わが国では、問題のあるダム事業のほとんどがいまだに推進の方向にあります。
問題ダム事業をストップさせるため、引き続き市民運動を続けていかなければなりませんが、一方で中止されたダム事業も少なからずあります。2009年度からの国土交通省のダム検証で中止されたダム事業は30事業あります。反対運動の高まりで止まったダムもありますが、中止ダムの多くはダム事業者が継続の意思を持たなくなったこと、いわばダム事業者の都合によるものです。
しかし、事業を中止するためには、それなりの理由が必要です。ダムの目的を代替手段でどのように対応するかなどを明示する必要があります。
水問題研究家の嶋津暉之さん(当会運営委員)が30事業の中止理由を整理した表を以下に掲載します。参考にしていただければと思います。
中止ダムの資料は、「国会公共事業調査会(仮)準備会」(事務局 西島和弁護士)が「公共事業チェック議員の会」事務局長・初鹿明博衆議院議員に依頼して国土交通省から入手したものとのことです。
(以下の文字列、あるいは表をクリックすると拡大表示されます。)
上の表を見ると、洪水調節の目的については、ダム案よりも河川改修案が優位であるとしているものが多いです。緊急性が低いという理由もいくつかあります。
ダム事業者がダムを推進する時は代替手段よりダムが優位であるという理由を無理矢理作るものですが、中止の意思があるときは、代替手段の優位性や、緊急性の低さを簡単に認めることがよくわかります。
なお、「流水の正常な機能の維持」(渇水時の補給)の目的については、ダム案優位となっているダムもありますが、他の目的ではダム案が優位ではないということで中止の判断がされており、この目的が重要ではないことを物語っています。
群馬県では、八ッ場ダムの事業費が倍増されて全国トップとなることが公表された2003年に、それまで水資源機構が片品村で進めていた戸倉ダム事業が中止となり、県が旧・倉渕村(現・高崎市)で進めていた倉渕ダム事業(表の28)が凍結され、その後、中止となりました。
写真右=利根川に合流する手前の烏川。利根川上流の支川の中では最大の流域面積を有する。倉渕ダムは烏川の上流部に計画されていた。
両事業はすでに用地の買収を済ませ、水没地の道路付け替えなどの関連事業に数百円を投じていました。県営倉渕ダムについては、水道水の供給を受けることになっていた高崎市民などによる反対運動がありましたが、水資源機構が片品村で進めていた戸倉ダムについては、ほとんど反対運動がありませんでした。戸倉ダムの総貯水容量は 9,200万m3と八ッ場ダムに近い大きさで、ダムの建設目的は利根川の洪水調節、水道用水の供給など、八ッ場ダムと建設目的が重なるところが多い事業でした。
群馬県では2015年に県営増田川ダム事業(表の27)も中止となり、八ッ場ダム以外のすべてのダム事業が中止されたことになります。皮肉なことに、いずれも水没住民がいなかったため、ダム事業を中止するのが容易であったと言われます。
民主党政権が発足した2009年当時、ムダな公共事業のシンボルとして八ッ場ダムと並び称された川辺川ダム事業のある熊本県は、どうでしょうか。
国交省九州地方整備局の川辺川ダム事業は凍結されたままですが、洪水調節の代替案が決まらないため事業中止手続きがとれないことになっています。川辺川ダムをめぐっては、熊本県民の反対が強く、県や流域の自治体の首長は有権者の意見を代表して反対姿勢を示しています。ダム事業者(九州地方整備局)は、現状では川辺川ダム事業を推進できませんが、世論の反対が収まれば復活させたい意図があると見られています。
熊本県内では、国交省九州地方整備局が熊本地震の被災地に立野ダムを建設中で、熊本県営の路木ダムも建設中です。いずれも問題の多いダム事業ですが、事業者は反対の声を無視して工事を強行しています。