7月の球磨川水害を機に川辺川ダム計画の復活が注目される熊本県。12月2日の県議会では、蒲島知事が球磨川本川からのバックウォーターで人吉の人は亡くなったという趣旨の発言をしたことが大きな波紋を広げています。
人吉市は球磨川と最大支流の川辺川との合流地点の直下にあります。国土交通省は水害後の検証委員会において、川辺川ダムによる人吉市での水位低減効果を強調し、川辺川ダムがあったなら、多くの犠牲者が救われたと受け止められたという印象を与える説明を行いました。
しかし、人吉の住民団体の調査によれば、人吉での犠牲者の死亡原因は支流の氾濫によるものであり、本川からのバックウォーターではなかったということです。
詳しい解説は、水源開発問題全国連絡会(略称:水源連)の以下の資料に掲載されています。
〇水源開発問題全国連絡会 2020年総会資料 14~16ページ
http://suigenren.jp/wp-content/uploads/2020/12/daa694c1763436981a4817adbf533fd2.pdf
子守歌の里五木を育む清流川辺川を守る県民の会 中島 康さんの報告「7月4日球磨川水害報告」
水源連共同代表の嶋津暉之さんも球磨川氾濫の解析を行い、同様の視点の「球磨川水害と治水対策に関する水源連の意見書」を熊本県の蒲島知事に提出しています。
この意見書も上記の資料63~74ページ(右上のページ数では29~40ページ)に掲載されています。
熊本県内の複数の市民団体は、県知事の発言は川辺川ダムの治水目的の最大の受益地とされる人吉の犠牲者に対する冒とくであり、ダム建設に邁進するためのものだとして、抗議文を提出し、独自の調査結果を公表しました。
県知事への抗議文はこちらのページに公表されています。
http://kawabegawa.jp/2020/20201211CHIJIKOGI.pdf
熊本県知事 蒲島郁夫様 県議会答弁に関する抗議文
関連記事を転載します。
◆2020年12月11日 NHK熊本放送局
https://www3.nhk.or.jp/lnews/kumamoto/20201211/5000010829.html
ー犠牲者は支流の氾濫で 市民調査ー
7月の豪雨で人吉市内で犠牲になった20人について、市民団体が状況を調べたところ、全員が球磨川のはん濫によるものではなく、支流の氾濫で亡くなっていたなどとする調査結果をまとめました。
この調査は人吉市の市民団体、「清流球磨川・川辺川を未来に手渡す会」のメンバーらが、市内の浸水地域の監視カメラの映像や、およそ50人の住民などへの聞き取りをもとに、市内で犠牲になった20人全員の状況を調べました。
それによりますと、球磨川の流量がピークとなる3時間前の午前6時半から7時すぎの間に、支流の山田川や万江川などが急激に氾濫したのが原因で亡くなり、支流の水がせきとめられて水位が上がる「バックウォーター」の形跡は見られなかったとしています。
そのうえで、「人吉市の犠牲者は全員、球磨川のはん濫によるものでなく、支流のはん濫によるものだ。川辺川ダムが建設されて治水効果を発揮したとしても犠牲者を救うことは出来ない」としています。
これに対し、熊本県は、人吉市の犠牲者との因果関係は不明だが、球磨川の洪水によるバックウォーターで、山田川や万江川が氾濫したことはこれまでの検証で確認されているとしています。
市民団体の木本雅己事務局長は「今後、洪水による死者を出さないための検証がまず最初にあるべきで、それをせずに川辺川ダム建設を進めるのは不合理だ」と話していました。
◆2020年12月12日 熊本日日新聞
https://this.kiji.is/710321834496999424?c=39546741839462401
ー豪雨の犠牲者20人中19人「支流氾濫が原因」 川辺川ダム反対派が独自調査 人吉市ー
川辺川へのダム建設に反対する市民団体が11日、熊本県庁で記者会見し、7月の豪雨による人吉市の死者20人のうち、19人は「球磨川本流が氾濫する前に、支流の氾濫が原因で亡くなった」とする独自の調査結果を発表した。
清流球磨川・川辺川を未来に手渡す流域郡市民の会(人吉市)を中心に、災害の直後から調査。犠牲者の近所の人や浸水被害者約50人から話を聞き、防犯カメラの映像なども集め、水の流れと被害の実態を調べた。
その結果、支流から氾濫した水が、市内の低地である球磨川本流沿いに向かって急激に流れたため、19人は本流から水があふれる前の午前7時半すぎごろまでに亡くなったとした。支流別では万江川などが原因で4人、胸川などで2人、山田川や御溝(川)などの氾濫で13人が亡くなったとした。
猫を助けに自宅に戻ったとみられる女性(61)は亡くなった時間が推定できておらず、今後調べるという。
流域郡市民の会の木本雅己事務局長(69)は「支流が原因である以上、川辺川上流にダムを造って球磨川本流のピーク流量を下げても犠牲は減らない」と主張した。
これに対し、県球磨川流域復興局は「本流の水位が上がっていたため、支流の水が本流に流れ込めず、氾濫した」と分析。さらに、支流で氾濫した水の量は本流との比較では少量であり、「本流の水位を下げることが犠牲を減らすことにつながる」と説明した。(太路秀紀、堀江利雅)
◆2020年12月12日 西日本新聞
https://www.nishinippon.co.jp/item/n/672688/
ー人吉の犠牲「原因は支流氾濫」市民団体が調査結果公表ー
7月の熊本豪雨で氾濫した球磨川流域の被害について、熊本県人吉市の市民団体は11日、同市内の犠牲者20人のほとんどが中小支流の氾濫が原因だったとする現地調査結果を公表した。団体は「ダムがあっても命は守れない」と主張し、中小支流対策の重要性を訴えた。
調査は「清流球磨川・川辺川を未来に手渡す流域郡市民の会」などが豪雨直後から継続的に実施。約50人から証言を得たほか、痕跡から氾濫流の水位や流れの方向を調べた。
調査結果によると、20人が濁流にのまれた時間帯は7月4日午前6時半~同7時半ごろで、発見された場所は屋外と屋内が半々だった。球磨川本流よりも先に、支流の山田川や万江(まえ)川などが氾濫。犠牲者は低地に向かって勢いを増した強い流れにのまれたり、急激に水位が上がって逃げ遅れたりしたとみられるという。
同会は、犠牲者の状況も聞き取り調査。「山田川から水が来て避難の途中に流れ溺死」(屋外、下薩摩瀬町)▽「7時半頃、万江川から浸水。犬を助けようとして流れる」(屋外、下林町)-など詳細に記録している。木本雅己事務局長は「1人を除いて球磨川本流の流れで亡くなった人はいない。この1人も球磨川の氾濫か、事故かは不明」としている。
山田川については、県も10月に時系列の検証結果を公表。おおむね同会の調査結果と整合しているが、県は「下流から上流域に越水が進行」とする一方、同会は「上流から氾濫が始まった」と食い違う。
県河川課は山田川の氾濫は、本流の水位が上昇したことで支流の流れがはけきれず、下流からあふれ出す「バックウオーター現象」の影響を指摘。同会は「バックウオーターの形跡はみられない」とする。
蒲島郁夫知事は「命と環境を両立する」として最大の支流川辺川への流水型ダム建設を進める方針だが、木本事務局長は「大事なのは、死者を出さないためにどうしたらいいのかの検証。ダムで本流の水位を下げても命は救えない」と主張している。 (古川努)