八ッ場ダム事業では、水没五地区の各地区に国と関係都県の負担金で多くの「地域振興施設」や道路が整備されつつあります。
これまではプラス面ばかりがスポットライトを浴びてきた「地域振興施設」ですが、事業の完了が近づいてきた今、これらの施設の維持管理が地元自治体にとって大きな負担になることに目が向けられるようになってきています。
この問題について、上毛新聞社会面の記事、朝日新聞群馬版の記事に続き、読売新聞が知事選、参院選を前に辛口の記事を掲載しました。
写真右=読売新聞の記事で取り上げられているJR長野原草津口駅(右側)と「生活再建施設」の長野原・草津・六合ステーション(左側の白い建物)
この記事では地域振興施設を「生活再建施設」としています。施設の維持管理費が町の財政負担となることについて、記事の末尾では町民の間に危機感が浸透していないことに触れています。10年前の民主党政権発足時には、八ッ場ダムを中止すれば町の財政が破綻すると町民の不安を煽ってダム推進キャンペーンを繰り広げ、ダム事業の支障になるマイナス面を伏せてきたのですから、無理もありません。
紙面より転載します。
◆2019年6月26日 読売新聞群馬版
ーぐんまの課題 迫る選挙 ダム周辺「再建」に負担 ハコモノ地元が維持管理ー
JRながら野原草津口駅(長野原町)の改札を抜けて西に向かうと、まだ新しいクリーム色の洋風建物が見えた。4年前に開業した商業施設「長野原・草津・六合ステーション」だ。1階には食堂と土産物売り場、2階には小学校の教室ほどの休憩スペース。24日昼、特急列車から降りてきた観光客らがぽつぽつと入っていく。月曜だったせいか、食堂には空席が目立った。
この施設は、八ッ場ダム周辺住民の「生活再建」を目的に建てられた。計画から67年、ダムは来年3月に完成する。「皆さんの苦しみを思い起こす・・・」。本体工事がほぼ終わった今月12日、大沢知事は地元での式典でそう述べ、住民を支える姿勢を強調した。しかし、「生活再建」で整備されたハコモノの維持管理を負担していくのは地元だ。
5320億円に膨れ上がったダム事業費とは別に、水源地域対策特別措置法や利根川・荒川水源地域対策基金による生活再建事業で、ダム受益者のうち1都4県(東京、群馬、埼玉、千葉、茨城)と国は約1175億円を分担している。昨年度までに道路や宿泊施設、商業施設の整備など54件の事業が完了した。「長野原・草津・六合ステーション」もその一つだ。
これらの維持管理の費用はどれぐらいになるのか。
長野原町の財政規模は、150億円程度。維持管理に充てる財源は、今年度末で15億円を目標に積み立てている基金に加え、施設の委託運営先から納付される指定管理料がある。だが、施設が赤字なら、町の取り分はない。町は「しっかり運営できるよう、施設の誘客に取り組んでいく」(ダム対策課)とするが、たいていの誘客策には金がかかる。
町は昨年3月、県と「確認書」を交わしている。①ダム完成後10年間は、県の支援機関を地元に設置 ②一部の町道を県道にして県が管理 ③橋の架け替えに伴う支援ーという内容だ。県の対応への期待は大きい。
一方、水没予定地の住民でつくる八ッ場ダム水没関係五地区連合対策委員会は今月上旬、生活再建施設の維持管理費の試算を町に要望した。町民の間に危機感が浸透していないことを案じたからだ。町は「大まかな数字を年内に出したい」とする。
ダムの完成は必ずしも明るい未来を約束するものではない。対策委の委員長を務める桜井芳樹さん(69)も不安をぬぐえない。「これから人口減にも拍車がかかる。下手をすれば、町がお化け屋敷のようになってしまうのではないか」(竹田迅岐、石川祐司)
写真下=水没五地区の中で最も地域振興施設の計画が遅れた川原湯地区では、JR川原湯温泉駅の脇にアウトドアレジャーなどを目的とした施設が来年開業することになっている。2019年5月撮影。
写真下=川原畑地区の地域振興施設「クラインガルテンやんば」(菜園付き別荘)は、穴山沢の大規模埋め立て造成地に整備。地区住民が運営を断ったため、2014年開業当初から町が直接運営。2018年10月撮影。