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八ッ場ダム関連工事、町道の「粗雑工事」で施工業者に指名停止措置

 国土交通省関東地方整備局は今年6月21日、八ッ場ダム事業において町道工事を施工した地元・長野原町の業者が粗雑工事を行ったとして、二か月の指名停止を発表しました。
 同局のサイトより転載します。

◆国土交通省関東地方整備局 記者発表
 http://www.ktr.mlit.go.jp/ktr_content/content/000749658.pdf

 指名停止措置について

 関東地方整備局は、吉澤建設株式会社(所在地 群馬県吾妻郡長野原町)に対して、指名停止措置を行いました。詳細は別紙のとおりです。

 発表記者クラブ 埼玉県政記者クラブ 竹芝記者クラブ 横浜海事記者クラブ 神奈川建設記者会

—転載終わり—

 このニュースは、発表記者クラブに地元の群馬県の記者クラブが含まれていなかったせいか、群馬県内で大きく取り上げられることはなかったのですが、日経xTECHが7月3日に詳しい記事を掲載しました。

 問題となったのは町道建設の際、使用した盛り土の土質による補強土壁のはらみ発生です。問題発生の理由について、記事では「この現場は工程が遅れ気味だった」と説明しています。
 問題が発覚した経緯については、発注者の関東地方整備局は昨年1月に完成検査を実施し、問題ないとしたにもかかわらず、受注者の吉澤建設がみずから、「自主的に壁面の経過観察を提案」し、「同社が18年2月中旬に、補強土壁の壁面部材メーカーに依頼して計測した」、「これを受け、受発注者間で対応を協議し、変状の大きな箇所の造り直しを決定。吉澤建設が18年6月から8カ月ほどかけて、壁面全体の4割に当たる約640m2を撤去・再構築した。費用3849万円は、同社が全て負担した。」と書かれています。

 八ッ場ダム予定地は地形・地質が複雑なため、関連工事は業者泣かせと地元ではいわれます。無理な工程のせいで、記事にあるように「工期厳守のプレッシャー」がかかっていたのだとしたら、このケースも業者泣かせの典型といえそうです。
 八ッ場ダムは本体工事がほぼ終了したものの、関連工事はまだ沢山残されています。「入札情報」によれば、問題が起きた「H28林地区橋梁他工事」は吉澤建設が2億3500万円で落札しています。

(以下の記事中の写真と資料は省略しました。)

◆2019年7月3日 日経xTECH
https://tech.nikkeibp.co.jp/atcl/nxt/column/18/00142/00478/?P=1
ー補強土壁にはらみ、土質の変化を知りながら施工ー

谷川 博(日経 xTECH/日経コンストラクション)

 国土交通省八ツ場ダム工事事務所が発注した道路工事で、完成後の補強土壁に基準値を超えるはらみ出しが発生した。施工者が、背面の盛り土を施工中に土質が変わっていることに気付きながら、そのまま工事を続けたことが原因とみられる。
 国交省関東地方整備局は、施工者の吉澤建設(群馬県長野原町)を2019年6月21日から2カ月の指名停止とした。

 吉澤建設が施工した補強土壁の全景。2018年1月の完成検査後、壁面の一部に基準値を超えるはらみが生じていることが発覚した(写真:国土交通省関東地方整備局)

 問題が生じたのは、八ツ場ダム建設に伴う町道の付け替え工事。斜面に高さ約10mの補強土壁を構築し、その背面に盛り土して道路を建設する。
 補強土壁とは、コンクリート製や鋼製の壁面部材と、そこから背面の盛り土に水平に挿入した補強材から成る擁壁だ。補強材と土との間で生じる摩擦を利用して、ほぼ垂直な壁面を支える。
 この町道では、帯状の補強材(ストリップ)を複数の層にして盛り土に挿入する「テールアルメ工法」を採用した。

 施工の様子。右手の壁面部材から背面の盛り土に補強材を水平に挿入する「テールアルメ工法」を採用した。土と補強材を幾層にも積み重ねる。補強材として、溶接構造用圧延鋼材(SM490A)に亜鉛メッキを施したものを使用した(写真:国土交通省関東地方整備局)

 標準断面図
 

 土の重量と強度が設計条件を下回る
 工事完了から約1カ月半後、壁面の一部で出来形管理基準を超える変位が発生した。
 補強土壁は、垂直に立てる設計だった。出来形管理基準では設計に対する天端の水平方向のずれを、高さの100分の3、かつ300mmまで許容している。
 八ツ場ダム工事事務所は18年1月に完成検査を実施。吉澤建設が提出した出来形管理図で、天端のずれが基準値内に収まっていたため、壁面の状態を特に問題視しなかった。
 ところが完成検査後、吉澤建設が自主的に壁面の経過観察を提案した。同社が18年2月中旬に、補強土壁の壁面部材メーカーに依頼して計測したところ、壁面の一部で基準値を超える最大306mmのはらみを確認した。壁面部材の複数箇所で水平目地に大きな目違いも生じていた。

 補強土壁の計測箇所(赤線部)と補修箇所(黄色と緑色の部分)。右上の図は出来高管理基準の内容。右側の2つの折れ線グラフは、測点7(上)と測点8(下)の計測結果。壁面にはらみが生じていることを示している(資料:国土交通省関東地方整備局)

 壁面部材の複数箇所で水平目地に目違いが生じた(写真:国土交通省関東地方整備局)

 壁面に306mmの変位が生じた箇所は、完成検査の対象の天端ではなかった。しかし、計測したメーカーは「基準値を超過しており、補強土壁が安定性を保っているとは言えない。地震などの災害時に目違いが進行し、背面の盛り土が流出して補強土壁が崩壊する恐れがある」と指摘した。
 これを受け、受発注者間で対応を協議し、変状の大きな箇所の造り直しを決定。吉澤建設が18年6月から8カ月ほどかけて、壁面全体の4割に当たる約640m2を撤去・再構築した。費用3849万円は、同社が全て負担した。

 背景に工期厳守のプレッシャーか
 既存壁面の撤去の際に盛り土を調査したところ、設計条件である単位体積重量20kN/m3と内部摩擦角35度をいずれも下回っていたことが判明。壁面のはらみの原因となっていた。

 盛り土には、主に現場付近の仮置き場にある土を使用した。施工前の土質試験では、使用する土が設計条件を満たしていることを受発注者ともに確認している。仮置き場には、八ツ場ダムの関連工事で発生する様々な土が集められているので、施工途中から発生箇所の違う土を使うようになったと考えられる。

 問題を調査した関東地整は、「吉澤建設は施工中に土の変化を把握していたはずだ」(技術調査課)と指摘する。完成検査後に同社が自主的に壁面の計測を申し出たのも、「まずいという思いがあったからではないか」(同)とみる。

 当初は土の運搬にダンプトラックを使用していたが、途中で車輪に履帯を巻いたキャリアダンプに切り替えている。盛り土の強度が低下したため、ダンプトラックのタイヤが土に取られて沈み込むようになったからだ。

 問題発覚後の八ツ場ダム工事事務所のヒアリングに対し、吉澤建設は「締め固め後の盛り土をダンプトラックが走行できない状態になった。それが壁面変位の原因ではないか」と回答している。ただ、土の変化に気付いた後も、土質試験を実施しなかったため、どのように性状が変わったのかを把握していなかった。

 関東地整の土木工事共通仕様書は、施工中に土の性状変化の疑いが生じたら、土質試験を実施して設計条件に合うかどうかを確認しなければならないと規定している。性状が変わっていた場合には、発注者と協議した上で設計をやり直すなどの対応を求めている。

 この現場は工程が遅れ気味だったので、吉澤建設はそうした手間を省こうとしたようだ。同社で工事を担当した現場代理人と監理技術者は、それぞれ30年以上と20年以上の実務経験を持つベテランだ。いずれも共通仕様書の内容を知っていたとみられる。

—転載終わり—

 国交省の記者発表では、工事現場が八ッ場ダム水没五地区の一つ、林地区とあるだけで、詳しい地名は書かれていないのですが、吾妻川を挟んで林地区の対岸にある横壁地区の付替え国道付近からは、記事中の写真と同じテールアルメ工法の擁壁が見えます(下の写真参照)。
 擁壁のすぐ下に見える白いラインは、吾妻川と並行して走っていた旧国道のガードレールです。場所は湖面橋となる丸岩大橋の上流側で、水没する下田橋と弁天橋の間に位置しています。
 この現場は、工事が始まる前は、約2万4000年前の浅間山の山体崩壊による泥流堆積物(応桑層)の露頭がよく見える場所であったそうです。問題となった土質は応桑層だったのでしょうか。(以下の写真は2019年7月17日撮影)

写真下=右側にテールアルメ工法の擁壁が、左側に吾妻川が見えます。左上の方にオレンジ色のシャベルカー、その右手に弁天橋の松の木がかすかに見えます。さらにその上には、水没地から代替地へ移転した長野原東中学が見えます。擁壁は水没線よりわずかに高い位置にあることがわかります。ダム湛水開始前に擁壁の工事を完了させる必要があり、工事がいそがれたのではないでしょうか。