熊本県では、7月の球磨川水害を機に今後の球磨川の治水対策を検討することとなり、10月15日から流域の団体や住民に県知事が意見を聴く会が実施されています。
スケジュールの前半では、国交省が発表した川辺川ダムの建設効果をもとに、流域の農業団体などが川辺川ダムの建設を知事に訴えましたが、八代漁協や川辺川ダムに反対してきた四つの市民団体への意見聴取ではダムに否定的な意見が多く、ダムへの賛否が分かれている状況でした。
(右画像=テレビ熊本 10/22日動画より)
蒲島郁夫知事は、21日の定例会見で、川辺川ダム推進姿勢をにじませる発言をしましたが、22日に甚大な水害をこうむった八代市坂本町と球磨村で被災者から意見聴取を行ったところ、川辺川ダムへの反対意見が相次いだことから、「ダムを造ってほしいという意見が多い印象と述べたが言うべきではなかった」と、とりあえず全面的なダム推進の姿勢はひっこめなければならなくなったようです。
国土交通省は8月と10月の球磨川水害検証委員会で人吉盆地における川辺川ダムの水位低減効果を発表しましたが、22日に意見聴取が行われた八代市も球磨村も人吉盆地の下流側の狭窄部にあり、線状降水帯が流域に長時間停滞した7月の球磨川氾濫では、川辺川ダムがあったとしても被害は免れませんでした。
◆2020年10月22日 熊本日日新聞
https://this.kiji.is/691980505624052833?c=92619697908483575
ー「ダムに頼らない治水を」 熊本県の意見聴取会、豪雨被災住民から反対意見相次ぐー
熊本県の蒲島郁夫知事は22日、7月豪雨で氾濫した球磨川の治水対策について、甚大な被害が出た八代市坂本町と球磨村で住民らに意見を聴く会を開いた。このうち、2018年に撤去が完了した県営荒瀬ダムがあった坂本町では、建設計画が再燃している川辺川ダムについて、反対する声が相次いだ。
坂本町の坂本地域福祉センターでは、住民でつくる自治協議会役員や市政協力員ら34人が参加した。同協議会復興推進部会の松嶋一実副部会長は「かつて川辺川ダムの賛否で地域が分断された。今は住民が結束しなければならない大事な時期。ダムに頼らない治水を考えてほしい」と訴えた。
荒瀬ダム撤去運動を主導した本田進さん(86)は「ダムによって川は死ぬ」と主張。上流の瀬戸石ダム(電源開発)についても「今回、堆積した土砂が一気に流れて被害が拡大した」と指摘した。
一方、球磨村では村役場と神瀬地区の集会施設でそれぞれ意見聴取があり、村議や区長ら計22人が参加した。同村一勝地の齋藤寛さん(62)は「ダムありきの議論は拙速だ。県はダムのメリットだけでなく、デメリットの話も聞かせてほしい」と述べた。
住民でつくる「こうのせ再生委員会」の岩崎哲秀さん(46)も「ダム論議の前に、安心して住める場所の確保を急いでほしい」と要望した。宅地の高台移転を求める意見もあった。
終了後、蒲島知事は、21日の定例会見で「ダム建設を望む声が多くなったと感じる」と発言したことに関して、「意見を聞き始めたばかりで、言うべきではなかった。さまざまな意見を丁寧に受け止めたい」と述べた。(益田大也、小山智史)
◆2020年10月22日 テレビ熊本
https://www.tku.co.jp/news/20201022%EF%BD%855/
ー坂本町と球磨村で住民の意見を聴く会 ダム建設否定的な意見多数ー
球磨川の治水について県が行っている被災地住民から意見を聴く会が22日、八代市坂本町などで開かれ、生活基盤の復旧を求める声のほかダム建設については否定的な意見が相次ぎました。
八代市内から集まった住民35人全員が「いまだにスクールバスが通れず子供たちは八竜小、坂本中にまだ戻れない。国道219号にスクールバスが通れるよう国に強く要望をお願いしたい」「家を建てる所がないと悩んでいる人がいる」「間伐や枝打ちなどがされていない。かなりの倒木が川に流れ込み被害を拡大させた。林業からの見直しも感じている」「ダム造りは絶対反対」「移住して10年。積み上げたものをすべて失った。それでも川が好き。私のイメージの中に川辺川ダムはない。いの一番は瀬戸石ダムの検証だ」など一人ずつ意見を述べました。
一方、球磨村で開かれた会では、神瀬地区の一部住民が蒲島知事に「ダムをめぐる治水議論の前に被災者の住む所や生活再建の議論を優先してほしい」などの要望書を提出しました。7月の豪雨で八代市では坂本町で4人が犠牲となり今も1人の行方が分かっていません。
◆2020年10月22日 熊本県民テレビ
https://www.kkt.jp/nnn/news163015076.html
ー【熊本豪雨】八代市などで治水の意見聞く会ー
蒲島知事が7月豪雨で氾濫した球磨川の治水対策の方向性を決めるため開かれている「住民の意見を聞く会」。これまでに人吉市や芦北町などで地域の住民や様々な団体の意見を聞いてきた中21日、大きな被害を受けた八代市坂本町と球磨村で意見を聞く会が開かれた。
地元の住民を中心に30人以上が集まった八代市坂本町の「住民の意見を聞く会」。地区で唯一のスーパーの店主本田進さんの姿もあった。
7月豪雨で甚大な被害を受けた八代市坂本町。4人が犠牲になり、今も1人が行方不明のままとなっている。球磨川沿いの本田さんの店は7月豪雨で球磨川の濁流に襲われ、自宅から裏にある店の2階まで泳いで渡り九死に一生を得た。
かつて八代市坂本町では、球磨川にあった「荒瀬ダム」を撤去した過去がある。一方、球磨川の治水をめぐり蒲島知事は「川辺川ダムも選択肢のひとつ」と述べ、自らが白紙撤回したダムの再検討に言及している。生活のすぐそばにダムがあった坂本町の住民からは治水のためのダム建設に対する反対の声が相次いだ。また他の出席者からは高台など安全な避難場所の設置を求める声などが挙がった。
一方、午後からは球磨村の2つの地区で意見を聞く会が開かれた。住民が注目したのは国による川辺川ダムの効果をまとめた調査結果。「川辺川ダムがあった場合人吉市の浸水面積がおよそ6割減らせた」としているが、住民からは「当事者がつくった資料を信用できるのか」という疑問の声が。また今も復旧作業が続く神瀬の会場では「治水対策を考える前に道路や公民館の復旧など生活基盤を整えてほしい」という意見が相次いだ。
住民たちからの意見を聞いた蒲島知事は、「様々な意見があった。慎重論もあったしダム+αも丁寧に受け止めて判断に生かしたい」と述べた。22日以降も各地を回る予定の蒲島知事。11月半ばまで医療、観光などの各団体や被災した住民から話を聞き、年内の早いうちに治水対策の方向性を示す方針だ。
◆2020年10月23日 朝日新聞
https://digital.asahi.com/articles/ASNBQ7D18NBQTIPE01C.html
ー国や熊本県の豪雨検証「不十分」 被災者が知事に訴えー
7月の豪雨で氾濫(はんらん)した球磨川流域の治水対策をめぐり、蒲島郁夫・熊本県知事は22日、被害が大きかった同県の八代市坂本町と球磨村の被災者らの意見を聴いた。3会場で計56人と面会。国や県の豪雨被害の検証が球磨川本川など一部にとどまり不十分だとの指摘が相次ぎ、蒲島知事はほかの支流についても検証する方針を示した。
八代市坂本町での面会はこの日午前にあり、地域づくりに取り組む住民自治協議会のメンバーや市政協力員らが意見を述べた。
蒲島知事は12年前に自ら「白紙撤回」を表明した川辺川ダム計画について、豪雨災害を受けて「選択肢の一つ」と軌道修正する発言をしている。参加者からはこの計画を積極的に推す声は出なかった。坂本地域で2年前に荒瀬ダムの撤去を実現した住民運動を率いた本田進さんは、「ダムによって村がつぶされてきた」と訴えて「絶対反対」を表明。知事が打ち出した「ダムによらない治水」の継続を求める声も出た。
賛否は言わず「水害は逃げるしかない。安全な避難場所をつくって」「自然を大切にしながらやることが大事」との意見もあった。
ダムに反対はしないが、「河道掘削などと合わせた総合的対策を求める」「どうしても必要なら(穴あきダムのような)治水のみを目的とする」などと条件をつける人もいた。
自身も被災した市議会議員は「私はダム不要論者ではない」とした上で、「住民たちから『ダムがあったらもっとひどいことになっていた、と伝えてほしい』と言われた」と話した。
球磨村ではこの日午後に村役場と神瀬地区の集会施設の2会場で開催。各地区の区長や住民、村議らが1人ずつ思いを話した。
神瀬地区内で区長を務める瓜生文代さんは「みな神瀬に帰ってきたいので心配せず住める村づくりを」と主張。「方法がどれがいいかは分からないが、確実に治水できる対策の方向性を早く示してほしい。1~2年なら待てるが、それ以上は帰りたい気持ちもなえてしまう」と述べた。
同じく区長を務める男性は「ダムの必要性は理解できるが、全ての被害は防げない。やれることは全てやっていただきたい。温暖化による降雨量の変化も反映した治水を」と訴えた。
この日の各会場では、国や県の豪雨の検証が球磨川本川や川辺川にとどまり、県が管理する他の支流部分での被害の分析が不十分との指摘が相次いだ。
球磨村の斎藤寛さんは「支流ごとに被害も原因も違う。山の荒廃や流木被害にも触れられていない。拙速な検証では良い復興計画はできない」と意見。「ダムは必要かもしれないが、説明がほしい。(国や首長ら)上のほうだけでスピード感を持ってやっていると感じる」と指摘した。
3カ所での意見交換後、蒲島知事は「住民の方から支流の話がとても出てくることは予想していなかった。支流と豪雨被害について研究しなければ」と検証する姿勢を示した。(村上伸一、竹野内崇宏)
◆2020年10月23日 毎日新聞
https://mainichi.jp/articles/20201023/ddl/k43/040/318000c
ー九州豪雨 球磨川治水 ダム効果に疑問の声 住民意見聴取で相次ぐー
7月の九州豪雨で氾濫した球磨川の治水対策を巡り、熊本県の蒲島郁夫知事が流域住民から意見を聴く会が22日、同県八代市坂本町の市坂本地域福祉センターであり、参加者からは環境悪化などを理由にダム以外の治水対策を求める声が相次いだ。
地元の自治会やPTA関係者ら35人が参加した。豪雨後に議論が再燃している川辺川ダム建設について「ダムがあっても今回の洪水は防げなかったのではないか」と疑問視する声が続出。河道掘削や遊水池整備などを求める声が目立った。
このほか、球磨川中流の瀬戸石ダムが洪水被害を拡大させたとの指摘もあり、「川辺川ダムよりも瀬戸石ダムがなければどうなっていたのかを検証するのが先だ」との意見も出た。【城島勇人】
◆2020年10月23日 西日本新聞
https://this.kiji.is/692147069265314913
ー被災地「ダム案は拙速」熊本知事の意見聴取会 八代市・球磨村拒否反応もー
7月豪雨で氾濫した熊本県南部の球磨川を巡り、治水策に民意を反映させようと、蒲島郁夫知事は22日、甚大な被害が発生した八代市坂本町と球磨村で住民の意見を聞いた。「一日も早く集落に帰りたい」という被災者の思いの実現に向けて「治水の方向性」の判断を急ぎ、「川辺川ダムも選択肢の一つ」とする蒲島氏に対して、この日の会合では「拙速」との声やダムへの拒否反応も相次いだ。
「代替地があれば早く帰りたい。でも家を建てる場所がない」。坂本町住民自治協議会の蓑田陽一監事は「何とかしてほしい」と訴えた。会合では「生活道路の早期復旧を」「河川を掘削して」などの要望も上がった。
集落再生の前提となるのは治水策。洪水の被害想定ができない状態では、具体的な復興計画を立てられないからだ。そこで、12年前に蒲島氏が「白紙撤回」した川辺川ダム建設の是非論が再燃しており、流域には「必要性は理解できる」との声や推進論もある。
だが、坂本町で商店を経営してきた本田進さん(86)は「ダムができれば地域は崩壊する」と強調。別の発電用ダムが原因で「川が死んだ」との思いがあるという。球磨村でヤマメ養殖場を管理する斎藤寛さん(62)も「川辺川ダムで浸水被害を6割減らせる」とする国の検証結果に「拙速で不十分。デメリットも丁寧に説明を」と指摘した。
同村神瀬地区で住民組織を立ち上げた一人、岩崎哲秀さん(46)は「まず住める場所の確保」を望み、最終目標として「人々が集う村づくり」を提案した。
蒲島氏は会合終了後、報道陣に「川辺川ダムを巡っては、分断の歴史が60年近くあった。(地域が)二分されないような計画、方向性を考えなければいけない」と語った。 (古川努、中村太郎)
◆2020年10月23日 NHK熊本放送局
https://www3.nhk.or.jp/lnews/kumamoto/20201023/5000010366.html
ー治水対策で知事が住民の意見聞くー
7月の豪雨で氾濫した球磨川の治水対策について、蒲島知事が流域の住民などから意見を聞く会が、22日球磨村などで開かれ、ダムの建設の是非をめぐってさまざまな意見が出されました。
熊本県の蒲島知事は、球磨川で行う治水対策の検討材料にするため、流域の住民などから直接、意見を聞く会を順次開いていて、22日は球磨村などで開かれました。
このうち球磨村神瀬地区での会合には住民ら11人が参加し、はじめに全員で犠牲者に黙とうを捧げました。
会合では県が支流の川辺川でのダム建設を選択肢の1つとしていることについて、「ダムがあれば浸水しなかった家もあったのではないか」とか、「早く安心して住めるようにしてほしい」といった声が聞かれました。
一方、球磨村役場で開かれた会合では、別の住民たちから「豪雨の被害の検証が拙速で不十分だ。鮎のいる球磨川を残してほしい」など、環境への影響を念頭にダム建設に慎重な意見も出されました。
会合を終えた蒲島知事は「ダムについてさまざまな意見が出た。民意も変わるが、自分の判断も日々変わるので、最終的には全体を捉えて判断したい」と話していました。
蒲島知事は今後、観光団体や流域の市町村長などからも意見を聞いたうえで、年内の早い時期に県としての方向性を示すとしています。