「ダムの事前放流」による損失補償

 政府が6月4日、ダムの洪水調節機能強化に向けた関係省庁検討会議(第四回)で示した「全国の1級水系河川のダムで、利水目的でためた水を事前に放流し、洪水調節容量を増やす」方針が各紙に取り上げられています。

 事前放流によって利水者(ダムの水を発電に使う電力会社や都市用水に利用する自治体など)に損失が出た場合の補償は、事前放流ガイドライン(国土交通省 水管理・国土保全局 )の13ページに次のように書かれています。
 https://www.kantei.go.jp/jp/singi/kisondam_kouzuichousetsu/dai3/siryou2.pdf 

 上記の説明によれば、水道(②)の場合は、利水事業者の広報等活動費用及び給水車出動等対策費用の増額分ということですから、それほどの金額にならないように思います。発電の場合(①)は、代替発電費用の増額分という説明ですが、どの程度の金額になるのでしょうか。机上の取りきめで事前放流の話が進んでいますが、実際にどのようなことになるのか、わかりません。

 関連記事を転載します。

◆2020年6月4日 毎日新聞
https://news.yahoo.co.jp/articles/ef25e0491a4e350b3ee34b1b22e4f4c3267139a5
ー1級水系ダム、水害対策貯水容量を倍増 事前放流の損失補填制度新設でー

 政府は4日、ダムの洪水調節機能強化に向けた関係省庁検討会議で、国が管理する全国の1級水系の河川で、水道や発電など利水目的でためた水を事前に放流できるようにして、水害対策に使える貯水容量が約46億立方メートルから約91億立方メートルに倍増したことを明らかにした。事前放流は、予測と異なり貯水量が回復しなかった場合の事業者の損失が課題だったが、必要経費を国費で補塡(ほてん)する制度を新設するなどして対応した。

 政府は昨年10月の台風19号で洪水被害が相次いだことを受け、同11月からダムの洪水調節機能強化の検討を始めた。菅義偉官房長官は会合で「拡大できた容量は(建設に)50年、5000億円以上をかけた(群馬県の)八ッ場ダム50個分に相当する」と成果を強調。「本格的な雨の時期を迎える中、国民の生命と財産を水害から守るために、国土交通省を中心に一元的な運用を開始してほしい」と指示した。

 全国の1級水系で治水機能のあるダムは335基、上下水道や発電など利水目的のダムは620基ある。ただ、すべての貯水容量のうち治水目的に使えるのは約3割(約46億立方メートル)にとどまっていた。

 国交省は、事前放流後に貯水量が回復しなかった場合に、代替発電費用や取水制限に伴う給水車の費用などを国が補塡することを定めたガイドラインを策定。同省や発電、水道事業者らが1級水系のうちダムのある全99水系で、利水ダムにたまった水や、治水機能のあるダムの利水目的の水を事前放流できるよう降雨量の基準などを定めた治水協定の締結に合意。貯水容量が約91億立方メートルに倍増する見通しとなった。

 政府は2級水系のダムについても貯水容量を拡大させる方針。【佐野格】

◆2020年6月8日 京都新聞 社説
https://news.yahoo.co.jp/articles/7248b6117489e5aeced6be0ee557d95e6cc852c6
ーダム事前放流 運用広げて大被害を防げー

 大雨のシーズンが近づいている。近年相次いでいる甚大な水害を防ぐには、取り得る対策を総動員する必要があろう。

 全国各地で急がれているのが、大雨が降る前にダムを放流し、ためられる水量を増やして洪水への対処能力を高める取り組みだ。

 政府は治水強化策として進めている。ダムの事前放流を行う手続きについて、全国109の1級河川水系のうちダムのある全99水系で地元自治体や利水団体と合意し、今月初めまでに協定を結んだという。

 ダムの役割には、雨をためて洪水を防ぐ治水と、農工業や発電、水道用の利水がある。これまで利水用のダムはほとんど治水目的の放流を想定していなかった。

 今回の協定により、利水ダム620カ所と治水・利水両用の多目的ダム335カ所で事前放流できるようになる。

 新たに水害対策に充てられる貯水容量は45億立方メートル分の確保が見込まれる。現状から全体で倍増するというから大きな前進といっていいだろう。京滋を流れる淀川水系でも貯水容量が最大78%増、由良川水系は28%増になるという。

 事前放流を拡大するのは、頻発化する大規模水害への対処が「待ったなし」だからだ。

 2018年7月の西日本豪雨では、愛媛県のダムで緊急放流後に下流が氾濫し、犠牲者が出た。再発防止に向けた国土交通省の有識者検討会が提言したのが、事前の水位調整である。

 事前放流は、下流域の浸水リスク軽減に加え、満杯による「緊急放流」を避けて住民の避難時間を確保する効果もある。

 昨年10月の台風19号では各地で河川氾濫が相次いだ。茨城県など4県と国は、治水機能を持つダム6カ所で満杯近くになった水を緊急放流した。いずれも事前放流していなかった。

 直前の昨年8月末時点で事前放流実施の要領を作成していた利水、多目的ダムは全国でわずか58カ所。管理者が水位が回復せずに農業用水などが不足するのを心配し、ためらった例が多かったようだ。

 このため政府は、省庁横断の検討会議を設置し、既存ダム活用を拡大する方針を確認。今回、各ダムで利水団体などと結んだ協定では、事前放流で用水が不足した場合、別の河川から融通するとし、金銭面でも補償もするとしたのが地元協力につながったといえよう。

 新たなダム建設や堤防強化などは膨大な費用と時間を要する。従来の縦割り行政を見直し、今回のように国交省以外が所管する利水ダム活用を広げることは、現実的かつ即効性が期待できる新たな治水対策として有意義だろう。

 ただ、施設改修しなければ事前放流できないダムも少なくない。国は今月中に放流設備の改良など対策の工程表を水系ごとにまとめるという。災害は待ってくれない。一日も早く機能するよう整備してほしい。

 貯水状況や放流の情報発信とともに、住民避難の方法も再確認しておきたい。