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球磨川治水「流水型ダム」案が浮上 洪水時以外は水ためず(毎日新聞)

 7月の球磨川水害を機に、球磨川支流の川辺川に国の巨大ダムを建設する計画が蘇ろうとしています。
 川辺川ダムの反対運動は、清流を守ろうという環境面の訴えが漁民やアウトドア関係者だけでなく、流域全体で共有されたものであったため、河川環境への影響がより少ないとされる流水型ダム(穴あきダム)を選択すれば問題は解決するという意見が早くも出されています。
 流水型ダムは洪水調節のみを目的とし、通常は水を貯めず川の水を流下させます。日本で最も古い流水型ダムは2005年完成の増田川ダム(島根県)です。運用開始から15年しか経っておらず、流水型ダムの河川環境への影響や性能には不明な点も多いということです。

◆2020年10月9日 毎日新聞
https://mainichi.jp/articles/20201009/k00/00m/040/249000c
ー球磨川治水「流水型ダム」案が浮上 洪水時以外は水ためず 生態系影響小さいー

  7月の九州豪雨で氾濫した球磨川(熊本県)の治水対策として、支流の川辺川に治水専用の「流水型ダム」を造る案が浮上している。大雨の時以外は水をためず、川の水がそのまま流れる流水型ダムは「穴あきダム」とも呼ばれる。旧民主党政権時代に中止された川辺川ダムの復活を目指す流域首長の間には、川をせき止めて水をためる一般的なダムに比べ、水質や生態系への影響が小さいとされる流水型ダムならば、住民の理解が得られやすいはずという思惑がある。

 「流水型を含めて今後検討してみてはどうか」。熊本県庁で6日に開かれた球磨川豪雨検証委員会の第2回会合。川辺川ダムがあれば人吉地区の浸水面積を約6割減らせたとする国の推計が示され、流域首長からダム必要論が相次いだ会議で、錦町の森本完一町長が流水型ダムの検討を国や県に提案した。

 流域の12市町村長でつくる川辺川ダム建設促進協議会会長としてダム建設の旗振り役を務める森本町長は、9月28日の取材に「清流を保つのであれば(流水型の)穴あきがいい」と述べていた。ダム推進派が形状にこだわるのは、1990年代以降、「清流を守ろう」とのスローガンの下で川辺川ダム反対論が盛り上がり、計画中止につながった経緯があるからだ。

 66年に建設が計画された川辺川ダムは、ためた水を農業や発電にも使う巨大な多目的ダムとして計画が進んだ。しかし、川をせき止めて水をためる「貯留型ダム」は、土砂の堆積(たいせき)などによる水質悪化や生態系への影響が懸念されるため、「日本一の清流」を売りにしていたアユ漁師や観光関係者ら流域の住民が反発。国と発電事業者も利水計画から撤退し、蒲島郁夫知事による2008年の「白紙撤回」につながった。

 知事に先立ち、ダム反対を表明した当時の人吉市長、田中信孝さん(73)は「さまざまなダムを視察し、生態系を壊す事例を見た。流れを止めれば水は腐る。清流は住民の誇りだった」と振り返る。

 一方、流水型ダムは、平常時はえん堤の下に開いた穴を川の水がそのまま流れるため水質が変化せず、魚が移動できるなど環境への影響が小さいとされる。穴からすべての水が流れない量が流入した時だけ自然にたまっていく仕組みで、利水用の水をためる必要がない分、ダムの大きさも小さくて済む。

 実は蒲島知事の「白紙撤回」表明直前、国土交通省も県に「水環境が維持される」と強調して流水型ダムを提案していたが、当時は検討対象にもならなかった。だが知事は今回、ダムを受け入れる可能性を否定しておらず、6日の検証委の会合後、流水型ダムについても「(選択肢から)排除しない」と明言した。

 川辺川ダムの水没予定地だった五木村で19年10月まで村長を務めた和田拓也さん(73)は「清流と治水のバランスが取れる流水型ならば流域の合意は得やすいだろう」と指摘。利水事業は既に破綻しており、球磨川の治水策を検討するため、国と県などが新たに設ける協議の場では、治水専用の流水型ダムが議論の中心になるとみられる。一方で、大規模なコンクリート構造物を造ることには変わりなく、環境破壊などへの懸念から反対の声も出そうだ。【平川昌範、城島勇人】

主流の利水・貯留型、環境問題やコストに難点
 日本では、治水だけでなく、農業や飲用、発電などの利水を目的に加えた貯留型の多目的ダムが主流だ。ただ近年は、環境保全への関心の高まりや水需要の減少、建設コスト削減などの観点から流水型ダムにも注目が集まっている。京都大防災研究所の角哲也教授(水工水理学)は、貯留型ダムで生じる水質変化や魚など生物の移動阻害といった問題は、流水型ダムにすることでほぼ解決できると指摘する。

 国土交通省によると、治水を目的に含む全国の570のダムのうち、流水型は、最上小国川ダム(山形県最上町)▽浅川ダム(長野市)▽辰巳ダム(金沢市)▽益田川ダム(島根県益田市)▽西之谷ダム(鹿児島市)――の5例がある。

 このうち浅川ダムは、2001年に田中康夫知事(当時)の「脱ダム宣言」で計画が中断。しかしダムによらない治水策がまとまらず、07年に当時の村井仁知事が建設再開を表明し、17年に完成した。

 熊本県でも南阿蘇村の白川で、旧民主党政権時代に一時凍結された流水型の立野ダムの建設が、22年度の完成を目指し進んでいるが、周辺住民から「洪水の時にダムの穴が流木や土砂で塞がり洪水調節不能となって危険」などと不安視する声も上がっている。角教授は危険性は低いと指摘した上で、球磨川の治水について「技術的な進歩も踏まえて丁寧に議論すべきだ」と話す。【平川昌範】