ダム事業では、工期や事業費などを基本計画で明記します。当初の予定より完成年度が遅れ、事業費が膨らむ場合は、基本計画の変更手続きを行う必要があります。
八ッ場ダム事業では、これまで2001年、2004年、2008年と計画変更が行われ、工期を2000年度→2010年度→2015年度と延長し、事業費も倍増しました。
しかし、民主党政権下で行われた国交省の試算によれば、さらなる工期延長と事業費増額のために、四度目の計画変更が必要です。繰り返される計画変更は、机上で組み立てられた当初の計画が現実にそぐわないものであったことを示しています。八ッ場ダムは必要性に疑問が投げかけられているだけでなく、一体いつ、どの程度の費用をかければ完成して使い物になるのか、明言できる人が誰もいない状態で事業が続けられているのです。
民主党政権下での八ッ場ダムの検証では、この問題にメスを入れるべきでしたが、事業主体である国交省関東地方整備局みずからによる検証は、問題に触れることなく「八ッ場ダム建設妥当」と結論づけ、事業継続を決定しました。
八ッ場ダム中止政策を阻止した首都圏1都5県
国交省関東地方整備局と共に八ッ場ダムの共同事業者である利根川流域の首都圏1都5県は、八ッ場ダムの中止政策に揃って反対しました。これが民主党政権が八ッ場ダム事業を中止できなかった最も大きな要因とされます。一方で1都5県は、八ッ場ダムの工期延長、事業費増額に反対し、現計画通りに2015年度までに八ッ場ダムを完成させるべきだと主張し続けました。八ッ場ダムは現計画のままで完成させるのは不可能ですから、1都5県の主張は無理難題を民主党政権に突きつけるものでした。
関東地方整備局も1都5県も、民主党政権が八ッ場ダムの検証を行うことになったためダム事業が遅れたのだと主張していますが、この間、八ッ場ダムの関連事業は続けられてきました。八ッ場ダム予定地にはJR吾妻線が走っており、付け替え鉄道を建設中ですが、今も完成していません。民主党政権は八ッ場ダムの本体工事を凍結しましたが、たとえ凍結しなくとも、鉄道の付け替えが終了しなければ、本格的な本体工事には入れません。八ッ場ダム事業の遅れは、ダム検証が原因ではなく、鉄道の付け替えなどの関連工事の膨大さとその遅延が原因です。国交省と関係都県は、みずからの責任を民主党政権に転嫁しているわけです。
群馬県知事の矛盾に満ちた言動
民主党政権下ではそろって八ッ場ダムの計画変更に反対し続けた関係都県知事ですが、自公政権が復活した今年2月、突然、大沢群馬県知事が工期延長のために計画変更することが現実的だと言い始めました。その理由は、2015年度の八ッ場ダム完成は非現実的であり、今のままでは地元住民が生活設計を立てられないというものでした。
国交省は本体工事着手後、ダムの完成までに7年かかると試算していますので、かなり前から2015年度完成という現計画が非現実的であることは明らかでした。大沢知事が本当に現地住民のことを思っているなら、民主党政権下でも同様の主張をするべきでした。
関東地方整備局は、八ッ場ダムに懐疑的な民主党政権下では、八ッ場ダム事業がこれからも計画変更を繰り返さなければならないという問題を伏せる方針でしたが、八ッ場ダム事業に前向きな自公政権の復活後は、計画変更を一刻も早く行い、支障のない形で本体工事に着手したいと考えているのでしょう。大沢知事の発言は、国交省関東地方整備局の意向を代弁しているものと受け取れます。
最近の大沢群馬県知事の発言については、こちらにまとめました。
https://yamba-net.org/wp/?p=4991
7月11日の上毛新聞によれば、「計画にない工事を追加する場合は「(県が負担するかどうか)議論の対象になる」と述べ、地滑りなどの安全対策に伴う負担増に対しては一定の理解を示した。」だけでなく、事業費増額分の一部負担について、関係都県は国と話し合う余地があるとして、関東知事会で関連する1都4県の知事と話し合い、「方向性は一致している」と説明しています。しかし、6月4日付の朝日新聞群馬版によれば、前日の6月3日、群馬県知事は「増額は断固反対すると報道陣に述べた」と、これとはまったく逆の発言をしたと報道されています。
https://yamba-net.org/wp/?p=4296
関東知事会は5月22日に開催されています。その場で八ッ場ダム事業費増額分の一部負担について、関係都県と「一定の理解を示す」方向性が一致していることを確認しながら、なぜ6月3日に「増額は断固反対」と報道陣に述べたのか不明です。このように、この間の群馬県知事の発言は矛盾に満ちており、もし群馬県知事のいうように関係都県も方向性が一致しているとしたら、関係都県も八ッ場ダムの検証過程での発言と整合性がないことになります。
民主党政権下、八ッ場ダムの関係都県がダム計画変更について発言した内容を以下にまとめました。
八ッ場ダム建設事業の関係地方公共団体からなる検討の場および幹事会での各都県の発言
八ッ場ダム建設事業の関係地方公共団体からなる検討の場
(第8回幹事会)(平成23年8月29日開催)
○東京都都市整備局長代理
それから3点目は、資料1-1に関係することでございまして、「堆砂計画及び総事業費の点検結果について」と縷々前提条件、考え方を説明されてございまして、最後の8ページのところで「新たな指針の作成等に伴う要素」で、地すべり対策関連で149.3億円が書かれてございます。注にはいろいろ書いてございますけれども、1都5県からすれば、今の基本計画に示されている総事業費4,600億円は、平成12年度の地盤安定検討委員会の報告を前提につくられているものと理解されるものでございまして、検証を口実になし崩し的にさらにこれだけ費用が発生すると受けとめられる説明、あるいは資料のつくり方はいかがなものか。これについては、どういうものなのかというのを改めて確認させていただきたい。これはどういう前提で示されているのか。我々としては、149.3億円を前提として、基本計画の変更みたいなことに結びつけられるということであるとすれば、とてもこういう場で示されて、そうですかと受けとめられるものではないということでございます。
○千葉県総合企画部長
まず、総事業費の点検結果でございますけれども、今回地すべり等の対策の可能性が新たに示されております。約150億近くのものが出ていますが、東京都さんから出ておりましたけれども、新たに負担が増えるのかどうかとか、その辺をどういうふうに理解していいか改めてご説明願いたいと思います。実施に当たりましては、さらなるコスト縮減に努力していただきまして、総事業費については現計画内となるよう、引き続きお願いしたいと思っております。また、これまでも申して上げてまいりましたけれども、ここに出ている中断及び遅延に伴う費用につきましては、国の責任において対応をお願いしたいと考えております。
○茨城県土木部長
茨城県の土木部長でございます。今、千葉県さんからもございましたけれども、地すべり、あるいは代替地の安全対策により約150億円の事業費が増額ということに今回なっているわけでございますが、実際の施工に当たっては、徹底したコスト縮減に努めていただき、現在の基本計画の事業費であります、4,600億円におさめていただきたいと考えております。我々は県内においても、基本的に4,600億円の中でおさめるということを今まで説明しておりますので、ぜひよろしくお願いしたいと思います。
○埼玉県県土整備部長
それから、2点目は総事業費の関係でございますが、新たな技術指針の制定に伴って、必要となる安全対策に追加の経費が必要となってくるのだというお話は、理解はできます。しかしながら、だからといって現行の基本計画の総事業費に追加経費分がそのまま増額になるということは、受け入れがたい話かなと。ほかの都県さんからも、同じような話が出ていると思っております。私どももそのように思っております。評価の結果を見ると、八ッ場ダムが一番いいのは明らかだと思っておりますので、継続することになった場合でも、現行の基本計画の中できちんと対応していただければ大変ありがたい。また、そのようにしていただきたいと思っております。
○埼玉県企画財政部長代理
埼玉県地域政策局長の川上でございます。3点ばかりお話しさせていただきますが、総事業費の関係については、今うちの県土部長が言ったのと同じなんですけれども、約150億の増額が示されているわけですが、これについては現行の総事業費の中でおさめるようにお願いしたいと思います。
八ッ場ダム建設事業の関係地方公共団体からなる検討の場
(第1回)・(第9回幹事会)(平成23年9月13日開催)
○群馬県知事
八ッ場ダムが最も有利なことは、我々は検証する前から考えていましたけど、実際この2年間は何だったんだ、多くの時間と費用が無駄になっただけではないのか、こんな思いを強くしております。検証により増加した費用は当然、国が負担すべきものであると考えております。また、国は、責任を持って、無駄に使われた時間を回復させて、地元の皆さんがこれ以上、将来への不安や生活上の不便を来すことのないよう、基本計画どおり八ッ場ダムを完成していただきたいと切にお願いを申し上げます。
○東京都知事代理
それから、着手をする以上、先ほど来、時間の問題が検証の中でも非常に重要視されておりまして、10年後の時点でどれだけの達成ができるかということがありましたので、決断をされた上は24年度予算で予算措置をしてなどという悠長なことをおっしゃらないで、今年度から直ちに実効性のある本体工事に着手をいただいて、ぜひ基本計画どおりの27年度完成というのを実現していただきたいということでございます。
それから、この間の、いわば虚しく過ぎた2年間の検証の結果生じた金額上の問題につきましては、これは国が責任を持ってしかるべきご努力をいただいて、全体の基本計画に定めた全体経費の中でしっかりと工事を完成させるという、この点についてもひとつよろしくお願いしたいというふうに思っております。
○茨城県知事代理
それから、事業費につきましては、必ずしも本日議論する場面ではないのかもしれませんが、これも他の知事さんから出ておりましたけれども、とにかく事業費の増高は厳に避けていただきたいというふうに思っております。特にこの検証による増高分につきましては、確実に国による措置をしていただきたいと考えておりますし、そもそも増高自体につきましても、ありとあらゆる工夫をする中で、ぜひこれまでどおりの事業費におさめていただけますように、とにかくお願いをいたしたいというふうに考えております。
八ッ場ダム建設事業の関係地方公共団体からなる検討の場
(第10回幹事会)(平成23年11月21日開催)
○埼玉県企画財政部長
この検証のために費やした2年のおくれ、これを取り戻すために予算を集中投下していただきまして、基本計画どおり八ッ場ダムを平成27年度までに完成させていただくことを強く求めたいと思っております。
○埼玉県企業局長
したがいまして、今回示されました対応方針を真摯に受けとめ、速やかに検証を終わらせて、基本計画どおり平成27年度までに完成させるために今年度から可能な措置を実施していただき、早期に本体工事に着手するよう強く要望して私の意見とさせていただきます。よろしくお願いいたします。
○茨城県企画部長
事業の継続に際しましては、現行の基本計画どおり、平成27年度までにダムを完成させますとともに、この2年間のおくれによってコストも大分膨らんでいると伺っておりますが、基本計画どおり4,600億円の総事業費におさめること、これも当然のことでありまして、国には最大限の努力をしていただきたいと思います。
○栃木県県土整備部長代理
今後は、速やかに対応方針を決定して、ダム本体工事の着手に取りかかるための必要な措置をとるとともに、来年度予算案に必要な事業費を確実に反映させ、そしてまた基本計画どおり、総事業費4,600億円、そして平成27年度までの完成に向けて全力を尽くしていただきたいと思ってございます。