昨年9月、長崎県は石木ダム建設のために川棚町川原地区住民の私有地を強制収用しました。明け渡し期限の昨年11月18日から一年が経過しました。長崎県は機動隊などを使って強権的に住民を追い出すこと(行政代執行)が出来るようになりましたが、住民や支援者の力で、それを押しとどめています。
地元では石木ダムに反対する二つの団体が共催で集会を開きます。
(➡「石木ダム強制収用明渡期限1周年 石木ダム強制収用あんまいばい2 日本全国 言いたか放題!ー11/28、長崎県川棚町」)
石木ダムの反対運動では、運動を支援するためのカレンダーの販売を行っています。
(➡「石木川カレンダー2021 」発売のお知らせ)
現地の状況を伝える記事を紹介します。
◆2020年11月18日 長崎新聞
https://this.kiji.is/701633172338361441?c=174761113988793844
ー石木ダム、期限から1年 暮らし続ける13世帯 「古里沈む気しない」ー
長崎県と佐世保市が東彼川棚町に計画する石木ダム建設事業は、水没予定地に暮らす反対住民13世帯の宅地を含む全用地の明け渡し期限から18日で1年となる。本体工事着工に向けた県道付け替え道路工事(1工区約1.1キロ)は約560メートルで舗装を終え、風景は少しずつ変わる。一方で、所有権を失った13世帯は明け渡しに応じず、古里で暮らし続けている。
住民らは17日も朝から工事現場に集まり、抗議の座り込みを続けた。今や「日常」となった時間。午後から参加した岩下すみ子さん(71)は長いようで早かった1年で、支援してくれる県内外の人たちとのつながりもより深くなった、と感じる。「現場に通い、座り込む毎日だけど苦痛はない。古里がダムに沈む気は全くしない」という。
同事業を巡っては、県収用委員会が昨年5月、地権者に全ての未買収地約12万平方メートルを明け渡すよう裁決を出した。土地収用法に基づき、県と市が全ての建設予定地を取得したのが昨年9月20日。家屋などの物件を含まない土地は同19日、物件を含む土地は昨年11月18日が明け渡し期限だった。
現在、知事権限で家屋などを撤去できる行政代執行も可能な状況にある。中村法道知事は「それ以外に解決の方策がない段階で総合的に判断する」と慎重な立場を繰り返す。県側は話し合いでの解決を模索するが、昨年9月以降、その機会は訪れていない。
◆2020年11月19日 西日本新聞
https://www.nishinippon.co.jp/item/n/665578/
ー石木ダム建設 13世帯反発、県と住民の溝深く… ー
長崎県川棚町の石木ダム建設を巡り、事業者の県が予定地に暮らす13世帯の家屋を強制収用する行政代執行が可能になって、19日で1年。県は住民との対話を試みるが、積もり積もった県への不信感もあり、反対運動は一層頑強になっている。両者の溝は埋まりそうもなく、ダム建設では前例がない強硬手段に出るかどうかが焦点となっている。
「計画見直しを前提にした協議であれば応じる」
県土木部長は10月13日に現地を訪ね、住民側に中村法道知事と面会するよう依頼したが、受け入れられない要求を突きつけられて空振りに終わった。宅地の明け渡し期限(昨年11月18日)が過ぎて以降、県幹部が現地に赴いての依頼は6回目。面会は昨年9月以降、実現していない。
「県の言うことは何一つ信用できない」。反対運動の中心にいる岩下和雄さん(73)は語気を強めた。
不信の根っこにあるのが、ダム建設の現地調査に入る前の1972年に県と地元3地区が交わした「覚書」の存在だ。
<建設の必要が生じたときは、改めて甲(3地区)と協議の上、書面による同意を受けた後着手する>
住民は「合意なしに建設することはない」とみて現地調査を容認。だが県は調査で「建設可能」と判断すると、書面での同意がないまま手続きを進める。82年には機動隊を動員して測量調査を強行。小中学生や高齢者も抱え上げて排除した。
「最初から県はだますつもりだった」。岩下さんはそう考える。
一方、県は覚書について「住民の理解の上で事業を行うという基本的な考え方について合意したもの」と説明。既に8割以上の地権者が立ち退きに応じ、反対住民の理解と協力が得られるように長年努力を続けてきたことを理由に「覚書に反するような手続き違反はない」との認識を示す。
今年10月には国の事業認定取り消しを求める訴訟で住民側の敗訴が確定。県は現地で水没する県道の付け替え工事も進めるが、住民は支援者と現場に連日座り込み、工期は3回の延期を余儀なくされた。
県は本年度当初予算に初めて本体工事費を計上しており、中村知事は12日の記者会見で「年度内に着工したい」と強調。着工は代執行対象の家屋や宅地を避けて行うことは可能だが、実行すれば住民側のさらなる反発は必至だ。
中村知事は代執行について、関係部局に「住民の気持ちを考えてほしい」と伝えているという。県幹部は「やらないと決めたわけではない。代執行はあくまで最終手段で選択肢の一つだ」と話す。 (岩佐遼介、徳増瑛子)
【ワードBOX】石木ダム
長崎県と佐世保市が治水と市の水源確保を目的に、川棚町の石木川流域に計画。総貯水量約548万トンで、事業費は約285億円。当初は1979年度完成を目指していたが、2025年度に見直した。県収用委員会の裁決に基づき、反対住民の土地や建物の所有権は19年9月に国が取得している。
◆2020年11月19日 長崎新聞
https://this.kiji.is/701995600895968353
ー【混迷の石木ダム】インタビュー・中村法道知事 代替案なく不退転の決意ー
長崎県と佐世保市が東彼川棚町に計画する石木ダム建設事業。事業採択から45年の歳月が流れ、県は家屋などを強制撤去できる行政代執行の一歩手前まで手続きを進めてきた。だが今も水没予定地に暮らす13世帯は反対の姿勢を崩さず、事態は混迷を深めている。互いが納得する形で解決する余地はないのか。中村法道知事に聞いた。
-事業が進まない要因と県の責任をどう考えているのか。
川棚川の治水の安全性確保と佐世保市の慢性的な水不足解消のため「ダム建設に依(よ)らざるを得ない」と、地元住民の理解が得られるよう歴代知事や職員が何度も戸別訪問するなど努力を重ねてきた。この間、1982年に強制測量を実施し、行政に対する不信感が相当大きくなったのは事実。この点について当時の高田勇知事はのちに「ご心労、ご迷惑をお掛けした」旨の発言をされており、私たちも同じ思いを申し上げてきた。ただそうした経過の中でも8割の地権者の方々から土地を提供していただいた。住民の安全安心の確保が強く求められる中、ダムがいまだに完成していないことに強く責任を感じている。
-ダムの治水、利水効果について県・佐世保市と反対住民の主張は溝が深いが、埋められると思うか。
これまでに河川の氾濫が起きた降水量には現在進めている河川改修で対応できるが、それ以上の100年に1度かつ最も危険な雨の降り方でも、住民の生命・財産を守るという水準で事業を進めている。利水では人口は減少しているのに水の需要予測が過大と指摘されているが、一定の余裕量は必要。全国のダムも同様に推計されている。時間をかけて説明すれば理解していただけると思う。だが事業を白紙に戻さなければ話し合いに応じないといった主張が繰り返され、耳を傾けてもらえない状況が続いており非常に残念だ。
-県幹部は昨年9月以来の知事との面談を働き掛けているが、住民は先に工事の中断を求めている。
大規模災害が頻発するような状況では一刻も早い環境整備は行政の責務。話し合いが進まなければ工事再開もあり得る、との前提で話し合うことはあるかもしれない。実現すれば、まずはダムの必要性を理解してもらうことが最も重要になる。幾通りもの選択肢の中から今の案を選んできた経過があり、さまざまな疑問に答えられる。
-知事は行政代執行について「(2022年3月までの)任期中に方向性を出したい」と述べている。
住民の理解を得て事業を完成させるのがベスト。行政代執行は最後の最後の手段。状況の推移を見極めながら総合的かつ慎重に判断したい。
-行政代執行に踏み切れば、県も世間から批判されダメージは大きい。現実的な選択肢になり得るのか。
新たに50戸以上の移転を伴う河川拡幅や、海水淡水化装置の導入など、相当コスト高になってもダム以外の手法を選択するという県民・市民の意見が多く出てくれば話は別だが、現実的に考えると代替案はない。不退転の決意で事業に臨まなければならないと考えている。行政代執行がやむを得ない局面となれば、批判やお叱りを甘んじて受ける覚悟で進めなければならない。
-それは政治生命を懸けるという意味か。
行政代執行をするのであれば、まさに政治生命を懸けた決断が必要になる。
◆2020年11月20日 長崎新聞
https://this.kiji.is/702358070994617441?c=174761113988793844
ー【混迷の石木ダム】インタビュー 絶対反対同盟 岩下和雄さん 「話し合い」今が機会ー
-石木ダム建設事業に反対する理由をあらためて。
ひと言で言うと、私たちの生活を犠牲にするだけの効果も利益もないから。川棚川の治水は堤防補強と河底のしゅんせつで十分対応でき、その方が安くて早い。県は当初「河川改修に30~40年かかるが、ダムはもっと早い」と説明した。初めから河川改修すれば、今ごろ完了していたはずだ。
-佐世保市の利水については。
計画当初、同市は将来的に日量17万トンの水が必要だから石木ダムの6万トン(現在は4万トン)で補うと言っていたが、今年の給水実績は多くて日量7万トン弱。もう必要なくなったということ。どうしても足りないというなら、地下ダムなどの方法もある。市の水需要予測は必要以上に多く、実際の保有水源も過小評価だ。
-県は「話さえ聞いてくれれば、理解してもらえる」と主張している。
だったら強引な方法をやめて、私たちの同意を得るべきだ。1972年の予備調査前には「地元の同意を得てから建設する」と約束した覚書も交わしたのに破られた。私たちは「必要性の話し合いならいつでも応じる」と言ってきた。応じなかったのはむしろ県側。移転を前提にした補償交渉しかしようとしなかった。
-今後、県側と「話し合い」のテーブルに着くための条件はあるのか。
現時点の工事の中断。県は「白紙撤回」が条件ととらえているようだが、そんなことは言っていない。話し合いの結果として白紙に戻ることを望んでいる。県もダム建設を望むなら、両者で対等に意見を交わし、私たちの同意を得てから工事を再開すればいい。「工事は続ける。話し合いに応じろ」は対等と言えない。
-ダム用地の地権者の8割は同意した。
最初から移転を望んでいた人もいる。絶対反対同盟から移転した人は22世帯のうち9世帯で半分に満たない。彼らも個別の事情で移転したのであり、ダムに賛成したかのように言いはやすのはおかしい。
-県は行政代執行も選択肢から除外しない構えだ。
ありえない。全国的に見て、これだけの人が実際に生活を営む土地での代執行は、ダムに限らず例がない。強行すれば、これまでダムに関心がなかった人にも支援の輪が広がるだろう。だから県は工事をストップしてでも、私たちと話し合う必要がある。今が一番いいタイミングではないか。本当は強制収用前に話し合ってほしかったが。
-13世帯の結束に変わりはないのか。
何ら変わらない。むしろこれまでの強硬策で、県への不信感は大きくなった。私たちは移転しても、今のように地域に溶け込んだ生活はできない。それぞれに老後の計画や夢もあったのに、10年前に付け替え道路工事が始まってからは現場で抗議する毎日。みんなで広場に集まり、グラウンドゴルフを楽しむこともできなくなった。老後の生活がダムで犠牲になったことは悲しい。一日も早くこの問題が解決することが、一番の願いだ。