7月4日の球磨川水害は、8日現在、死者54人、心肺停止2人、行方不明10名と、凄まじい被害の状況が少しずつ明らかになってきています。
球磨川水系では支流の川辺川ダム計画があり、本体工事を目前にして2009年の民主党政権下で休止されました。これは、流域の人吉市、相良村がダム建設に反対し、これを受けて蒲島郁夫熊本県知事が川辺川ダムの白紙撤回を国に求めたためです。川辺川ダム事業はダムの水没地が最上流の五木村、球磨川河口の八代市も熊本県と、水系すべてが熊本県内にあるため、熊本県知事の表明を受けて国土交通省は本体工事に着手することができなくなりました。
その後、ダムによらない治水対策を行うために国土交通省と熊本県、地元自治体は協議を重ねてきましたが、合意を得られぬまま、10年以上が過ぎました。国土交通省は川辺川ダムをあきらめておらず、本体工事の復活を目指していると言われてきました。今回の水害によって、改めて川辺川ダム計画が焦点となる可能性が濃厚です。
蒲島熊本県知事は圧倒的なダム反対の世論を受けて、これまで川辺川ダムには後ろ向きでしたが、反対運動のあった県営・路木ダムの建設を強行するなど、ダムをめぐる姿勢が一貫しているわけではありません。多くの犠牲者が出ている今回の水害後、堤防の復旧を始め、被災地の復興は国交省ののなくしては成り立たず、蒲島知事には相当なプレッシャーがかかっていると考えられます。水害発生後、マスコミが取り上げている知事の発言も、変化してきているようです。
◆2020年7月6日 毎日新聞
https://mainichi.jp/articles/20200706/k00/00m/040/011000c
ー蒲島知事「『ダムなし治水』できず悔やまれる」 熊本豪雨・球磨川氾濫ー
熊本県南部の記録的豪雨で1級河川・球磨川が氾濫し、甚大な被害が出ている状況について蒲島郁夫知事は5日、報道陣に「ダムによらない治水を12年間でできなかったことが非常に悔やまれる」と語った。球磨川水系では1966年から治水など多目的の国営川辺川ダム計画が進められたが、反対する流域市町村の意向をくんだ蒲島知事は2008年9月に計画反対を表明。国も中止を表明し、09年から国と県、流域市町村でダムに代わる治水策を協議してきたが、抜本策を打ち出せずにいた。知事との主なやり取りは次の通り。【清水晃平】
――知事は川辺川ダム計画に反対し、ダムによらない治水をすると言ってきたが、ダムを作っておくべきだったという思いは?
私が2008年にダムを白紙撤回し民主党政権によって正式に決まった。その後、国、県、流域市町村でダムによらない治水を検討する場を設けてきたが、多額の資金が必要ということもあって12年間でできなかったことが非常に悔やまれる。そういう意味では球磨川の氾濫を実際に見て大変ショックを受けたが、今は復興を最大限の役割として考えていかないといけないなと。改めてダムによらない治水を極限まで検討する必要を確信した次第だ。
――(ダム計画に反対表明した)政治責任は感じているか?
(反対表明した)2008年9月11日に全ての状況を把握できていたわけではない。熊本県の方々、流域市町村の方々は「今はダムによらない治水を目指すべきだ」という決断だったと思う。私の決断は県民の方々の意向だった。私の決断の後に出た世論調査の結果は、85%の県民が私の決断を支持すると。その時の世論、その時の県民の方々の意見を反映したものだと思っているし、それから先も「ダムによらない治水を検討してください」というのが大きな流れだったのではないかと思っている。ただ、今度の大きな水害によって更にそれを考える機会が与えられたのではないかと思う。私自身は極限まで、もっと他のダムによらない治水方法はないのかというふうに考えていきたい。
――被害が出てから「極限まで追求する」ではなく、どこかの段階で治水策を講じておくべきだったという指摘がある。この12年間の取り組みは?
ダムによらない治水をどのようにまとめていくか。時間的にはたったかもしれないが、方向性としては、とにかく早く逃げることがとても大事で、そういうソフト面を大事にしたこと。もう一つは(球磨川上流の)市房ダムの利用だ。市房ダムの目的はダムによってなるべく増水させないこと。元々、昨日(7月4日)の予定では午前8時半に(緊急)放水する予定だったが、私としてはもっと弾力的に考えようと思っていたし、スタッフにも言った。スタッフも自動的に放水するのではなく、その後の1時間の状況を見てみようと判断した。雨がだんだん薄くなっていたのでもう少し待った方がいいと午前9時半まで待ったところ、雨が弱くなった。その段階で放水はやめると。後のデータで見ると最も川が増水したのが午前8時半。あの時にダムの水を全て放水していたら、今回の洪水以上の大きな災害になったと思う。そういう意味では事前放流していたことと事前放流によって多くの水をためられたこと、そして自動的に放水しなかった弾力的な運用が大きかった。それも我々の治水対策の一つだった。これからも今決められている治水対策も皆で合意した分はやっていく。これをダムができるまで何もしないというのは最悪だと思う。私はそういう形で進めていきたい。
――ダムによらないやり方、これまでのやり方を変えるつもりはないということか?
少なくとも私が知事である限り。これまでもそのような方向でやってきた。ダムによらない治水が極限までできているとは思わない。極限まで考えていきたい。ダム計画の白紙撤回の時にも言ったが、永遠に私が予測できるわけではない。今のような気候変動がまた出てきた時には当然、国、県、市町村と、今のところはダムによらない治水なので、その中でやる。それ以外の考え方も、将来は次の世代には考える必要はあるかなと思う。
◆2020年7月6日 西日本新聞
https://www.nishinippon.co.jp/item/n/623617/
ー熊本県知事「ダムのあり方も考える」 球磨川の治水対策巡り発言ー
熊本県の蒲島郁夫知事は6日、同県南部の豪雨で氾濫した球磨川の治水策を巡り、県庁で報道陣に「今回の災害対応を国や流域市町村と検証し、どういう治水対策をやっていくべきか、新しいダムのあり方についても考える」と述べた。
蒲島氏は5日、球磨川の治水策について問われ「『ダムによらない治水』を極限まで検討したい」と発言。「私が知事である限りはそういう方向でやっていく」と強調したが、1日で軌道修正した格好だ。
6日、改めてダムを治水策の選択肢に入れるか問われた蒲島氏は「いろいろなダムが存在する。水をどう効率的に流すか、そういうことを踏まえて検証したい」と明言を避けた。
蒲島氏は2008年の知事就任直後、球磨川上流に国が建設を予定していた川辺川ダム計画への反対を表明。「ダムによらない治水」を掲げ、国や流域自治体と治水策を協議しているが、まとまっていない。(壇知里)
◆2020年7月7日 朝日新聞熊本版
https://digital.asahi.com/articles/ASN767H62N76TLVB01H.html
ー知事「災害対応に全力」 ダムによらぬ治水検討もー
熊本県南部に降った記録的な豪雨では、球磨川の氾濫(はんらん)や決壊で流域に甚大な被害が出ている。蒲島郁夫知事は6日にかけて報道陣の取材に応じ、「災害対応に全力を尽くす」と述べ、状況が落ち着いた段階で初動対応や既存のダムのあり方を検証する考えを示した。12年前に判断した川辺川ダム計画の中止についても発言し、「ダムによらない治水をさらに検討する」とも述べた。
蒲島知事は6日、県災害対策本部会議後の報道陣の取材に、「初動対応をはじめ今回の災害に関する検証、分析を国や市町村と共に行う。各ダムのあり方をはじめ様々な課題が問われる。その結果を踏まえて、地域の安全安心の確保に向けた検討を進めたい」と語った。
蒲島知事は2008年9月、川辺川ダム計画の「白紙撤回」を表明。当時の前原誠司国土交通相が中止を明言した。その後、国と県、流域市町村はダムによらない治水対策の協議を続けるが、実現していない。
「多額の資金が必要だということもあって、この12年間でできなかった。それが非常に悔やまれるなと思います」。蒲島知事は5日、報道陣に語った。
その上で、「ダムによらない治水をさらに検討して、今回の水害も踏まえて新たな展開をしていきたい。きょう球磨川を実際に見て、大変ショックを受けた。改めてダムによらない治水を極限まで検討すると確信した」と明言した。ダム計画の撤回が県民に広く支持されたと指摘し、「極限まで、ほかの方法がないのか考えていきたい」「まだダムによらない治水が極限までいっていると思いません」と強調した。
一方、気候変動の影響や相次ぐ豪雨を念頭に「永遠に私が予測できるわけではない。今のところダムによらない治水でやるが、それ以外の考え方も(ある)。それを考えるのは次の世代になる」とも述べた。(伊藤秀樹、大木理恵子)