駿河湾産サクラエビの不漁をきっかけに堆砂問題がクローズアップされている日本軽金属の雨畑ダム(山梨県早川町)の上流域では、ダムの堆砂による水害に繰り返しみまわれています。このたびの台風19号でも大きな被害が発生しました。ダム上流域の住民らは、雨畑ダムの撤去を求めています。
雨畑ダムは総貯水容量の93~95%が土砂で埋まっています。(参照➡「堆砂が進行する雨畑ダムの定期検査結果(国交省開示資料)」)
わが国では、熊本県を流れる球磨川にあった荒瀬ダムの撤去が行われています。荒瀬ダムは水力発電を行っていましたが、ダム建設(1955年)から半世紀以上たち、ダム湖にたまる土砂の影響で水害が頻発、流域住民による撤去運動が実を結びました。ダムを管理していた熊本県による撤去工事は2012年に始まり、2018年に完了しました。米国ではより大規模なダムの撤去が短期間で行われているそうですが、荒瀬ダムでは河川環境への影響に配慮しつつ、慎重に工事が進められたということです。しかし、わが国では次なるダム撤去の予定は、今のところありません。(参照➡熊本県企業局 荒瀬ダム撤去HP)
雨畑ダムは山梨県にありますが、駿河湾のサクラエビ不漁をきっかけに精力的に取材してきた静岡新聞が今回も現場の映像をネット上に掲載しています。
◆2019年10月18日 静岡新聞
https://www.at-s.com/news/article/social/shizuoka/695108.html
ー【台風19号】水害再び「川が怖い」 山梨・孤立の雨畑ダム上流ー
駿河湾産サクラエビの不漁を機に注目される雨畑ダム上流の雨畑地区本村集落(山梨県早川町)は、台風19号による被害で今も36世帯67人が孤立している。ダムは日本軽金属が管理するが、下流の駿河湾では深刻な濁りを、上流では水害を度々引き起こす。17日、陸路で集落に入った。
集落に続く唯一の県道はえぐり取られ、河床が数十センチ上昇した雨畑川では重機が埋まる。土砂の持つエネルギーをまざまざと見せつけてくる。
中央道などの復旧が遅れ交通網が混乱する中「奥山梨」と呼ばれる集落周辺にまで県の手は回らず。被害状況は判然としない。「深さ4メートル10センチ、長さ80メートル」。17日、県道の被害を測量したのは国土交通省九州地方整備局職員だ。
「もう一回(台風が)来たら終わり」。自宅の数十メートル先まで土砂が迫った女性(72)は小雨が降る中、枝豆のさやをむしりながら語った。昨秋と今夏の台風でも堤防が決壊。この時も土砂が迫った。日軽金は雨畑川に数百メートルの土堤防を造成したが「また平らになってしまった」と女性。
9割以上が埋まるダム湖の堆砂問題は国が日軽金に行政指導をした。しかし、敷根功執行役員は「撤去量については現実的な対策案を作らなければならない」とし、いまも手付かず。血圧を測りに来た保健師に手を振って別れた1人暮らしの女性(83)も「昔は深い谷で、ヤマメやワカサギがいっぱいいた。今は川が怖くてたまらない」とし、「次の雨が心配で」と訴える。
日軽金は被災後、仮設道路設置を県に申し出た。しかし、19日まで雨予報。工事は遅れ「いつ孤立状態が解消するか分からない」(県担当者)。畑の間を抜ける、やっと1人が通れる狭い道だけが集落と外を結ぶ。
山梨大地域防災・マネジメント研究センター長の鈴木猛康教授は「雨畑地区は古い岩盤が多く、もともと土砂災害が起きやすい。ダム管理者には、堆砂に対して通常以上の細心の注意が必要になるはず」と指摘する。
◆2019年10月16日 毎日新聞山梨版
https://mainichi.jp/articles/20191016/ddl/k19/040/072000c
ー台風19号 土砂で河床上昇、雨畑ダム 増水で土堤防崩壊、浸水 早川ー
早川町の雨畑ダムで土砂が堆積(たいせき)し上流の雨畑川の河床が上昇している問題で、集落への洪水被害を軽減するためダム管理者の日本軽金属(東京)が川沿いに設置した土堤防が台風19号による増水で崩壊し、近くの工場が浸水した。地元住民は土砂を撤去する抜本対策を求めている。【高田奈実】
早川町によると、台風で同町雨畑の本村地区の雨畑川沿いの町道が土砂で埋め尽くされ、15日現在通行できない状況が続いている。町道を越えて畑や道路にも水や土砂が流れ込み、同地区の平屋の茶工場が浸水した。
雨畑ダムを巡っては、台風が接近した昨年10月と今年8月にも、同地区で民家などの浸水被害が発生。県と国は日軽金に対策を求める行政指導をした。これを受け、日軽金は応急措置として9月末までに、雨畑川の集落側の川岸約380メートルにわたって盛り土をし、高さ約5メートルの土堤防を設置した。
地元住民でつくる「本村区ダム堆積土砂対策協議会」の望月三千生会長(63)は「抜本対策の方針もまだ打ち出せていない。手をこまねいていたら地区は埋まってしまう」と危機感を募らせている。
知事、日軽金に抜本対策求める
長崎幸太郎知事は15日に開いた臨時記者会見で「応急措置では限界がある。抜本的対策を取る必要があり、日軽金に責務をさらに強く求める」と述べた。
日軽金の担当者は「土砂の撤去作業を含め、早急に対応できるよう国、県、町と話し合いながら抜本対策の協議を進めていく」と話した。
◆2019年10月14日 静岡新聞
https://www.at-s.com/news/article/social/shizuoka/693572.html
ー【台風19号】雨畑ダム上流、孤立 堆砂影響、住民「撤去を」ー
駿河湾産サクラエビの不漁をきっかけに堆砂問題がクローズアップされている日本軽金属の雨畑ダム(山梨県早川町)が台風19号の影響で増水し、上流の41世帯・68人が13日現在、孤立していることが住民や同県への取材で分かった。堆砂による水害はこれまで繰り返されており、住民からはダム撤去を求める声が出ている。
孤立しているのは本村など雨畑地区の複数の集落。集落に続く県道と林道の計4カ所が冠水したり崩落したりした。一部住民は防災ヘリで救助されたが、大半の住民は自宅に残っている。停電などインフラへの影響はないという。
昨年秋の台風24号に続き洪水被害は3回目。堆砂率9割のダムを管理する日軽金は、国から抜本解決を求める行政指導を受けた矢先だった。また、応急措置を求める山梨県からの行政指導を受け、同社は河川内に土堤防(380メートル)を先月末造成した直後だった。
同社蒲原製造所は「被災状況を早急に確認する」とコメント。一方、地区の60代男性は「何度繰り返すのか。ダムの早期撤去を求めたい」と訴えた。
◆2019年10月14日 山梨日日新聞
https://www.sannichi.co.jp/article/2019/10/14/80239768
ー雨畑タム周辺の浸水日本軽金属が「おわび」ー
日本軽金属(東京)は14日、管理する早川町の雨畑ダム周辺地域で台風19号の豪雨で浸水被害が発生していることを受け、「被災地の復旧に迅速に対処する」とのコメントを発表した。
早川町雨畑では、雨畑川の水位が上昇し、日本軽金属が河川内に登置した土堤防を越え、町道や県道が冠水。県道雨畑大島線の一部が崩落し、ダムの上流地区の住民が孤立している。
雨畑ダムを巡っては、大量の土砂が流入して上流の雨畑川の河床が上がり、これまでにも水害が相次いでいる。日本軽金属は、国や県などとつくる「雨畑地区土砂対策検討会」を設置し、土砂の撤去方法などについて検討をしている。
日本軽金属は「多大なご迷惑とご心配をお掛けしましたことを深くおわび申し上げます」としている。
◆2019年10月13日 山梨日日新聞
https://www.sannichi.co.jp/article/2019/10/13/80239665
ー雨畑ダム沿いの県道崩落ー
台風19号の影響で早川町の県道雨畑大島線が崩落し、集落の一部が孤立状態になっている。県によると、現場は雨畑ダム沿い。人的被害はないという。
◆2019年10月5日 静岡新聞
https://www.at-s.com/news/article/politics/shizuoka/689686.html
ー濁り原因、両県食い違い 静岡、山梨まとめ難航 早川水系調査ー
駿河湾サクラエビの不漁を受け静岡、山梨両県が5~7月に早川水系で行った濁りの実態調査の取りまとめ作業が難航している。発生原因と生態系への影響評価に対する両県の意見に食い違いがあるためだ。富士川の上流と下流で濁りの捉え方の違いが鮮明となっている。
「厳しい調整中だが、遠くない将来きちっと報告できる」。9月末の川勝平太知事の定例記者会見。中平英典水産業局長が補足説明し、両県の食い違いを認めた。当初は8月末にも取りまとめが完了するはずだった。
最大の相違点は、日本軽金属の導水管などを経て、駿河湾に流れ込む濁りの源。早川水系には雨畑ダムや砂利プラント、リニア中央新幹線工事など人の手が多く入る。「『糸魚川―静岡構造線』がありもともと土質がもろい」と主張する山梨県。一方、10回程度、14カ所で行った調査では、砂利プラント周辺で濁りが強く、静岡県は「重機が常に河川をかき混ぜている。人的要因も相当程度ある」(幹部)と譲らない。
アユなど生態系との関係も見方が異なる。雨畑ダム堆砂除去の行政指導を徹底するよう国土交通省に申し入れた長崎幸太郎山梨県知事は「濁りが原因かは不明」。静岡県の意見は「間違いなく影響する」としている。
サクラエビ不漁との関係は両県とも今のところ「分からない」。静岡県は9月補正予算に1350万円を計上し調査する方針。4日の情報連絡会で鈴木伸洋・東海大非常勤講師は産卵量などから「今期は顕著な影響は見られない」と私見を述べつつ、海の環境調査の重要性も挙げた。
■「回復」根拠、異論も
県桜えび漁業組合の実石正則組合長が秋漁実施の根拠にした県水産技術研究所の花井孝之研究統括官によるサクラエビの資源回復に関する説明。資源量が上向いているとする根拠や現状認識には異論も存在する。深海に住むサクラエビの生態の理解が関係者の間で共有できていない背景がある。
4日の情報連絡会。冒頭で資源状態の説明に立った花井研究統括官は「個人の見解」とした上で、駿河湾全体での7、8月合計の総卵数が約500兆粒に達した分析を示し、前回連絡会(9月20日)と同じく回復傾向にあると強調した。富士川沖に卵が少ない現状に対し「何らかの理由で親エビが湾奥まで北上できない状態」と解説したが、その説に「自信はない」とも吐露した。
サクラエビ研究の第一人者、東京海洋大の大森信名誉教授らの「さくらえび漁業百年史」などは、主産卵場の富士川沖(湾奥)で春夏に産卵ピークがあることを重要視し、そもそもサクラエビは成長に伴って北上するわけではないと記している。