熊本県知事が川辺川ダム建設について、白紙撤回から容認へと180度方針を転換させたことについて、共同通信が配信し、上毛新聞の紙面でも大きく取り上げられています。
2009年に発足した民主党政権は全国のダム事業の見直しを掲げましたが、国土交通省九州地方整備局の川辺川ダムと長崎県営・石木ダムを除き、八ッ場ダムなど事業者が進めることを求めたすべてのダム事業が継続されてきました。
ダム行政が強力に推進される現状について、以下の記事では、国土交通省の改革派官僚として、淀川流域委員会で河川行政の民主化をめざした宮本博司さんのコメントが紹介されています。逆流する河川行政が正常に戻る日はいつのことでしょうか。
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ダムの工期は一般的に10~20年程度かかるとされ、川底掘削や堤防強化などに比べ費用がかかる。国土交通省の諮問機関「淀川水系流域委員会」で委員長を務めた同省OBの宮本博司さんは「川辺川はダム計画中止後、人命を救う代替策をやってこなかった。きちんとやっていれば被害を軽減できたはずだ」と指摘。
その上で「ダムは限られた容量以上の水はためられず、想定外の大雨に対応できない。ダムを造れば安心という論調は間違いだ」とし、堤防強化や遊水地整備など、流域全体で治水対策に取り組む必要があると話した。
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◆2020年11月12日 共同通信
https://www.saga-s.co.jp/articles/-/599077
ー川辺川ダム建設容認へ 脱ダム転換、各地波及も 専門家「大雨対応に限界」ー
「脱ダム」の象徴とされた川辺川ダムについて熊本県が建設容認に転換する方向となった。整備の是非で揺れている例は各地にあり、ダム推進論が広がる可能性もある。ただ、ダムは河川氾濫を防ぐ効果が高い半面、膨大なコストと工期の長さが課題だ。水害が大規模化する中「ダムは想定外の大雨には対応できない」と、効果の限界を指摘する専門家もいる。
▽球磨川で甚大被害
熊本県の蒲島郁夫知事は2008年に川辺川ダム反対を表明して以来「ダムによらない治水」を掲げてきたが、今年7月の球磨川流域の甚大な被害を目の当たりにし「ダムの在り方を含め検証したい」と軌道修正した。
ダムがあれば被害を軽減できたとする国の推計も示され、流域首長らにも推進論が拡大、建設を認める方向に傾いていった。水質への影響など反対意見も根強いが「全員を100%満足させることは難しい」と蒲島氏。ダムを含む治水策が住民に支持されなければ「責任を取る」と覚悟する。
ダム容認の動きはほかにもある。事業費約1080億円の大戸川ダム(滋賀県)は09年に計画が凍結されたが、三日月大造知事は昨年「治水の安全度を上げるために必要」との姿勢を打ち出した。滋賀県甲賀市の担当者は「市内で浸水被害が相次いでおり、早期整備を訴えていく」と話す。
1971年に予備調査が始まった事業費約485億円の城原川ダム(神埼市)。住民の一部が反対してきたが、関係自治体は16年、増水時だけ水をためる流水型ダム(穴あきダム)とする案を了承し、着工に向けて設計や測量が進む。県担当者は「水害対策に欠かせず、一日も早く建設してほしい」と訴える。
▽今なお抗議行動
「コンクリートから人へ」を掲げた旧民主党政権は10年、83ダムの見直しに着手。54ダムは継続、25ダムは中止となったが、4ダムはまだ検証中だ。事業費約170億円と見込まれる岐阜県所管の大島ダムはその一つ。県は別のダムを建設中で「工事を同時に進める財政的余裕はなく、まだ検証を進められていない」(県担当者)という。
長崎県が計画を進める石木ダムの工事現場では住民による座り込みなど抗議運動が続く。反対する市民団体代表の松本美智恵さん(68)は「川辺川ダムは、流域首長が建設推進に転換したことで知事の判断が傾いた。市民の声はなかなか行政に届かない」と嘆く。
ダムの工期は一般的に10~20年程度かかるとされ、川底掘削や堤防強化などに比べ費用がかかる。国土交通省の諮問機関「淀川水系流域委員会」で委員長を務めた同省OBの宮本博司さんは「川辺川はダム計画中止後、人命を救う代替策をやってこなかった。きちんとやっていれば被害を軽減できたはずだ」と指摘。
その上で「ダムは限られた容量以上の水はためられず、想定外の大雨に対応できない。ダムを造れば安心という論調は間違いだ」とし、堤防強化や遊水地整備など、流域全体で治水対策に取り組む必要があると話した。【共同】
◆2020年11月12日 共同通信(上毛新聞紙面一面より転載)
ー川辺川ダム 熊本県容認 19日にも「穴あきダム」軸に検討ー
7月の豪雨で氾濫した熊本県・球磨川を巡り、蒲島郁夫知事が支流での川辺川ダム建設容認を19日にも表明することが11日、関係者への取材で分かった。増水時だけ水をため、環境への負荷が低いとされる「穴あきダム」が検討の軸になる。蒲島氏は従来のダム反対の方針を転換するが、流域住民間では建設反対の意見が根強い。建設を容認すれば、2008年に自ら計画への反対を表明し「ダムによらない治水」を掲げた看板製作の転換になり、蒲島氏がどのように住民間の合意形成を図るかが課題となりそうだ。
蒲島氏は11日、河川工学などの専門家から穴あき型の利点や課題などを聴取。終了後、報道陣に「(穴あき型への)理解が深まった。なるべく早く方向性を示したい」と述べた。
加藤勝信官房長官は同日の記者会見で「熊本県から正式な発表や国への打診が現時点であったわけではない」と述べるにとどめた。
相良村で建設が予定されている川辺川ダム計画を巡っては、蒲島氏による反対表明の翌年に民主党政権が中止方針を決めた。蒲島氏は、国や流域自治体と遊水地など代替案を検討していたが、方向性がまとまらない中で豪雨が襲った。豪雨による県内死者は65人、流域の人吉市や球磨村などで6千戸超が浸水した。
蒲島氏は豪雨後「ダムは選択肢の一つ」と発言。国は10月上旬、仮にダムがあれば豪雨の一部浸水範囲が「約6割減少」との推計を示し、流域12市町村の首長はダムを治水策の柱に検討するよう県に要望していた。
蒲島氏は10月15日以降、住民や経済団体の計約450人から治水策について意見聴取したが、住民間では散布が分かれている。このため、県の検討候補に、平時は水を流すが、大雨の時だけためる構造で、清流への影響が小さいとされる穴あき型が浮上した。
蒲島氏は12日にも県議会各会派から意見を募る予定。