長崎県が強行しようとしている石木ダム事業は、9月19日までの期限でダム予定地の地権者の所有権が国に移り、家屋を含まない土地の明け渡し期限が9月19日となっています。家屋のある土地の明け渡し期限は11月18日です。それ以降、ダム予定地で暮らすことは、法律上は「不法占拠」とされてしまいますが、13世帯の住民はふるさとに住み続けるということです。
9月19日に行われた、石木ダム予定地に暮らす住民(ダム反対地権者)と長崎県知事の面会についての当日のニュースをまとめました。(NHKニュースはこちらにまとめています。)
住民らはそれぞれの思いを込めて、強制収用をしないでほしいと中村法道知事 に訴えましたが、中村知事は表情一つ変えず、長崎県がこれまで主張してきたダムの必要性を繰り返しました。中村知事は、「これまでに災害を体験されたりあるいは渇水で非常に不自由な思いをされたりした方々もいらっしゃるわけで」と、利水(佐世保市の水道用水の供給)と治水(川棚川の洪水調節)を目的とする石木ダムの必要性を語っていますが、実際には石木ダム無しの今の暮らしで何の支障もありません。
石木ダムの裁判で原告住民側の証人となった嶋津暉之さん(元東京都環境科学研究所研究員)は次のように説明しています。
佐世保市は石木ダムの必要性を演出するため、渇水対策本部を頻繁に立ち上げていますが、実際に給水制限になったのは近年では12年前の2007年度冬期渇水だけです。
しかも、この時は減圧給水だけで対応できました。さらに、その後、給水量が2割程度減ってきていますので、今は同レベルの渇水が来ても、給水制限なしで十分に対応できます。佐世保市は今は渇水の心配はなくなっているのです。
また、災害については川棚川で洪水被害があったのは29年前の1990年洪水ですが、その後、河道整備が進み、氾濫の心配もなくなっています(港湾管理区間ということで、築堤されていないまま放置されている川棚大橋下流区間を除く)。
〈参考ページ〉「石木ダム工事差し止め訴訟における嶋津暉之さんの証言(長崎地裁佐世保支部)」
右写真=川棚川が大村湾に注ぐ河口付近(川棚大橋下流)。
現実を踏まえないで、知事が渇水や災害で石木ダムの偽りの必要性を語るのはやめてほしいと思います。
下図=佐世保市は過大な水需要予測にもとづいて、石木ダムの必要性を主張している。図作成=嶋津暉之。
◆2019年9月19日 共同通信
https://this.kiji.is/547249986274870369
ー長崎・石木ダム建設反対を訴え 地権者、知事と面会ー
長崎県と同県佐世保市が建設を予定している石木ダム(川棚町)を巡り、反対派の地権者らが19日、県庁で中村法道知事と面会した。この日は一部予定地の明け渡し期限で、20日には土地の権利がいったん国に移る。地権者は所有権を失う前に、計画への反対を改めて訴えた。
石木ダムは1962年、佐世保市の水不足解消や川棚町の治水を理由に県などが計画した。現在も水没予定地に13世帯約50人が住んでいる。
面会には約50人が参加した。幼い娘を連れて参加した男性は「住民の理解を得たいと言いながら、強制的に土地を奪おうとしている。これは人道上の問題だ」と声を荒らげた。
◆2019年9月19日 毎日新聞社会面
https://mainichi.jp/articles/20190919/k00/00m/040/235000c
ー石木ダム反対地権者ら、長崎知事に計画中止求める「故郷奪われるの絶対嫌」ー
長崎県と同県佐世保市が同県川棚町に建設を計画する石木ダムを巡り、事業に反対する地権者らが19日、長崎市の県庁で中村法道知事と面会した。同日は反対地権者らが予定地内に所有する土地約12万平方メートルの一部の明け渡し期限で、地権者らは改めて計画中止を求めた。
予定地内に暮らす幼児や90代の高齢者を含む13世帯の40人あまりが出席。炭谷(すみや)潤一さん(38)は「知事は『地権者の理解を得る努力をしたい』と言いながら、土地を奪い取ろうとしている」と批判し、高校2年の松本晏奈(はるな)さん(17)は「故郷が奪われるのは絶対嫌。不要なダムのために家を奪わないで」と声を詰まらせながら訴えた。
終了後に記者団の取材に応じた中村知事は「最も経済的、現実的な手段として石木ダムの建設を進める気持ちは変わっていない」と話した。
石木ダムは佐世保市の水不足解消などを目的に計画され、1975年に国が事業採択。県収用委員会が今年5月、約12万平方メートルの明け渡しを命じた。土地の所有権は20日に国に移り、事業完了後に県などに権利が移る。住民の家屋などがある場所は11月18日が立ち退きの期限で、その後は行政代執行も可能になる。【浅野翔太郎、田中韻】
◆2019年9月19日 朝日新聞
https://digital.asahi.com/articles/ASM9M346GM9MTOLB001.html?iref=com_alist_8
ー17歳「故郷奪われるのは絶対嫌」ダム建設進める知事にー
長崎県と佐世保市が川棚町で建設を進める石木ダムを巡り、水没予定地の川原(こうばる)地区に住む13世帯の地権者らが19日、県庁で中村法道知事と面会した。居住地の明け渡し期限が11月18日に迫る中、ふるさとに住み続ける決意を知事に伝え、強制収用に踏み切らないよう求めた。
面会に臨んだ住民は4歳~90代までの約50人。「知事、どれだけ弱い者いじめをするのですか?」。川原地区に4世代で住む自営業松本好央さん(44)が口火を切った。長女の晏奈(はるな)さん(17)は「ふるさとが奪われるのは絶対嫌です」と思いをしたためた手紙を読み上げ、知事に手渡した。
1975年に建設が決まった石木ダムは水没予定地の用地買収が進まず、県収用委員会は5月の裁決で、川原地区を含む約12万平方メートルの明け渡しを命じた。地権者の土地所有権は9月20日午前0時に国へ移り、11月18日までに居住地から立ち退かなければ、県は行政代執行による強制収用が可能になる。実際にこの手続きに踏み切るかどうかは知事の判断だ。
知事が立ち退きを拒む地権者と会うのは5年ぶりだったが、ダムの必要性を積極的に訴えることはせず、約2時間半の間、聞き役に回った。今後も面会の場を求める声には「機会を頂ければありがたい」と応じた。
ただ、面会後に取材に応じた知事は「事業全体を進めていく必要があると改めて感じた」と強調。代執行については「しかるべきタイミングで、決断をしなければならない」と述べた。(小川直樹)
◆2019年9月19日 長崎新聞
https://this.kiji.is/547266880116540513?c=39546741839462401
ー石木ダム再考し用地収用断念を 超党派議員の会が声明ー
長崎県と佐世保市が東彼川棚町に計画する石木ダム建設事業で、超党派の国会議員でつくる「公共事業チェック議員の会」は18日、県がダム事業を再考し用地の収用を断念するよう求める声明文を発表した。
同会は17日、国土交通省などに事業に関するヒアリングを実施。「非現実的な(水需要)予測値をもとにダムが必要だと主張するのはあまりにも無責任」「県と佐世保市が公開の場で、ダムが本当に必要か地権者と徹底した議論を行うことを求める」などとする声明を出した。
◆2019年9月19日 テレビ長崎
http://www.ktn.co.jp/news/20190919271273/
ー石木ダム反対地権者5年ぶりの知事面会ー
長崎県と佐世保市が川棚町に計画している石木ダム事業をめぐり、いまも建設予定地に住む地権者は19日、一部の土地の明け渡し期限を迎えました。
20日の午前0時をもって、所有権が長崎県に移るのを前に、地権者は中村知事と面会し、直接、ダム建設の中止を求めました。
長崎県庁をおとずれたのは石木ダムの建設予定地に暮らす4歳から92歳までの地権者、約50人です。
一部の土地の明け渡し期限を迎えた19日、知事との面会に臨みました。
「どうかこの事業の見直しを行い、とりやめを行っていただくようお願いします。知事しかいません、よろしくお願いします」
石木ダム事業は佐世保市の水不足解消や川棚川の洪水防止などを目的に1975年からすすめられています。
1982年、長崎県が強制測量に踏み切ったことで地権者との溝は深まり、建設予定地で暮らす住民はいまも、計画に反対の姿勢を崩していません。
ことし5月、長崎県収用委員会は建設に必要な土地を地権者の意思にかかわらず収用できるようにする裁決を下しました。
建物を除く土地は19日までに、家屋を含む土地は11月18日までに明け渡すよう求めていて、20日からは所有権が長崎県に移ります。
その期日である19日、地権者は約5年ぶりに中村知事と面会し、ふるさとへの思いを伝え強制収用の取りやめとダム建設中止を求めました。
地権者 松本 好央 さん 「生まれ育ったこの土地に住み続けることは悪いことなんでしょうか、私たちは何も悪いことはしていません。この先もずっと住み続けていきます」
最高齢・松本マツ さん(92)「この年になってどこに出て行けと言われるのですかね。私は殺されてもよか先はわかりませんので」
炭谷 沙桜 さん 「川原にダムをつくらないで下さい。私は川原が大好きです」
松本 晏奈 さん 「私たちを含む川原全てのものを奪わないでください私たちの思いをどうか受け取ってください」
地権者 炭谷 潤一 さん 「これだけの意思を示している今後も強行にすすめていくのかこれからも知事に問うていきたい」
地権者 岩本 宏之 さん 「とにかく私たちは動かない県がどういう風にするかだけ機動隊入れてやるかしないのか、その2つ」
2時間半におよぶ面会終了後の記者会見で中村知事は、地権者のふるさとへの思いは大切にしたいとしながらも、ダム事業をすすめる姿勢に変わりはないと強調しました。
中村 法道 知事 「一方でこれまでに災害を体験されたりあるいは渇水で非常に不自由な思いをされたりした方々もいらっしゃるわけで。事業全体を進めていく必要があるということを改めて感じた」
また強制的に住民を立ち退かせる行政代執行については、「総合的に慎重に検討すべき課題」とし、改めて話し合いの機会を設けたいと話しました。
5年ぶりの知事面会となりましたが、地権者との溝は埋まらないままです。