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利根川荒川水系フルプラン(水資源開発基本計画)の虚構

 5月26日に国土交通省の国土審議会水資源開発分科会利根川・荒川部会の書面会議が開催され、その配布資料が国交省HPに掲載されました。
 この配布資料についての嶋津暉之さん(元東京都環境科学研究所、当会運営委員)の解説を紹介します。
 水需要が急増していた1961年につくられた水資源開発促進法は、すでに社会状況に合わなくなっていますが、今も高度成長時代のままのダム事業等の裏付けとなっています。ダム事業の上位計画は治水面では河川整備計画、利水面ではフルプランです。

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 水資源開発促進法は、利根川・荒川・豊川・木曽川・淀川・吉野川・筑後川の7指定水系について、水需給の面でダム等の水資源開発事業が必要であることを示す水資源開発基本計画(フルプラン)の策定を義務づけています。
 これらの指定水系では、八ツ場ダム、思川開発、霞ケ浦導水事業、設楽ダム、川上ダム、天ヶ瀬ダム再開発、小石原川ダムといった水資源開発事業が進められ、木曽川水系連絡導水路が計画されています。しかし、水需要が減少の一途を辿り、水余りが一層進行していく時代において、水需給計画で新規のダム等水資源開発事業を位置づけることが困難になってきました。しかも、現在のフルプラン(利根川・荒川は2008年策定)は2015年度が目標年度でしたので、とっくに期限切れになっています。

 フルプランは水資源開発促進法の目的に書かれているように、「産業の開発又は発展及び都市人口の増加に伴い用水を必要とする地域に対する水の供給を確保するため」に策定されるものであり、水道用水・工業用水の需要が減少傾向に転じた時点で、その役割は終わっているのですから、水資源開発促進法とともに廃止すべきです。
 しかし、国交省水資源部の組織維持のため、目的を失ったフルプランの改定作業が行われつつあります。

 ~国土審議会水資源開発分科会利根川・荒川部会を書面開催~  
 第11回利根川・荒川部会 配布資料
 https://www.mlit.go.jp/policy/shingikai/water02_sg_000104.html
 
 この資料のうち、現行「利根川水系及び荒川水系における水資源開発基本計画」の総括評価(案)には以下のグラフが示されています。これらのグラフと主な数字を拾って掲載します。

◆図3(6ページ)

◆図10(16ページ)

◆図17(22ページ)

◆図18(23ページ)
 
 
〈利根川・荒川水系の2015年度の数字)
水道用水(簡易水道込み) 最大取水量 実績114.25㎥/秒 予測147.35㎥/秒 予測/実績 1.29倍

工業用水         最大取水量 実績19.73㎥/秒 予測28.19㎥/秒 予測/実績 1.43倍

水道用水+工業用水    最大取水量 実績133.98㎥/秒 予測175.54㎥/秒 予測/実績 1.31倍

供給可能量(2015年度)の計画値 179.74㎥/秒、2/20渇水年(20年に2回の渇水年)を想定すると、154.19㎥/秒、戦後最大年を想定すると、139.92㎥/秒
(2015年度時点で未完成の八ツ場ダム、思川開発、霞ヶ浦導水を除く)

 これらの数字を見ると、フルプランの水需要予測が過大で、架空のものであったことがよくわかります。
 水需要の実績133.98㎥/秒は国土交通省が示す計画値の供給可能量179.74㎥/秒を大きく下回っています。渇水年には供給可能量は減少しますが、133.98㎥/秒という数値は2/20渇水年(20年に2回の渇水年)の供給可能量154.19㎥/秒もかなり下回り、戦後最大年(戦後最大規模の渇水年)の供給可能量139.92㎥/秒をも少し下回っています。

 前回のフルプランでは、水源開発事業の計画値の供給可能量では水需要予測値がそれを下回り、新規事業の必要性を示せないため、2/20渇水年への対応が必要だという話を持ち出して、策定されました。しかし、水需要の実績は2/20渇水年の供給可能量を下回っており、八ツ場ダム、思川開発、霞ヶ浦導水はフルプランの水需給においても不要であったことを物語っています。八ッ場ダム住民訴訟では、この2/20渇水年の供給可能量の数字そのものが科学的な根拠がない過小の数字であるという問題を追及しました。

 これから策定される利根川荒川等のフルプランは、2/20渇水年では説明が苦しくなったため、戦後最大渇水年への対応が必要だという話でつくられることになると思います。組織延命のため、目的を失ったフルプランの延命策が図られているのです。