日本経済新聞が現在の水道事業が抱えている問題を整理し、全国の815市区を対象に水道事業の広域化と民営化を聞いた結果を報道しています。100以上が広域化を実施・検討しているが、民営化を前提に検討」と前向きなのは山口県山陽小野田市や愛媛県伊予市など5とわずかであったということです。
日本では水道の広域化は進んでいくでしょうが、水道の民営化はほとんどの自治体が消極的のようです。
◆2019年7月4日 日本経済新聞
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO46892240T00C19A7940M00/
ー岐路に立つ水道事業 100超の市が広域化を実施・検討ー
地方自治体の水道経営が岐路に立っている。人口減少で利用者が減り、水道収入は先細りが明らかだ。一方で高度成長期にかけて整備した水道管の老朽化が進み、地震など防災面から設備更新を迫られている。現状のままでは経営が立ちゆかなくなることが確実。このため複数の自治体による広域化で事業基盤を強化する動きが相次いでいる。日経グローカルの調査では100を超える市が広域化を実施・検討していると答えた。国が昨年12月の水道法改正で促した、運営を民間に委ねるコンセッション方式を導入する地域も登場した。ただ、管路などの更新のために水道料金の引き上げは避けられず、住民の理解を得るための説明責任がなお一層求められる。
(詳細は日経グローカル366号に掲載)
人口減で細る水需要、膨らむ施設更新費用 昨年6月に、震度6弱を記録した大阪北部地震。大阪府高槻市などで、約9万4000戸が最大2日間にわたって断水した。同市では40年の法定耐用年数を超える老朽水道管が破裂し、道路が陥没。周辺はあふれた水で池のようになった。給水車の前には水を求める住民の長蛇の列ができた。
日本の水道事業は課題が山積している、中でも最も深刻なのが老朽化した水道管の大量更新だ。日本水道協会によると、市町村などの末端給水事業(上水道事業、給水人口5000人超)と末端給水事業者に水を供給する都道府県などの用水供給事業で、設置が40年超の水道管の割合(管路経年化率)は、2016年に全国平均で14.8%まで高まった。地震で甚大な被害が発生した大阪府は高度成長期に人口が増えたうえに1970年の大阪万博もあって、水道網を全国に先駆けて整備した。その分、老朽化も進んでおり、老朽水道管の比率が約30%と全国でも突出している。
1%に満たない年間の管路更新率
一方、全国の全体の管路の中で1年間に更新された割合を示す管路更新率は、16年はわずか0.75%だった。11年の東日本大震災の断水戸数は約257万戸、16年の熊本地震でも約44万6000戸が断水した。南海トラフ地震や首都直下地震の発生も危惧される中で、水の供給に重要な導水管や送水管といった管路の耐震適合率は「全国平均で4割に満たない」(厚生労働省水道課)。
水道事業は浄水場、配水管など施設型産業で、老朽化した施設の改良には莫大な費用が発生する。水道協会のまとめによると本来は全国で年間1兆4000億円の改良費が必要だが16年の投資額(建設改良費)は1兆1476億円で約2500億円の乖離(かいり)があるという。
水道管の設備などが滞り、自治体の水道経営に厳しさが増してきたのは、人口減少や住民の節水意識の高まりによる給水収入のダウンだ。使用水量は2000年をピークに減少しており、65年にはピーク時より約4割も減少する。経営状況が厳しい要因は人口減少だけではない。「事業を推進するために欠かせなかった国の財政支援が大幅に減少した」(日本水道協会)。同協会によると国の補助金などの支援は1998年に3011億円あったのが、施設の更新に対する補助が少ないなどの理由から、2018年は675億円と8割近く減った。
自治体にとっては、国に頼らず自立し、水道事業を維持する必要性に迫られている。地方公共団体が経営する水道事業の数は2017年度で1926事業。このうち上水道事業は1282、簡易水道事業(給水人口5000人以下)は573、用水供給事業は71だ。上水道事業と簡易水道を給水人口規模別にみるとほとんどの事業が5万人未満。水道収入の減少で、設備の更新に回せる余裕は市町村には、もはやないようにみえる。
水道法の改正、広域連携を促す
「これまで以上に効率化を追求し、管路耐震化の迅速化など安心、安全な水道事業運営を行うため、府域一水道も見据えつつ、水道法の改正を機として、公共施設等運営権(コンセッション)制度導入の再チャレンジなど、新たな経営手法への見直しを行う」。大阪府知事選と大阪市長選で勝利した日本維新の会(大阪維新の会)は、マニフェストで水道事業の広域化や民営化を掲げた。
広域化では大阪府が市町村単位の水道事業を統合して運営基盤を強化し、耐震化や施設再編を進める。民営化は大阪市がPFI(民間資金を活用した社会資本の整備)方式で管路更新事業に民間に委託する。
水道法の改正で国は広域連携の推進を含む水道の基盤を強化する基本方針を定めることが盛り込まれた。総務省と厚生労働省は都道府県にリーダーシップをとってもらうため具体的なアクションプログラムを盛り込んだ「水道広域化推進プラン」の策定を要請。大阪府や奈良県などすでに市町村と連携を進めている自治体もあり、法改正が経営合理化の弾みになることが期待されている。
すでに広域化は34自治体
日経グローカルでは全国792市と東京23区の815市区を対象に、2~4月に実施した2019年度の予算・事業調査で水道事業について聞いた。簡易水道を含む水道事業の広域化は、回答した711の市のうち、「可否を検討」が204、「前提に検討」が72だった(図4)。最多は「広域化する予定はない」の259だった。「すでに広域化している」と回答した岩手中部水道企業団の北上市や花巻市の34を加えると100以上が広域化を実施・検討している。
また「その他」と回答した自治体の中には、「県主催の広域連携検討会に参加」(栃木県大田原市)、「県主催の研究会に参加」(岐阜県海津市)、「検討を始める予定」(京都府京丹後市)などの自由記入も含まれており、実際はかなりの自治体が広域化を視野に入れているともとれそうだ。
民営化については、回答自治体785市区のうち最も多かったのは「民営化の予定はない」が622で、8割近くを占めた。「すでに(一部を)民営化している」は19にとどまった。浄水場の運営や料金徴収など一部業務を委託しているもようだ。「民営化を前提に検討」と前向きなのは山口県山陽小野田市や愛媛県伊予市など5とわずか。「民営化の可否を検討」は岩手県八幡平市、千葉県市原市、愛知県豊川市、宮崎県小林市など20と少数だった。「水道事業は手掛けていない」は東京都水道局がある都内を中心に74あった。
設問の民営化は本来は「水道事業者が水道法に基づく事業の認可を返上して、民間事業者がその区域で水道事業を運営するというイメージ」(厚労省)。今回の水道法改正では自治体が認可を返上しないで民間に業務を委託するコンセッション方式が使いやすくなった。民営化に前向きな自治体も法改正を踏まえて事業認可の返上までは考えず「民間活用」という意味合いで回答したとみられる。
調査では水道料金の改定についても尋ね、707の市が回答した。設問は10月に予定される消費税率の引き上げに伴う値上げも含めた。最も多かったのが「19年度に値上げすることを決めた」の256だった。「19年度の値上げを検討している」の214を合わせると、約3分の2を占めた。また「その他」は108あったが、自由記入で徳島県阿波市のように「消費税率の引き上げに併せて税率引き上げ相当分を値上げする予定」と記載した自治体が目立った。