さる7月8日、国土交通省は社会資本整備審議会小委員会を開催しました。主な議題は「球磨川水系の河川整備基本方針の変更について」でした。
昨年7月、球磨川では大洪水があり、国は球磨川水系の治水計画を見直すことになりました。見直しの重要ポイントは球磨川の支流、川辺川における国のダム計画の復活です。
国の治水計画は水系ごとに河川整備基本方針を定めます。河川整備基本方針は、洪水時の想定流量(基本高水のピーク流量)が軸となります。国土交通省は昨年の球磨川における洪水が想定外の流量だったとして、基本高水流量を引き上げることにしています。8日の会議はこの審議のための第一回会議でした。
河川整備基本方針で洪水時の想定流量が引き上げられると、想定流量を減らす(洪水調節)ためには巨大ダムが必要という理屈になり、治水計画がダム計画を根本に据えて策定されることになります。
これまでの河川整備基本方針は2007年に策定されましたが、この時、当時の潮谷義子熊本県知事は、ダムに反対する流域住民の意見を踏まえ、想定流量を高く設定しようとする国土交通省に抵抗しました。国土交通省は潮谷知事の意見を受け入れず、その後、潮谷知事は辞任に追い込まれました。
潮谷知事の跡を継いだ現・蒲島郁夫知事は民意を受けて川辺川ダムの白紙撤回を求め、民主党政権下の国交省はこれを受け入れたかに見えましたが、河川整備基本方針の見直しを行わず、ダム計画は休止状態のまま、他の治水対策も放置した結果の昨年の水害でした。
熊本県では、国土交通省の想定流量を基にした机上の治水計画が、本来必要な治水対策を怠らせ、水害を引き起こす元凶になっているという批判があり、川をよく知る流域住民の意見を反映させた治水対策を求める声が根強くあります。「基本高水」を中心に審議している限り、水害を拡大させている球磨川中流部の瀬戸石ダム(電源開発)の問題や、流域の森林の荒廃、支流の問題などは視界から遠ざかってしまいます。
◆2021年7月9日 熊本日日新聞
https://kumanichi.com/articles/306097
ー球磨川水系の整備基本方針見直し 国交省小委、想定流量引き上げへー
国土交通省の社会資本整備審議会小委員会は8日、昨年7月の熊本豪雨で氾濫し、甚大な被害をもたらした球磨川水系の河川整備基本方針の見直しに着手した。気候変動による降水量増加も踏まえて洪水時の想定流量(基本高水のピーク流量)を改め、支流の川辺川の流水型ダム計画を含む流域の治水対策に反映させる。
現行の基本方針では基準地点の人吉におけるピーク流量を毎秒7千トンと想定してきたが、昨年の豪雨では、これを上回る推定毎秒約7900トンを記録した。これを受け、今後の治水対策の前提となる基本高水ピーク流量をどの程度引き上げるかが焦点となる。
小委員会は河川工学や環境保全の専門家をはじめ、蒲島郁夫知事も加えた13人で構成。初会合はオンライン開催で、国交省が球磨川の地形的特徴や豪雨による被害、これまでの治水対策を説明した。基本高水の議論は次回以降に持ち越した。
委員からは「温暖化の影響で、7月豪雨の総雨量は(従来計画の)おおよそ2割程度アップしている」「非常に大きな雨が実際に降った場所だけに計画雨量の設定が難しい」などと指摘する声が上がった。
終了後、蒲島知事は報道陣に対し「7月豪雨に耐えられる安全を確保することが大事だ。『緑の流域治水』の実現に向けて本格的な審議がスタートしたのは大きな一歩だ」と述べた。
国交省は、全国の1級水系で河川整備基本方針の見直し作業を始めており、球磨川は、三重県などを流れる新宮川、宮崎県などを流れる五ケ瀬川に続いて3例目となる。(嶋田昇平、内田祐之)
◆2021年7月9日 西日本新聞
https://www.nishinippon.co.jp/item/n/767702/
ー最大流量、気候変動を考慮 球磨川水系整備方針 国交省が見直し着手ー
(西日本新聞2021/7/9 6:00 )
国土交通省の社会資本整備審議会検討小委員会は8日、初会合をオンライン方式で開き、昨年7月の熊本豪雨で氾濫した球磨川水系(熊本県)の河川整備基本方針の見直しに向けた検討に着手した。気候変動の影響で降雨量が増えることや、ソフトとハード両面から防災対策を図る「流域治水」の視点を加えた新方針を策定することを決めた。
球磨川水系の河川整備基本方針は2007年に策定された。整備目標として想定する洪水時の最大流量「基本高水」は熊本県・人吉地点で毎秒7千トンだが、昨年の豪雨では毎秒7900トンとこれを上回り、見直しが急務となっている。
現方針は過去の降雨に基づき策定したが、初会合では新方針として気候変動を考慮することで合意した。「気温が2度上昇した場合、降雨量は1・1倍になる」との予測
モデルで流量を見直す。昨年の豪雨時の流量も踏まえ、次回会合で基本高水をどの程度引き上げるかを協議する。
基本高水は、国や熊本県が球磨川支流の川辺川で検討している流水型ダムの容量や規模を定める際の前提となる。国は基本方針を固めた後、流水型ダムを位置づける
「河川整備計画」の策定に取り掛かる。 (鶴加寿子)
◆2021年7月8日 熊本朝日放送
https://news.yahoo.co.jp/articles/05478171af69d14659dd9785ed124b62c0950a00
ー温暖化も考慮」球磨川の治水方針見直しへ協議開始ー
温暖化の影響を考慮すべきとの意見も出されました。今後の大雨で球磨川はどの程度流量が増えると想定すべきか治水方針の見直しをめぐる協議が始まりました。
8日は河川工学の専門家などが出席し球磨川治水の根拠となる洪水時の想定流量見直しについて話し合いました。これまでの基準ではピーク流量を人吉地点で毎秒7000トンとしていましたが、熊本豪雨では毎秒7900トンと想定値を超えました。
会議では平均気温が2度上昇すると降雨量が1.1倍に増える試算が示され、委員からは「熊本豪雨でも総雨量の15%~20%が温暖化による影響を受けている」「新たな目標値も気候変動の影響を加味したものに見直す必要がある」などと意見があがりました。
次回の開催は未定ですが今後、国が新たなピーク流量を示す方針です。
また、8日は流域市町村長らが流水型ダムの早期建設を求める要望書を県に提出しました。蒲島知事は「流水型のダムは環境に極限まで配慮する必要がある。できるだけ早期に整備が進むように国に全面的に協力を求めていく」としています。