水問題研究家の嶋津暉之さん(元・東京都環境科学研究所研究員)が宮城県の水道民営化計画に関して情報公開請求を行いました。開示資料をもとに民営化の現実について分析した投稿を紹介させていただきます。
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「宮城県の水道・工業用水道・下水道の民営化計画の現実」
嶋津暉之
宮城県が水道用水供給事業、工業用水道事業、流域下水道事業の民営化を計画しています。
水道法が昨年12月に改正され、政府が民営化推進の旗振りをしていますが、多くの水道事業体は民営化について消極的です。しかし、その中で突出して民営化を推進しようとしているのが宮城県です。
村井 嘉浩知事の主導によるもので、村井知事は昨年12月、参議院厚生労働委員会で参考人として水道法改正賛成の意見を述べました。
宮城県が民営化を計画しているのは以下の「みやぎ型管理運営方式」に関する資料1「水道・工業用水道・下水道の民営化を進める宮城県」の1ページ目(→)に書かれているとおり、二つの水道用水供給事業、三つの工業用水道事業、四つの流域下水道事業です。
資料の2ページ目(↓)に書かれているように、民営化を計画しているのは、水道用水供給事業、工業用水道事業、流域下水道事業の管路を除く処理場等の部分で、資産の割合としては3割にとどまります。
3ページ目にあるように、民営化することにより、20年間で水道・工業用水道・下水道で335〜546億円(現在価値化後の数字は166〜386億円)の費用を削減できることになっています。
〔注〕現在価値に換算した金額:将来の価値を20年国債の利率で割り引いて20年間の効果を現在価値に換算した金額(割引率1.59%/年)
ここで不思議に思うのは、民営化すれば、20年間で水道・工業用水道・下水道で335〜546億円も費用を削減できることになっていることです。これだけ巨額の費用を削減できるならば、民営化すべきだという話になりますが、この数字にどれほどの根拠があるのでしょうか。
この根拠を知るため、宮城県に対して情報公開請求を行いました。精査が必要ということで開示が延期され、つい最近になってようやく開示されました。
開示された資料は、「みやぎ型管理運営方式導入可能性等調査業務報告書」です。その中で、上記の費用削減計算の前提条件を記したのが、右の資料2「みやぎ型管理運営方式導入調査業務報告書 本編 201803(抜粋)」です。
驚くことに、上記の費用削減額は民営化で削減できる個々の費用を積み上げて求めたものではなく、民営化による費用削減率を単純に10〜45%に設定して求めたものでした。
その根拠が2ページ目の「経費等削減率」の「主なポイント」の「方針」の欄に次のように書いてあります。
「民間事業者に対するマーケットサウンディングを通じて,標準的に達成可能と見込まれる経費等削減率についてヒアリングを行い,その結果をもとに設定した。」
マーケットサウンディングとは、事前に広く意見や提案を求める対話型の市場調査のことですが、要するに、民営化を受注する可能性がある会社にどれくらい費用を削減できるかを聞いただけだということです。そのような会社は当然、費用をかなり削減できると答えるに決まっています。実際の具体的な根拠は何もありません。
この程度のデータで宮城県において水道等の民営化が進められていくのですから、本当に大丈夫かと思ってしまいます。
水道等の事業は施設の老朽化、人口等の減少による料金収入の長期的減少、技術職員減少による技術継承への懸念という深刻な問題に直面していることは事実であり、対応策を真剣に考えなければなりません。
しかし、民営化すれば、それらの問題が本当に解消できるのでしょうか。魔法の杖のような方法があるのでしょうか。それらの問題を解消できる方法がもしあるならば、その方法の詳細を徹底的に調べて、公共のままで、そのような方法の導入に努めればよいのではないでしょうか。
民営化すれば、それらの問題が解消できるような宣伝に惑わされてはなりません。