洪水に備えてダムの事前放流を行うことにより、ダムの洪水対処能力を倍増するという政府方針が報道されています。
しかし、天気予報をもとに事前放流を行っても、洪水が来ない空振りになることが多く、事前放流を行えばいざという時、水害を増大する危険性のあるダムの緊急放流を避けることができるというものではありません。
事前放流のことが安易に語られているように思います。
以下の記事に添えられている八ッ場ダムの写真は、昨年12月に撮影されたということです。八ッ場ダムの貯水池は昨年12月12日に試験湛水で最低水位に達した後、最低水位のまま現在に至っています。
◆2020年2月7日 日本経済新聞
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO55341420W0A200C2PP8000/
ーダムの洪水対処能力倍増へ AI活用、事前放流を拡大ー
政府は台風などによる洪水被害への対処能力を倍増させる。降雨量を精緻に予測し、事前にダムの水位を減らすしくみをつくる。従来はダムの新増設に巨額の費用と時間を費やしていたが、既存インフラや人工知能(AI)を有効活用して効率を高める。ソフト重視で旧来型の公共事業のあり方を見直す契機となる。
菅義偉官房長官が「既存ダムを最大限活用した新たな運用を開始する」と指示したのを受け、政府内で対応策を練ってきた。関係省庁やダムを所有する電力会社などとの調整を進めており、今夏にも降雨を一時的にダムにため込む洪水調節容量を現在の2倍に増やすメドをつけた。
全国に稼働するダムは計1460カ所あり、実質的な貯水量を示す有効貯水容量は約180億立方メートルある。大雨のときに貯水できる洪水調節容量はこのうち約3割(約54億立方メートル)にとどまっていたが、新たに約50億立方メートルが確保できる見込みだ。今年3月に完成する八ツ場ダムの洪水調節容量(6500万立方メートル)の約80倍にあたる。
2019年に日本列島を襲った台風19号は関東や東北で大雨をもたらし、5県6カ所のダムで決壊を防ぐための緊急放流をした。緊急放流は下流の河川を氾濫させるリスクを高める。対処能力の強化が課題となっていた。
政府は事前放流に着目している。群馬県の草木ダムは台風19号の際、洪水を予測し、事前に有効貯水容量の約3割にあたる約1500万立方メートルを放流した。検証の結果、事前放流がなければ緊急放流せざるを得なかったことが明らかになった。
18年の西日本豪雨では、愛媛県の野村ダムなどの緊急放流によって死者が出たとして遺族らが訴訟を起こした。
政府はこうした教訓を生かし、事前放流の効果を高めるためAIで精緻化した気象庁の予測システムを活用する。メソモデル、全球モデルと呼ばれる予報を基に、今年6月から大雨が予想される1~3日前にダムの水位を下げるしくみを設ける。予測システムの精度向上に向けた開発も続ける。