八ッ場ダム事業の現状を見れば、事業費増額も工期延長も必至です。いずれも関係都県(利根川流域1都5県)の同意を求めるダム計画の変更手続きが必要ですが、一度の計画変更に両方とも盛り込むと関係都県の反発が大きいため、工期延長を先行させる可能性があるといわれます。下流都県では事業費増額は納税者の反発を買うため、工期延長より抵抗が強いといわれます。
本当に関係都県が八ッ場ダムを必要とするならば、事業が始まってから半世紀たっても本体着工もしていないダム計画の工期延長など認められない筈です。八ッ場ダムは治水(利根川の洪水調節)と利水(都市用水の供給)を主目的としており、いずれも流域住民の生命と財産、生活を守るという大義名分に基づいて事業が継続されているからです。
一方、八ッ場ダム予定地では、下流都県とは逆に工期延長に対して住民が反発します。繰り返し工期が延長されることで、いつまでダム計画に振り回されなければならないのか、と地元の人々が思うのは当然です。地元がダム計画を受け入れた1986年当時、八ッ場ダムの完成は2000年の筈でした。その後、二度の工期延長により、現在は完成予定が2015年度にずれ込み、それも不可能という事態です。地元の人々は生活設計を覆される悲哀を何度も味わわされてきました。
事業費増額は、ダム湖周辺に住む人々のための安全対策の費用です。ダム予定地を抱える群馬県の立場は微妙です。
◆2013年6月4日 朝日新聞群馬版 http://www.asahi.com/area/gunma/articles/MTW20130604100580001.html
-八ツ場ダム事業費「増額は断固反対」ー
国が八ツ場ダム(長野原町)の基本計画で4600億円としている総事業費について、大沢正明知事は3日、「増額は断固反対する」と報道陣に述べた。2015年度末としている完成時期については「実質的に不可能」として、やむを得ないとの考えを示した。
4600億円の総事業費は国内のダムの最高額。特定多目的ダム法に基づき、国が38%、治水・利水で利益を得る群馬を含む6都県などが62%を負担する。
県議会一般質問での萩原渉県議(自民)への答弁で、笹森秀樹・県土整備部長は3日、国の情報として昨年度末現在で総事業費の83%の3824億円が実施済みと説明。鉄道や道路などの生活再建事業も9割以上が進んでおり、「あとはダム本体工事を残すのみ」との認識を示した。
大沢知事は「地元住民のことを思うといたたまれない。国土交通相は現場に来て、ただちに基本計画の変更手続きを開始し、ダム完成時期などスケジュールを示すべきだ」と答弁した。
民主党政権時代の国交省の再検証では、09年9月以降の工事中断と工期延長で55億円、地滑り対策の追加など安全対策費で149億円の増額と試算された。自公政権は5月にダム本体の関連工事の入札を公告したが、さらなる増額の可能性を指摘する関係者もいる。
県幹部によると、知事の「増額反対」発言は、再検証に伴う県の負担増には応じない考えを示したものだという。(小林誠一、伊藤弘毅)