群馬県議会では、今年度、防災減災対策特別委員会が設置されました。6月6日の同委員会では、伊藤祐司議員(共産)が洪水対策と八ッ場ダムに関して質疑を行いました。伊藤議員の質疑の概要をお伝えします。
なお、*は当会のコメントです。
1. 県営ダムの堆砂状況
伊藤祐司議員(共産)「昨夏の西日本豪雨では、満杯になったダムが緊急放流を行ったことで、ダム下流が大きな水害となった。群馬の県営ダムの洪水調節はどのような方法で行っているのか?」
水害対策室長「洪水時にゲートによる調節を人為的に行う県営ダムはない。ダム堤に大きな穴が開いており、一定の水位になればダムから流れるようになっている」
伊藤議員「各ダムの堆砂状況はどうなっているのか?」
水害対策室長「県営ダムは7つある。古い順から、霧積ダム(安中市、1975年)106.5% 、桐生川ダム(桐生市、1982年)40% 、道平川ダム(下仁田町、1992年)145.3% 、坂本ダム(安中市、1994年)95.1% 、塩沢ダム(神流町、1995年)101.7% 、四万川ダム(中之条町、1999年)12.1% 、大仁田ダム(南牧村、2001年)27.7% である。」
伊藤議員「ダム計画では100年間の堆砂容量を見込むが、県営ダムは計画よりはるかに堆砂が進行しているダムが多い。 特に霧積ダム(1975年)、道平川ダム(1992年)、塩沢ダム(1995年)は堆砂率が100%を超えてしまっている。これらのダムは、八ッ場ダムとよく似た地質のところにある。堆砂が進行しているダムでは、たまった土砂を掘削しなければ治水容量を確保できないが、どのような対策を行っているのか?」
水害対策室長「貯水位を下げ、土砂の撤去作業を行っている。霧積ダムでは年間1万7000㎥の土砂を撤去するとともに、ダム湖上流端に貯砂ダムを建設している」
伊藤議員「霧積ダムの堆砂容量は40万㎥。もう少し掘削のテンポを挙げないと、埒が明かないのではないか?」
水害対策室長「浚渫費用がかかるので、できるだけ効率的な方法を検討している」
伊藤議員「浚渫土砂も含め、関係機関と協議して抜本的な対策に取り組むことを要望する」
*堆砂は洪水拡大の要因にもなります。 国直轄ダムより、小規模で予算も限られる県営ダムの堆砂は、殆ど関係者以外には知られていませんが、今後深刻な問題となっていくと思われます。
2. 県管理の河川の整備状況
伊藤議員「昨年の西日本豪雨は、堤防整備や河道の掘削などの河川整備の重要性を改めて浮き彫りにした。県管理の河川のうち、2009年までに河川整備が完了したのは32.3%、2018年までに完了したのが35.4%。10年間で3.1%しか増えていなかった。このテンポでいくと、200年たっても河川整備は終わらない。西日本豪雨を受けて、今年度から多少予算が増えると聞くが、具体的にどうなるのか?」
河川課長「国が策定した『防災減災国土強靭化のための3か年緊急対策』を最大限に活用し、河川整備を加速させる。『はばたけ群馬・県土整備プラン』で目標を掲げており、令和9年度までに河川整備延長64.1キロにする。通常のペースだと、令和2年38.9キロ、令和9年44.9キロでプラス6キロだが、70%以上増えることになる。
伊藤議員「200年たっても終わらない今のテンポを倍にしても100年かかる。もっと河川整備のテンポを上げる必要があるのではないか。でっかいダムはスーパーゼネコンでなければできないが、河川整備は地域の業者ができる。地域にお金が回るのはこちらの方。もう少し河川整備に力を入れていただきたい」
3. 八ッ場ダム事業における安全対策について
伊藤議員「八ッ場ダムの水没住民の生活再建対策は、“現地再建ずり上がり方式”が採用され、大規模な切り土と盛り土によって移転代替地が造成された。谷埋め盛り土はところにより30メートル以上の高盛り土で、対策工事を実施しなければ宅地造成等規制法の安全基準を満たさない。国交省は2011年に代替地の安全対策と地すべり対策の対象箇所と対策工法、対策費を明らかにしたが、その後、対象箇所は減らされ、対策工法もより安価な工法に変更されてきている。
このことは私も質問してきたが、この問題に取り組んできた八ッ場あしたの会は、今年3月に国交省に15項目にわたる公開質問書を提出した。公開質問書の作成には、多くの科学者や土木技術者が加わっている。これに対して、国交省が4月に回答した内容は、非常に不誠実なものであった。
(*このあと、伊藤議員は国交省による安全対策の内容と公開質問の概要を説明ー省略
参照➡「八ッ場ダムの安全対策に関する 公開質問書への国交省八ッ場ダム工事事務所の回答」)
写真下=川原湯地区の水没住民の移転地として、ダム堤の右岸側に造成された打越代替地。代替地の三箇所の谷埋め盛り土の部分で安全対策工事が行われている。2019年7月17日撮影。
国交省の回答は、技術的な指針に則って決めたというだけで、その具体的な根拠は明らかにせず、試験湛水により安全性を確認する、というのみ。県民の安全に関わることで非常に心配である。県としても国交省に質すべき問題ではないか?」
特定ダム対策課長「県としては、地元住民が代替地で安心して生活を送ることは、最も優先されるべきことと思っている。その上で、国がダム事業者として、安全な代替地を提供することは、生活再建の基本であり、ダム事業の前提であると考えている。今後も国が事業者として説明責任を果たしていくべきものと思っているが、さらに今回、質問の回答の中に、地元の皆様が不安を感じることがあるのであれば、県としては国に説明を求めていく」
伊藤議員「地元の皆さんが不安を感じなければいいというのは、ちょっと違うと思う。やはり、地すべり等の安全対策は、数値や様々な専門的な知見でやっているのだから、それは県土整備部として、こういう回答で安全性を保てるのかどうか判断するべきではないか?」
特定ダム対策課長「今回の(あしたの会と国交省の)公開質問のやり取りについて、質問の主旨を踏まえて国の方にも確認させていただいた。公開質問について4月19日付で国交省から回答があり、5月16日に国会の「公共事業チェック議員の会」がヒアリングを行ったということだ。ヒアリングの際の質問について、国は回答期限に応じて対応しているということで、追加の質問も含めて順次対応されるということだ」
*参照➡「八ッ場ダムの安全対策について、国会の議員連盟、国交省にヒアリング」
伊藤議員「私もそのヒアリングに参加した。国交省から回答が届いたら、全部課長さんにお見せするから、ちゃんと県としても、これで大丈夫なのかと判断してもらいたい」
特定ダム対策課長「繰り返しで恐縮だが、国が事業主体として、しっかりと責任をもって安全性を確認していただきたい」
伊藤議員「国交省から、試験湛水で安全を確認すると、これまでとほとんど同じような回答がきたら、それで県はハイ、オーケーと言うのか? 国を信じますで終わりか? これ以上言っても答えは変わらないと思うので抑えるが、国交省の回答を見ると、試験湛水は試しのようなものと思う。もし湛水してすべり出したら、ダムは完成しない。大滝ダム(奈良県、国交省近畿地方整備局)は2002年に堤体が完成し、試験湛水を始めたら38戸が暮らす白屋地区の尾根がすべり始め、地割れが発生して、全戸移転した。その後も他地区で地すべりの危険性が判明し、押さえ盛り土工法や鋼管杭工法、アンカーボルト工法など様々な対策を308億円、10年かけてやっと完成した。滝沢ダム(埼玉県、独・水資源機構)は秩父の山奥で、山梨県に抜けていく国道の脇に建設されたが、2005年に堤体完成、試験湛水で地すべりが発生し、水を抜いて対策して、試験湛水を再開したら、また別の所がすべり、3、4度こんなことを繰り返した。地すべり対策の費用145億円、ダムの完成が2011年だった。今の段階で、試験湛水ですべったら何とかするというんじゃ、いつまでたっても完成しないということになりかねないので、県は国に対してきちんと安全性の検証を求めるべきだと強く言って、私の質問を終わります。」
*地すべり対策など、新たに費用がかかる場合には、ダム基本計画の変更により、事業費が増額されることになります。増額による負担は、これまでの増額と同様、関係都県が計画変更を受け入れた場合は、ダム基本計画であらかじめ定められた割合に応じて、国と関係都県が負担することになります。