マスコミ各社がダム事業者(国交省関東地方整備局)が主催する八ッ場ダムの無料ツアーに多くの観光客が気軽に(ぷらっと)参加している現象を繰り返し報道しています。
当会の見学会に参加する個人や団体の方々は、八ッ場ダムへの関心が高いため、一般には立ち入り禁止になっている工事現場や水没予定地も案内してもらえる国交省の八ッ場ツアーにも参加する方が大勢います。ダムに賛成、反対どちらの意見を聞いたうえで八ッ場ダムについて判断したいということなのですが、そうした方々からよく聞くのは、「コンシェルジェ」と呼ばれるツアーの女性ガイドの説明は、国交省八ッ場ダム工事事務所から渡された八ッ場ダムの宣伝文を繰り返すだけで、参加者が見学中にダムについて疑問に思ったことを質問しても答えてくれない、との不満です。
以下の記事は、これまでも同様の記事を書いてきた記者によるものです。
草津温泉への観光ルートの国道沿いで、国が無料で有名な八ッ場ダムの見学会を毎日開催すれば、参加者が多いのは当たり前のように思えますが、記者にとっては繰り返し書くべきニュースのようです。
八ッ場ダム事業の現場では、川原湯温泉の維持管理、名勝・吾妻峡の破壊、水質、地質など問題が山積していますが、国交省のツアーでも、以下の記事でも、そうした問題には一切触れません。ダムに限らず、広告を見たり聞いたりしているだけでは、本当のことは何もわかりません。
◆2019年8月13日 日経コンストラクション
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO47950900Q9A730C1000000/
ー「八ツ場ダム」見学者10倍 観光スポット成功の秘訣 ー
社会インフラを観光資源として活用する「インフラツーリズム」がブームを呼んでいる。なかでも建設中の八ツ場ダムは、年間5万人以上がツアーに参加する人気の観光スポットだ。これほど多くの人を引き付ける魅力は何なのか。ツアーに参加して、成功のポイントを探った。
■ぷらっと見学、平日でも50人
群馬県長野原町の山あいに、観光スポットとして土木関係者のみならず一般の人にも名の知れた土木構造物がある。八ツ場ダムだ。
ダムの見学者数は、2016年度の約2800人から17年度はツアー開始の影響で10倍の約2万9000人に、そして18年度は5万人を超えた。20年3月の完成を前にして人気は衰えず、来訪者は増え続けている。
「ダム見学はマニアの趣味」という既成概念を打ち破り、多くの人を引き付ける魅力とは何か──。それを探るべくダムツアーを体験してみた。
記者が参加したのは、「ぷらっと見学会」。思い立ったときに、気軽にダムに立ち寄れるツアーだ。予約は不要。簡単な登録だけで、専門ガイドの詳しい解説を聞きながら工事現場を無料で見られる。
6月のとある平日、集合場所に着くと、幅広い年齢層の男女50人ほどが集まっていた。
「参加者は、土木に関わりのない一般の人がほとんど。100人近く集まる回もある」と、ツアーを主催する国土交通省関東地方整備局八ツ場ダム工事事務所地域振興課の光部博課長は説明する。定員は40人と決めているが、基本的には訪れた人全員に対応しているようだ。
見学会では、ガイドと一緒にダム上流側の展望スポットに向かう。工事が終盤に差し掛かっているため、残念ながら現場には入れなかった。それでも参加者の多くが、解説に熱心に耳を傾けて感嘆の声を上げるなど、満喫していた。
1947年のカスリーン台風をきっかけに事業計画が始まったこと、本堤の工事前に道路の付け替えや家屋の移転といった様々な準備が必要なこと、コンクリートの打ち上げ方法などが、分かりやすく説明された。普段の生活でこうした話題に触れる機会はなかなかない。
■10種類の「今だけ、ここだけ」
八ツ場ダムでは、ぷらっと見学会以外にも、季節や対象者に合わせて10種類の見学プランを用意している。多くの人が訪れやすくなるポイントの一つだ。プランの内容は半年に1度見直す。ダムの見どころは、工事の進捗や紅葉など四季の環境の変化によって変わるためだ。
1人でも参加できるツアーには、ぷらっと見学会をはじめ、マニア向けのプラン、完成直前の期間限定で湛水池を巡るプランなどがある。
団体向けのツアーは、9月末まで予約がほぼ埋まっているほどの人気ぶりを見せる。例えばその一つの「やんばコンシェルジュご案内ツアー」では、ダムを下流側から見上げるスポットが好評だ。工事に伴って廃線になった線路を歩いて展望場所に向かうという特別感を味わえる。
■予想以上の人気で休日出勤も
どのツアーも、ガイドや交通整理は主にダム工事事務所の職員が担う。だからこそ、詳しくて分かりやすい解説ができ、参加者からの質問にもすぐに答えられる。
一方で、観光のノウハウが少ないなかで数多くのツアーを企画し、通常の業務に加えて観光客に対応するので苦労が絶えない。
「来訪者数の予測の難しさが課題だ。対応する職員にとって過度な負担にならないようにしたい」と光部課長は話す。
紅葉シーズンや、メディアでダムツアーが紹介されたときは、予想以上に観光客が増える。休日出勤で対応せざるを得なくなり、職員から不満が出たこともあったようだ。工事の最盛期に実施した夜の見学ツアーでは、40人の定員に対して約200人が殺到。路上駐車や渋滞が発生し、住民に迷惑がかかった。
それでも八ツ場ダム工事事務所が集客に力を入れるのは、ダムを生かして人を呼ぶことが、地域の活性化につながっているからだ。
■住民を分裂させたダムで町再建
八ツ場ダムは、事業の調査開始から約70年の時を費やしている。その間、国と地元の関係は悪化したうえ、住民同士もダム賛成派と反対派に分裂。09年に民主党政権によって工事が凍結したかと思えば11年に再稼働するなど、長野原町は長い年月を通してダムに翻弄され、疲弊した。
ダム完成後の地域の自立は、同町にとって最優先の課題となっていた。その方策を検討していた跡見学園女子大学観光コミュニティ学部観光デザイン学科の篠原靖准教授が目を付けたのが、町を苦しめ続けてきた八ツ場ダムそのものだった。
工事事務所と大学は協力してダムの観光資源化を企画し、一般的な現場見学とは異なる見せ方を考えた。先述した10種類のプランを打ち出したほか、現場見学で参加者がかぶるヘルメットでは10色分を用意。見た目の楽しさは、参加者の受けがいい。さらに、ロゴマークを作ってブランド感を演出し、メディアにも積極的にアピールした。
ダムの活用には、地元住民の協力も不可欠だ。ダムの集客効果を住民に認識してもらえたことで、17年11月には国と地域が団結して「チームやんば」を結成した。
これを機にガイドの認定試験を受ける地元住民が増え、18年10月からは、住民がダム工事への思いを語りながら案内するプランを有料化した。さらに、町内の対象店舗での買い物や飲食の代金を割り引くクーポンとして、ダムカードを活用した。
長野原町から車で30分ほどの距離には、年間300万人が訪れる草津温泉がある。地域が連携してダムの見せ方を変えた結果、足を延ばして町に立ち寄る人も増えた。
■民間主催ツアーは10倍以上に
八ツ場ダムのツアーは、土木構造物が社会基盤として生活を守るだけでなく、工夫して生かせば人を魅了できる力を秘めていることを教えてくれる。
工事前から話題性が高く、見た目の迫力もある八ツ場ダムは特別な存在だと思う人も多いだろう。だが、そう断定するのは早計だ。規模や種類を問わず、人を呼ぶインフラが今、全国で急増している。
国交省の調査によると、民間の旅行会社が企画したインフラツアーの件数は、16年4月と比べて19年4月には10倍以上に増えた。インフラが集客力のあるコンテンツとして注目されてきている証拠だ。
千葉工業大学創造工学部デザイン科学科の八馬智教授は、「マニアの趣味だった土木構造物を楽しむという視点が、一般の人にも拡大している」と説明する。
07年ごろに工場や鉄塔、水門をテーマにした写真集が続々と出版され、インフラがマニア以外の目に留まるようになった。その後、SNS(交流サイト)が普及してマニアなどが情報を発信したことで、インフラの機能ではなく景観に注目する流れが増した。
13年ごろには、インフラを旅行商品と捉える「インフラツーリズム」という言葉が生まれ、インフラの魅力をアピールして人を集める取り組みが各地で増え始めた。
国もインフラツーリズムに本腰を入れる。19年度は、国際観光旅客税を財源とする予算500億円のうち、インフラツーリズムの推進に初めて13億円の予算を割り当てた。国交省は、20年度までにインフラツアーの参加者を100万人に倍増させる方針だ。19年7月に、効果的な集客方法などを検討する社会実験の場として、全国で5カ所のモデル地区を選んだ。
(日経 xTECH/日経コンストラクション 三ケ尻智晴)