が関わると事件事故の細部を詰め切っていないズサンがよく発生して困ります。
《SK建設は「深層的かつ追加的な検証を通じて、すべての専門家が同意できる結果が導き出されるように最善の努力を尽くす」とし「当社は今回の結果発表とは関係なく、過去10カ月間行ってきたように、被害の復旧と補償のために最大限の努力を尽くす」と付け加えた》そうですが、いつまでも責任が確定しないズサンさのために被災者への補償や日常ケアは良好とは言えません。
◇被災者救済の現状は落第点
ASEAN Todayの3月4日付《Are recovery efforts for the Lao dam collapse failing local communities?》は人的被害を政府による数字として「死者40人、行方不明31人、7000人以上が立ち退き」としていますが、死者行方不明は800人に上るとする民間団体もあります。
《先月、ラオス政府の特別任務全国救済委員会は、ダム開発事業者に、当局が正式に死亡または行方不明を宣言した71人のそれぞれの家族に1万ドルを支払うように命じました。金額は昨年8月に最初に提供された 176米ドルよりはるかに優れていますが、これでもまだ不十分です》
この他に事業者側から提供されたのは仮設住宅用に80万ドル、救援活動の資金として1000万ドル、これと別にSK建設から1000万ドルの寄付があったと言います。こうした資金から洪水で立ち退いた避難民には月に20キロのコメと11.66米ドル、さらに1日当たり0.58米ドル相当の食料が与えられるのですが、食料供給は足りていません。
復興に向けて大きな問題があります。安全上の懸念から生存者は元の低地から乾燥した丘の中腹に移動することになり、これまでのように稲作で生きていけません。タピオカの原料であるキャッサバ芋を作ることになり、換金性は良いのですが市況の変動に踊らされて地域社会の生活が様変わりしてしまいそうです。何より食料自給が出来ません。
金額面だけ見ても十分な補償とはとても言えないと思いますし、本格的に治水工事をしてでも稲作を続ける基盤は整備すべきでしょう。