7月の大水害を機に、川辺川ダム計画が復活することになった球磨川流域において、民間会社と横浜国立大学が共同で住民を対象に、今後の治水対策等について行ったアンケート調査の結果が公開されています。
以下に、一部を転載します。詳しくは以下のページをご覧ください。
★球磨川流域の治水に関する流域住民アンケート調査―「川が溢れることを想定して対策すべき」70%、川辺川ダムについては意見分かれるも「住民との議論・説明不十分」73%
株式会社マイズソリューションズ・横浜国立大学共同調査
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000003.000057581.html
【調査背景と目的】
令和2年7月の豪雨による球磨川流域での大きな被害をうけて、熊本県や国土交通省、流域の市町村においては、「これから球磨川流域の治水をどう進めていくか」についての議論がなされています。
国土交通省は、近年増加する水災害に備えるため、国・都道府県・市町村・企業・住民等により流域全体で治水を行う「流域治水」への転換を掲げており、球磨川流域でも今後の治水に「流域治水」の考え方を組み込むことを検討しています。
また、蒲島郁夫熊本県知事は、今回の水害をうけて、2009年に建設を見送った川辺川ダムを、環境に配慮した流水型ダムとして国に建設を求めることを表明しました。
一方で、これらの治水の方向性に関する議論では、住民の意見が十分に反映されていない、また、説明が不十分だとの主張が住民や有識者等から挙がっています。
こうした背景を踏まえ、今回の調査では、治水方針の検討の一助とすることを目的として、流域住民に簡易なアンケート調査を行い、「流域治水」および「川辺川ダム」に対する住民の意向を把握しました。
【アンケート調査概要】
◆期間:2020年11月13日(金)~2020年11月25日(水)
◆対象:球磨川流域住民(マクロミルモニター)
◆回答数:307(八代市166、人吉市96、芦北町8、多良木町8、錦町8、相良村6、あさぎり町6、湯前町4、山江村3、水上村2、球磨村0、五木村0)
【調査結果】
アンケート結果は以下の通りです。
Q1 あなたは流域治水について知っていましたか?(あてはまるもの一つを選択)(n=307)
「流域治水について内容を知っていた」 23%、
「流域治水について、内容は知らなかったが、聞いたことはあった」 52%、
「流域治水について、初めて聞いた」 25%
Q2 流域治水では、国・都道府県・市町村・企業・住民等、あらゆる関係者が協力して進めていくことが重要です。球磨川流域において、このような治水のための協力関係はどの程度築けていると感じますか?(あてはまるもの一つを選択)
治水についての協力関係について、
「十分に築けている」 2%
「ある程度築けている」 17%
「あまり築けていない」 30%
「全く築けていない」 12%
「どちらともいえない」 41%
Q3 Q2で「どちらともいえない」、「あまり築けていない」または「全く築けていない」と回答された方に質問です。球磨川流域の治水において、住民を含めたさまざまな関係者の協力関係を築いていくためには、どのようなことが重要だと思いますか?(自由記述)
住民への説明と意見交換に関する意見が多数寄せられました。また、専門家を交えた議論の必要性や、官民一体の協議体などについても意見がありました。
以下、回答例
「住民への情報提供と住民の意見を十分に聞くこと。専門家と住民の話し合い。」
「球磨川流域にある市町村への地道なタウンミーティングの実施、官民一体の協議会の設置(小学生や中学生、高校生など将来を託す年代の参加)、在り来りの内容を大人が出すより、実現に疑問がつくような若い世代のアイデアを大人が実現できるようにすべきだと思う。」
「流域治水のモデルとして国家プロジェクトとし専門家を派遣し、ダムありきの治水では無く様々な可能性を分析し、対象住民には論理的に説明し協力を得る。もちろん補償を十分に行う。」
「住民なのに詳しい治水について知らない人が多いと思う。災害の記憶が新しいうちに、球磨川の問題点や、自治体の治水についての考え方、他地方での治水方法や成功事例などをもっと分かりやすくテレビなどで多くの人に知らせて、その上で住民の声を聞く場を作るべきだと思う。」
「住民への説明会をもっと広範囲に実施すべきである。一部の利害関係者に偏った意見集約が拙速に行われていると感じ取れる。」
「住民の意見を受け入れて協議会を設置し、実行すること」
Q4 流域治水の実施には、住民や地元企業の協力も重要です。以下の項目のなかに、流域治水を進めるために、あなたが協力したいと思う項目はありますか?(あてはまるものすべてを選択)
流域治水を進めるうえで協力したいと思うことについては、「住居や店舗の移転」(移転費用は行政負担)が34%で最も高く、その他の項目については、概ね20~30%の回答となりました。
Q5 流域治水では、最近の大雨の増加等をふまえ、これまでの「一滴も水をあふれさせない」という前提をあらため、「場合によっては川があふれてしまうこともやむを得ない」という前提のもとに、遊水池の設置や、避難などの対策を進めることが含まれます。この点についてあなたの考えはどちらに近いですか?(あてはまるもの一つを選択)
「川があふれてしまうことはある程度やむを得ないので、それを見越した対策を進めるべき」 70%、
「川があふれることは絶対にあってはならないので、とにかく溢れないようにする対策を進めるべき」 30%
Q6 あなたは、川辺川ダムの建設について賛成ですか、反対ですか?(あてはまるもの1つを選択)
「大いに賛成である」 10%
「どちらかと言えば賛成である」 25%、
「どちらかと言えば反対である」 19%
「絶対に反対である」 10%
「どちらとも言えない」 36%
ただし、この結果は今回の水害で大きな被害のなかった八代市市街地住民の意見が最も強く反映されており、今回水害にあった人吉市やダムによる清流への影響が顕著に出る川辺川流域の住民の声を反映したものではないため、今回被害の大きかった人吉市(96人)と川辺川の清流沿いの相良村(6人)の住民のみの回答を別途まとめました(五木村と球磨村、八代市の中で被害のあった坂本町(旧坂本村)からは回答が得られませんでした)。
人吉市と相良村の回答(n=102)
「大いに賛成である」 10%
「どちらかと言えば賛成である」 20%
「どちらかと言えば反対である」 26%
「絶対に反対である」 16%
「どちらとも言えない」 28%
Q7 Q6で「どちらかと言えば反対である」または「絶対に反対である」を選択された方へ、反対理由を教えてください。
「ダムによる自然環境への影響が大きすぎる」 71%
「ダムには緊急放流の危険が伴う」 66%
「山林の整備や遊水池の確保、川底の土砂の撤去など、ダム建設以外にできることがまだ多くある」 60%
Q8 川辺川ダムの建設について、流域住民との議論・説明は十分になされていると感じますか?(あてはまるもの1つを選択)
「十分に議論・説明されている」 4%
「ある程度議論・説明されている」 27%
「議論・説明がやや不十分である」 46%
「議論・説明が全くもって不十分である」 23%
Q9 川辺川ダムや球磨川流域の治水全般について、市町村や県、国に対して期待することを教えてください。(自由記述)
以下、回答例
「ちゃんと行政と市町村長だけで話が完結するのではなく住民にも納得のいく説明をして欲しい」
「ダムを作れば鮎やヤマメなどの川魚の生育に悪影響が及ぶ。一方、作らなければ今回のような水害を繰り返すことになるでしょう。国や県や市町村は地域住民の意見を十分取り入れ納得いく方針を打ち出してくれることを期待します。」
「全員を納得させることは無理である。まずは人の命を第一に考えて実行してほしい。自然の保護、漁業問題はその次である。人が生きていくことが大事である。」
「安心安全はもちろんのことだが、納得が必要」
「自然が相手なのでこれが正解という施策は無いと思います。その上で、なるだけ多くの人が納得できるような最適解を導き出して下さることを期待します。そのためにも丁寧に住民や企業等の意見をくみ上げて欲しいと思います。」
「どんな治水対策も万能ではない。それよりも避難誘導体制を万全のものにして豊かな自然を守るべき。」
「まず住民の意思(土砂の撤去、川底を掘る)を実現してほしい。その結果を踏まえてダム理論をすすめた方がいい。」
「球磨村の住民はこれまで何度も川幅を広げる為に立退き再建をしています。7月豪雨で球磨川には大きな石や沢山の砂利が溜まり川が浅くなり球磨川下りもラフティングもできない状態です。大事な人吉の収入源まで奪われてしまいます。ダムができることによる、メリット、デメリットを地元の人に十分聞いてから判断して欲しいです。地元の人にしか分からない今の球磨川の必要性もあるんです。」
Q10 そのほか、球磨川流域の治水について、思うことを自由に記述してください。(自由記述)
以下、回答例
「球磨川流域に住んでいるが、遥拝神社から見下ろす球磨川の穏やかな流れが、未来永劫続くように自分自身も治水対策について参加できていったらと思う。」
「ダムだけには頼って欲しくない。7月の豪雨の時にも、下流域の河川の水量が大幅に増えている時点で、上流のダムの放流の情報が流れた。生きた心地がしなかった。ダムを作ってもいいがいくつかの方法を組み合わせて治水事業を行って欲しい」
「球磨川は地域にとって大切なものです。川の性質を知り、人間が川に合わせるようなものとなってほしい。」
「川の環境も大事だが、命を守ることが優先。川の環境を考慮しながらも命第一の方向で進んでいってほしい。」
「球磨川流域に住む1人として、この豪雨災害の復旧・復興、ダム問題が政治のかけ引きに利用されることがないよう願います。」
「危険な場所を、安全に変えることも必要だと思うが、危険な場所から、安全な場所に移転する事も選択肢にいれるべき。危険な場所から、移転したい人に対して助成を行えばいいし、どうしても動きたくない人に対しては、それなりに覚悟を持ってもらえばいい。」
「ダムはいらない また何十年も振り回されたくない」
「多少でも水害リスクを軽減出来るのなら川辺川ダムの建設を推進すべきだと思う。ここまで酷い被害に二度とあいたくないので。」
「行政だけが先走りしていて、もっと住民の声を聞くべきと思う」
「災害後、地元の人でダムの事を口にする人は誰もいなかったのに、他所からやってきた人がダムを造るべきだと騒いでいる。もっと地元民の意見をきいてほしい」
「水害を前提とした街づくりに方向転換したほうが良いと思っている。被害者が出ない、かさ上げする、等」
「昔から人吉球磨に恩恵をもたらしてくれた球磨川なので、大きく地形や景観が変わることがないようにして欲しい」
「みんなが安心して生活できるようにしてほしい」
「清流日本一の川をいつまでも残してほしい。」
【考察・まとめ】
流域治水について
流域治水については、聞いたことがある、または知っている人が75%となっており、また、川が溢れることを見越した防災を進めるべきという意見も多いことから、流域治水を進める土壌があることが示唆されます。ただし、流域治水の内容まで理解している人は25%に留まっているため、より内容を理解してもらうための取り組みが、協力体制の構築とあわせて求められます。
具体的な取り組みについては、雨水浸透桝の設置や、自分の農地や所有地への雨水の誘導についても一定の協力意向があることから、取り組みを進めるための施策の検討が期待されます(仮に流域住民の20%の協力が実際に得られるならば、大きな効果が期待できます)。
川辺川ダムについて
川辺川ダムについては、川辺川流域や人吉などのエリアと、八代などのエリアで意見の違いが見受けられました。今回大きな被害を受け、またダムによる治水の恩恵を最も受けると想定される人吉市や川辺川流域で反対が賛成を上回っているという点は、今後の治水を検討するうえでも留意すべき点だと考えられます。
また、流域全体の傾向として、「どちらともいえない」という回答が多く寄せられました。自由記述も含め「住民との議論・説明が不十分」という意見が多かったことから、そもそも問題が複雑であることに加え、行政の住民への説明・情報提供不足が「どちらともいえない」という回答の多さにつながっていることが考えられます。まずはさまざまな視点から十分に情報共有を行い、そのうえで住民との意見交換を踏まえて方針を定めていくことが重要と言えるでしょう。
最後に
蒲島知事が声明でも言及していたように、「球磨川への愛」については多くの方が言及されていました。治水と環境保全は非常に複雑で、様々な立場の人々の想いが交錯する問題ですが、だからこそその場に生きる流域住民の声が十分反映された意思決定がなされることを期待します。
*より詳細な調査レポートについては、今後作成次第公開予定です。
*今回のアンケート結果は、回答者数等に制限があるため、統計学的な信頼性を担保するものではなく、あくまで参考としての情報です。