熊本県の蒲島郁夫知事は、7月の球磨川水害後の治水対策として、川辺川ダム計画を容認する方針です。
今月11日、この方針転換が報道された翌12日、蒲島知事は河川工学の専門家3人から意見聴取をしましたが、そのテーマは川辺川ダムを「流水型(穴あき)ダム」として復活させることについて、でした。蒲島知事は、川辺川ダム復活はすでに決まったこととして、国交省が河川環境への負荷が少ないと推奨する「流水型ダム」を志向しているようです。
意見聴取では、今本博健京大名誉教授が川辺川ダム計画に明確に反対、大本照憲熊本大教授は流水型ダムを推奨、島谷幸宏九大教授は流域治水を求めたと報道されています。これまでの意見聴取で、蒲島知事は球磨川流域住民から川辺川ダムに反対する意見を多数聞きながら、一切取り上げる気配がないことから、今回の専門家からの意見聴取も形式的なものと考えられます。
関連記事を転載します。
◆2020年11月12日 熊本日日新聞
https://this.kiji.is/699423714200487009?c=92619697908483575
ー球磨川の環境守ってこそ ダム治水、三者三様でも専門家の意見一致 蒲島熊本県知事が聴取ー
熊本県の蒲島郁夫知事は11日、球磨川の治水対策について、ダム治水に異なる立場をとる3人の河川工学者から意見を聴いた。3人は、川辺川ダム建設を巡ってさまざまな意見を述べたが、球磨川の自然環境への配慮を求める点では一致した。
ダムの限界を訴える京都大の今本博健名誉教授(82)は、国土交通省の解析結果を疑問視。人吉地点の流量を過小評価し、川辺川ダムの効果を過大に算定している可能性があると指摘した。川辺川ダムでは他の支流が原因となる被害は防げず、球磨川流域で今回犠牲となった50人のうち「ダムがあれば救えたのは数人だ」とした。
さらに流水型の穴あきダムでも環境負荷は避けられないと強調。あらかじめ目標水位を設定する河川整備ではなく、できる対策を積み重ねながら「避難することで命を守り、失われた財産は国全体の公的補償で対応するしかない」と訴えた。
一方、河川の流速の研究を続ける熊本大の大本照憲教授(65)は、川辺川ダムのプール機能は大きいとしつつ、「建設するなら、できるだけ清流を残すべきだ」と主張。ゲート操作を伴う流水型ダムなら、洪水時に水と同時に土砂も下流に流すことで環境負荷を減らせるとした。
市房ダムが今回、2万立方メートルの流木の流出をくい止めた点も評価。「もし下流に流れ出ていれば、被害はさらに拡大した」と指摘した。流下能力を上げるため、人吉市の中州にある中川原公園のスリム化も提言。土砂ではなく越流した水だけが水田地帯に流れ込む、加藤清正の治水にならった「堤」の整備も促した。
各地で「流域治水」のアドバイザーを務める九州大の島谷幸宏教授(65)は、水田の貯水機能を最大限利用する「田んぼダム」をはじめ、地域ごとに小さな対策を重ね、「流域全体でゆっくりと水を流す」対策を提案した。全ての支流でピーク流量を2割カットできれば、本流でも3割程度の低減につながると試算。支流対策のモデルづくりを勧めた。
それでもダムを造るとなれば、「単なる流水型ではなく、環境への愛情を込めた工夫が必要だ」と強調。流域治水を実現するには県のリーダーシップが不可欠だとした。
終了後、蒲島知事は「生命財産を守り、球磨川の恵みも維持できる、関係者が受け入れ可能な方針を示すのが知事の責任だ」と力を込めた。(太路秀紀)
◆2020年11月12日 西日本新聞
https://www.nishinippon.co.jp/item/n/663392/
ー「流水型ダム」専門家の見解割れる 蒲島知事「環境への配慮が必要」ー
7月の熊本豪雨で氾濫した球磨川流域の治水策を巡り、熊本県の蒲島郁夫知事は11日、河川工学の専門家3人から意見を聴取した。川辺川ダム建設の是非論が再燃する中、「環境への配慮が必要」という点では一致したが、環境への負荷が少ないとされる流水型ダム(穴あきダム)の効果や負の影響については意見が分かれた。
リモート参加した京都大の今本博健名誉教授は「私はダムを完全に否定するものではない」としながらも「だが、ダムができると川が変わってしまう」と環境悪化に強い懸念を示した。
今本氏は、国が示している「川辺川ダムが存在した場合、人吉市地点で浸水範囲は6割減」とする検証結果に対し、「ダム効果を過大に評価している。効果は3~4割減にとどまる」と独自試算で反論した。流水型ダムについても「魚の遡上(そじょう)が阻害され、土砂が堆積する」と否定的で「避難対策と公的補償制度で対応すべきだ」と主張した。
一方、熊本大の大本照憲教授は「従来型ダムは副作用が大きい」としながらも「流水型ダムに放流ゲートを設置すれば、ダム内に堆積する土砂をコントロールでき、水質は守れる」と述べた。
大本氏は「今回の災害では人吉球磨盆地に(氾濫水を)貯留したことで八代市が守られた」との見解を示し、「これを見過ごしてはいけない。流域の中核である人吉市を救う必要がある。ダムを建設するならば清流を後世に残すため、安全と環境の折り合いをつけて」と注文した。
九州大の島谷幸宏教授は「本流対策だけでは限界がある」として、水田に貯留する「田んぼダム」や休耕田を活用した遊水地などを組み合わせた「流域治水」の重要性を強調。支流も含めたきめ細かい対策を積み重ねた上で「最後の手段」として流水型ダムの設置もあり得るとした。
島谷氏は「川辺川が死んだら、あの地域はなくなってしまう。環境への配慮が必須」と訴え、「流水型ダムも構造によって環境への影響は異なる。大洪水を貯留し、中小洪水は流す構造にすれば、堆積した土砂を流せる。環境への負荷は減らせる」と述べた。
12日は県議会各会派のほか、山田正中央大教授に意見を聞く予定。(古川努)
◆2020年11月12日 毎日新聞熊本版
https://mainichi.jp/articles/20201112/ddl/k43/040/344000c
ー九州豪雨 球磨川治水 「国はダム過大評価」 熊本知事聴取に専門家ー
7月の九州豪雨で氾濫した球磨川の治水対策について、熊本県の蒲島郁夫知事は11日、河川工学の専門家3人から意見を聴取した。豪雨被害の検証委員会で国が示した「川辺川ダムがあれば、人吉地区の浸水面積を約6割減らせた」とする推計について、京都大名誉教授の今本博健さんは「ダムの効果を過大に評価している」と批判した。
独自に豪雨被害を検証した今本さんは、川辺川ダムがあった場合の人吉地区の浸水面積の減少率について「30~40%」と指摘。「ダムがあったとしても、甚大な被害が避けられなかったのは明らかだ」と述べた。
また、熊本大の大本照憲教授は、大雨時以外には水をためず川の水がそのまま流れる「流水型」のダムについて、「(水をせきとめる)貯水型に比べて圧倒的に(環境への)影響が小さい」と語った。九州大の島谷幸宏教授は、複数の対策を組み合わせて流域全体で被害を防ぐ「流域治水」の意義を強調し、「山の中にある休耕田もあり、水をためたり、木を植えたりすることが非常に重要だ」と述べた。【城島勇人、清水晃平】