八ッ場あしたの会は八ッ場ダムが抱える問題を伝えるNGOです

台風19号、利根川における八ッ場ダムの洪水調節効果

 八ッ場ダムは10月1日に試験湛水を始めましたが、この台風による大雨で一気に水位が上がりました。
 右画像=10月13日の八ッ場ダム工事事務所ライブ映像

 今回の台風19号により、試験湛水中の八ッ場ダムの貯水量が一挙に増えました。八ッ場ダムの貯水量が急増したことに関して、
「台風19号では利根川中流の堤防が決壊寸前になった。決壊による大惨事を防いだのは八ッ場ダムの洪水調節効果があったからだ。八ッ場ダムの反対運動を進めてきたことを反省せよ」という趣旨の意見が寄せられています。

 利根川中流部の水位は確かにかなり上昇しましたが、決壊寸前という危機的な状況ではありませんでした。
 このことに関して、八ッ場ダム問題に長年取り組んできた嶋津暉之さん(当会運営委員、元東京都環境科学研究所研究員)が現時点でわかることを下記の通り整理しましたので、その結果を掲載します。

以下のコメントに出てくる河川行政の用語の意味
〈注1〉計画高水位・・・河川の水位は、ダムなどの洪水調節施設をつくる計画により、一定程度下がることが想定されています。堤防を整備する際には、計画高水位まで川の水が流れても耐えうるよう設計することになっています。

〈注2〉計画堤防高・・・計画高水位に余裕高を加算した堤防の高さ。

〈注3〉河川整備計画・・・河川管理者(利根川の場合は国土交通大臣)が定める具体的な河川整備に関する計画。

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 現時点のコメント(2019年10月14日 13時)

 現時点では、公表されている洪水のデータが限られていますので、言えることは限られていますが、国交省の水文水質データベースのデータを使って検討してみました。
 以下の左の図は利根川の群馬県伊勢崎市八斗島(やったじま)地点、右の図は埼玉県久喜市栗橋地点における今回の洪水の水位変化です。八斗島地点は利根川の中流部の最上流側、栗橋地点は中流部の最下流に近い場所です。(以下の図をクリックすると拡大表示されます。)

 今回の洪水で利根川の水位が計画高水位(注1)に近づきましたが、利根川本川は堤防の余裕高が2mあって、計画堤防高(注2)にはまだ十分な余裕がありました。
 したがって今回の台風では、八ッ場ダムの洪水貯留がなく、水位が多少上がったとしても、利根川が氾濫することは考えられませんでした。

 また、「国交省による八ッ場ダムの治水効果の計算結果(国交省の計算による八ッ場ダムの洪水ピーク流量削減率)」は以下の図とおりです。この図が示すように、八ッ場ダムの治水効果は下流に行くほど減衰していきますので、今回の八ッ場ダムの洪水貯留がなくても、利根川の中流下流の水位はそれほど上昇しなかったと考えられます。

★国交省の計算による八ッ場ダムの治水効果

 このことを数字で検討しました。
 上の栗橋地点のグラフでは、今回の洪水の最高水位は9.67mで、計画高水位9.9mに近い値になっています。栗橋地点の最近8年間の水位流量データから水位流量関係式をつくり(下記の図「栗橋の水位と流量の関係(利根川・栗橋地点の年最高水位と年最大流量の関係)」参照)、これを使って今回の最高水位から今回の最大流量を推測すると、約11,700㎥/秒となります。

 利根川河川整備計画では、計画高水位9.9mに対応する河道目標流量は14,000㎥/秒です。すなわち、今回の洪水は、水位は計画高水位に近いのですが、流量は河道目標流量より約2,300㎥/秒も小さいのです。このことは河床掘削作業が十分に行われず、そのために利根川中流部の河床が上昇して、流下能力が低下してきていることを意味します。
 下記の栗橋地点における水位と流量の関係図を見ると、河川整備計画に沿って河道の維持がされていれば、今回の洪水ピーク水位は70㎝程度下がっていたと推測されます。

 一方、八ッ場ダムの治水効果は「国交省による八ッ場ダムの治水効果の計算結果」を使うと、栗橋地点に近い江戸川上流端のピーク流量削減率は1/50~1/100洪水では3%前後です。
 今回の最大流量の推測値、約11,700㎥/秒を97%で割ると、12,060㎥/秒です。八ッ場ダムの効果がなければ、この程度のピーク流量になっていたことになります。
 12,060㎥/秒に対応する栗橋地点の水位を、上の図「栗橋の水位と流量の関係」から求めると9.84mになり、実績の9.67mより17㎝高くなりますが、大きな数字ではありません。
 八ッ場ダムがなければ大変なことになったという意見が聞かれますが、国交省の数字を使うと、八ッ場ダムの効果はこの程度のものなのです。

 河川整備計画に沿って河道の維持(河床掘削作業)に努めていれば、上記の通り、栗橋地点の水位は70cm程度低下していたのであっで、八ッ場ダムの小さな治水効果を期待するよりもそのことの方がはるかに重要です。