昨夏の西日本豪雨では、全国の8基の治水ダムが満水になり、緊急放流を行いました。水資源機構の日吉ダム(京都府)もその一つです。第二波の洪水が来たときはダムはすでに満水状態であったので、流入水がほぼそのまま放流されました。幸いなことに、第二波の洪水がやや小さかったので、ダム下流は難を免れました。
日吉ダムの管理所長のインタビュー記事が京都新聞に掲載されました。京都新聞の記事タイトルは、「「異常洪水時は命守る行動を」日吉ダム所長に聞く」ですが、この記事を紹介したYahoo!ニュースでは、日吉ダム所長が住民へのメッセージとして述べたという「ダムだけでは防ぎきれない洪水は起こりえる。」という言葉をタイトルに掲げています。
ダムの機能を知れば、ダムだけでは防ぎきれない洪水が起こりえることは自明ですが、行政が時間も費用のかかるダム事業を推進するためにダムのメリットを誇大に宣伝してきたあまり、わが国では流域住民が「ダムがあるから洪水はありえない」と思い込んでしまう「ダム神話」が広く浸透し、ダムが万能であることを求められる事態となっています。
◆2019年7月3日 京都新聞
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20190703-00010004-kyt-l26
ー「ダムで防ぎきれない洪水もある。異常洪水時は命守る行動を」 京都・日吉ダム所長に聞くー
昨年の西日本豪雨で満水となり、運用開始以来初の非常用ゲートで放流した京都府南丹市日吉町の日吉ダム。豪雨から1年になるのを前に水資源機構日吉ダム管理所の新井誠輔所長(54)に当時の対応や今後の対策などを尋ねた。
―西日本豪雨の時の状況は。
7月3日から8日まで累計雨量が492ミリに達し、4回の雨のピークが来た。流入量が、最大となった3回目のピーク時には下流に流れる水量の9割をカットした。操作を続けた結果、貯水位は洪水時最高貯水位の201メートルに達する見込みとなり、その後も雨が予想されたことから、6日午前4時から異常洪水時防災操作を開始した。操作はダムの流入量と同じ量を放流するもので、通常は下流に最大毎秒150トンを流しているが、4回目の雨がきて最大毎秒907トンに達しざるを得なかった。
―ダムの効果は。
京セラドーム大阪36杯分にあたる4337万立方メートルの水をダムにため込んだ。亀岡市の保津橋地点での最高水位は5・34メートルで0・76メートル以上水位を低減した。下流に水を流すピークを、16時間遅らせることができ、避難に役立った。
―非常用ゲートを開放した意味は。
西日本豪雨では国土交通省所管の全国558ダムのうちに異常洪水時防災操作をしたのは8ダム。日吉ダムでは毎秒500トンまで対応できる常用放流ゲートを使用しているが、流入量が上回ったため、非常用ゲートを併用した。非常用は最大毎秒3100トンを流せ、能力いっぱいの運用ではなかった。
―西日本豪雨では愛媛県のダムの緊急放流が問題となった。大雨に備えた事前放流や下流住民への周知など見直すことは。
国交省の検討会の提言を踏まえ、効果的なダム操作を検討している段階だ。情報提供は、南丹市などの関係機関への連絡をより緊迫感の伝わる文面に変え、河川周辺についているサイレンやスピーカー放送も従来は川の中に向かって呼び掛けていたが、近隣の人家に届くよう充実する。直下の南丹市と連携し、ダムの操作を防災行政無線やケーブルテレビで伝えることを新たに取り組む。川沿いの住民に放流警報や豪雨の対応について説明会を行い、どのような時に危険なのか、理解を深めてもらっている。
―平常時の利水の取り組みは。
ダムは洪水調節に加えて農業用水や生態系保全のために、一定の水量が確保できる補給を行っている。桂川や淀川から取水している京阪神地域の水道用水確保も担っている。生態系に悪影響を与える冷水や濁水を避けるため、可動式の取水口で水位を変えて水温が高い層や濁りが少ない層から水を取る工夫をしている。
―住民に向けてメッセージを。
ダムだけでは防ぎきれない洪水は起こりえる。行政の避難指示やダムの放流警報を十分理解していただき、異常洪水時にはちゅうちょなく、命を守る行動につなげてほしい。