氾濫流速下げ、被害最小限にする治水を 川辺川ダム除外10案、議論行き詰まり(熊日新聞)

 球磨川の治水対策についての地元紙の記事を紹介します。川辺川ダム建設に前のめりな国や熊本県、流域市町村に対して、本来のダムによらない治水を追及する必要性を訴える有識者の見解を紹介しています。
 球磨川では国の川辺川ダム計画が流域住民の反対により事実上中止となった2009年以降、ダムによらない治水を追及するとして、国土交通省がダム建設を除く10案を提示しましたが、いずれも巨額な費用と長い歳月がかかるため実現不可能であるとして、治水対策が進まないところで7月の洪水を迎えることになってしまいました。
 この経緯で思い出されるのは、2010年から2011年にかけて国土交通省が行った八ッ場ダムの検証です。ダム建設を中止した場合、富士川から利根川流域に水をひく導水管を設置するなどの実現不可能な計画とダム計画とが比較され、ダム建設が妥当(最も安価で時間もかからない)との結論に至りました。

◆2020年10月9日 熊本日日新聞
https://kumanichi.com/feature/kawatotomoni/1636942/
ー氾濫流速下げ、被害最小限にする治水を 川辺川ダム除外10案、議論行き詰まりー

 国、熊本県、流域12市町村でつくる「球磨川治水対策協議会」は2015年3月から川辺川ダム建設を除く案を模索してきたが、複数の治水策を組み合わせた計10案を検討する段階で市町村間の利害がぶつかり、議論は事実上、行き詰まった。

 10案は、川幅を広げる「引堤[ひきてい]」のほか、「堤防かさ上げ」「遊水地」「放水路」など既存の治水策の組み合わせ。事業費は最大で1兆2千億円、工期は最長200年との国の試算にダム反対派は「国は意図的に議論をサボタージュしている」と批判した。6日に終了した豪雨検証委員会でも、国は「7月豪雨に対する効果は川辺川ダムに及ばない」との結論を示した。

 「ダムによる治水はせいぜい100年。治水は少なくとも200年から300年の長期で持続可能な対策を講じるべきだ」
 ダムの限界を訴え続ける新潟大の大熊孝名誉教授(河川工学)は、集水域への想定内の雨にしか効果を発揮しないダムを「不安定な治水策だ」とばっさり。その上で、特に下流に狭窄[きょうさく]部がある人吉市では「川が氾濫することを前提に、被害を最小限に抑える以外方法はない」とみる。
 大熊氏が提案するのが、川の両岸に樹林帯を設ける「水害防備林」だ。近世からある治水策で、川の流れに沿って整備した樹林帯で氾濫した水の勢いをそぎ、流速を落として「静かに氾濫」させる。同時に土砂を“ろ過”して主に泥水をあふれさせることで被害を軽減。「併せて、建物を耐水化して命を守るべきだ」と話す。
 1997年の河川法改正で、樹林帯もダムや堤防などと同じ「河川管理施設」に位置付けられた。「それなのに、この二十数年で治水計画に水害防備林を取り入れた河川は聞かない」と大熊氏。むしろ「下流への流れを阻害する」として「国土強靱[きょうじん]化」の名の下、水害防備林の伐採が進んでいるという。
 

流速の研究を続ける熊本大大学院の大本照憲教授(河川工学)も、氾濫水の勢いによる被害に注目する。
 今回の豪雨では、球磨村や八代市坂本町などで家が倒壊したり、電柱や道路標識がなぎ倒されたりといった被害が多発。まるで津波に襲われたかのような光景が広がった。
 大本教授は「氾濫するにしても、じわっとあふれさせれば人命が失われたり、家が流されたりといった致命的な被害にはつながりにくい」と強調する。そのために氾濫流速を上げる要因となる人工構造物は、極力排除するべきだと説明する。
 人工構造物とは、市街地にコンクリートなどで造る「特殊堤」や、流れをせき止める橋の欄干、川の中央部に整備された公園などだ。「これらは大洪水で水位を急速に上げて、氾濫した際の流速を上げる」という。

 家が流される危険がある場所では、2階への垂直避難では被害を免れない。大本教授は「住民に危険を周知するには、浸水する深さとともに、予想される流速についても理解してもらうべきだ」と力を込めた。(太路秀紀)