長崎県の中村知事は、任期があと半年と迫る中、行政代執行をめぐり厳しい判断を迫られていると報じられています。
石木ダムの予定地では、13世帯の住民がダムに反対しており、強制収用によって水没予定地の土地と家屋がすべて国の所有となった2019年11月以降もこれまでの生活を続けています。
石木ダム事業はこれまでに工期を9回延長しており、事業主体である長崎県は、本体工事着工を強行したい考えです。しかし、これまで13世帯もの多くの住民を行政代執行で立ち退かせたことはダム行政が強引に進められてきたわが国でも前例がなく、水没住民の運動への共感・支援が全国に広がっている現状では、行政代執行が批判の的になることは必至です。
ダムに反対する住民らによれば、長崎県は住民との対話による同意なしに、強引にダム建設を行うことはないと説明してきたとのことですが、県と住民との間では条件が折り合わず、対話が実現しないまま、県が対話の期限と定めた8月が終わりました。
中村知事は世論の猛批判を浴びながら退場する道を選ぶのかー現地はこれまで以上に緊迫した状況です。
ニュースの情報元となっている8月31日の中村知事の記者会見は、こちらのページをご覧ください。
◆2021年8月31日 NHK
https://www3.nhk.or.jp/lnews/nagasaki/20210831/5030012620.html
ー石木ダム建設 中村知事 本体工事着工に向け手続き進めるー
長崎県の中村知事は、定例の記者会見で、石木ダムの建設に反対する地元住民との直接の話し合いについて、期間として設定した31日までに住民側からの回答が届いていないことを明らかにしたうえで、今後、本体工事の着工に向けた手続きなどを進める意向を示しました。
川棚町で建設が進む石木ダムをめぐって、長崎県は、中村知事と建設に反対する地元住民との直接の話し合いに向けて、全面的に工事を止めることはできないとしながらも、31日までに話し合いに応じるよう求める文書を、住民に宛てて送っています。
中村知事は31日、定例の記者会見で、話し合いの期間として設定していた31日までに、住民側からの回答が届いていないことを明らかにしました。
そのうえで、「これ以上、さまざまな工事の着工などを延期するのは、なかなか難しい。今後、本体工事の着工に向けた手続きなどを進めていく必要がある」と述べました。
また、中村知事は、強制的な家屋の撤去などを伴う行政代執行をめぐり、これまで「任期中には方向性をつけたい」と発言してきたことについて、「代執行は最後の手段で、ほかに取り得る方法がないという状況になったときに、工事の進捗状況や訴訟の状況なども踏まえて、総合的に判断しなければならない。『与えられた任期が定まっている中で、判断を要するような状況になれば、政治生命をかけてでも決断しなければならない』という思いで申し上げてきた」と説明しました。
◆2021年8月31日 NBC長崎放送
https://www.nbc-nagasaki.co.jp/nbcnews/detail/6371
ー石木ダム 話し合いきょうが期限 対話実現せずー
東彼・川棚町に計画されている石木ダムをめぐり反対住民と中村知事との対話に向けた動きがことし5月から進められていましたが期限となっていた今日までに条件が折り合わず対話は実現しませんでした。
(中村知事)「話し合いだけが長引いて長期中断を余儀なくされるという事態を避けていかなければいけない」
条件が折り合わなかったのは「工事中断の期間」などで住民が「話し合いに向けて全ての工事を即時中断」と求めたのに対し県は「話し合い当日だけ」との主張を譲りませんでした。
(中村知事)「今後本体着工あるいはその他の工事についても契約に向けた手続きを進めていく必要がある」
(反対女性)「私達は許せないですよね工事をしながら話し合いはないでしょう。平常心は保てませんもんねそれでは。片一方では工事をしてるんですから」
きょうも工事現場付近で座り込みを続けているダム反対住民らは県の姿勢に反発するとともに来月から本格的に工事をはじめるとしたことに警戒を強めています。
(反対男性)「県は最初からする気はなかったんじゃないですか。私達は公開討論会でもなんでもやればいいと思ってるんですがそういうことじゃないでしょ姿勢が」(反対女性)「明日9月1日になるだけで私達の活動は特別なことはできませんので、自分の体力とあわせたやり方で抗議活動を続けるしかない」
おととし9月以来の直接対話の機会を失った住民と県側。石木ダムの建設現場はあすからさらに緊迫の度合いを増すことも予想されます。
◆2021年8月31日 NCC長崎文化放送
https://news.yahoo.co.jp/articles/ed7b1f32ef512d65e42b75a22a656ed8a7fd229c
ー石木ダム 対話実現せぬまま本体工事着工へー
長崎県と佐世保市が東彼・川棚町に建設を計画する石木ダム問題で、中村知事は31日、8月末を期限としていた反対地権者らとの話し合いについて、実現のめどが立たないまま今後本体工事の着工手続きを進めると表明しました。
中村知事は「これ以上延期するのもなかなか難しい状況にあるから今後本体着工、その他の工事も契約に向けて手続き等を進めていく必要がある」と話しました。定例会見で中村知事は、住民との協議について「話し合いの当日は工事を中断して協議に応じていただくようお願いしていたが具体的な返事を頂けなかった」と話しました。引き続き、対話に向けた努力は続けるとしています。
本体工事の具体的な着工時期は未定です。長崎県の最終手段となる行政代執行については、残り半年の知事の任期内に判断を要する状況になれば工事の進捗や訴訟の状況などを鑑み、総合的に判断する必要があると話しました。
◆2021年9月1日 長崎新聞
https://nordot.app/805615037381279744?c=174761113988793844
ー石木ダム事業 本体工事含め進める 対話の努力は継続 中村知事が会見ー
長崎県と佐世保市が東彼川棚町に計画する石木ダム建設事業について、中村法道知事は31日の定例会見で、9月以降は本体工事を含め事業を着実に進める方針を明らかにした。一方、建設に反対する住民との対話に向けた努力は今後も続ける意向を示した。
県と反対住民は、対話に向け文書で条件を調整してきたが、県が対話当日に限り工事を中断すると主張するのに対し、住民側は即時中断を求め、折り合いがついていない。県は8月末までを対話の期間とし、9月以降は着実に事業を進める方針を示していた。
知事は2025年度のダム完成を見据え「これ以上さまざまな工事の延期は難しい。本体着工やその他の工事について契約に向けた手続きを進める必要がある」と述べた。
8月中旬の大雨でも川棚川で洪水は起きず、事業の治水面に疑問の声が上がっているとの指摘には「雨の降り方で危険度は変わってくる。万全の対策を講じて地域の安全を守らなければならない」と必要性を強調。来年3月の3期目の任期満了までに家屋などを強制撤去できる行政代執行の方向性を示すことについては、「判断を要する状況になれば決断しなければならない」と述べた。
また来年実施される知事選に絡み、自身の進退について「これまで(2回)の出馬表明は11月議会。今、まん延防止等重点措置が適用され、大雨の災害(対策)にも直面しており、まずは目の前の課題に全力で取り組みたい」と述べ、定例9月県議会での表明は見送る意向を示唆した。
◆2021年9月1日 朝日新聞
https://digital.asahi.com/articles/ASP806X31P80TOLB003.html
ー石木ダム工事を再開へ 知事「これ以上の延期難しい」ー
長崎県と佐世保市が川棚町で進める石木ダム建設計画に反対している川原(こうばる)地区の13世帯に、県が文書で要請していた中村法道知事との対話が、31日に開催期限を迎えた。住民側から回答はなく、知事はこの日の定例記者会見で「これ以上、本体工事の着工を延期するのは難しい。その他の工事についても契約に向けた手続きを進めたい」と話し、見合わせていた本体工事などに9月以降、順次着手する考えを示した。
県は5月以降、住民に対し、知事との対話に向けた事前協議を文書で要請。これに対し住民側は、応じる条件として工事の即時中断や、協議期間中の工事停止などを挙げ、静穏な協議の場を求めてきた。県は「見通しがないまま話し合いだけが長引き、中断期間が延々と続くことは避けなければならない」と主張し、膠着(こうちゃく)状態が続いてきた。
会見で中村知事は、地域の安全安心を確保するために一刻も早くダムを完成させる必要があると強調。その上で「地権者の了解を得て円満に進めるのが最良だが、まだ回答を頂けていない。工事着工により反対運動がさらに高まると思うが、安全を確保しながら事業を進める」と述べた。県によると、着手するのはダム本体の掘削工事や木の伐採、県道の付け替え工事などを想定している。
家屋の強制撤去ができる行政代執行の可能性について中村知事は「最後の手段。行政の責任者として任期(来年3月1日)が定まっている。その中で判断を要する状況になれば、客観的かつ総合的にみて決断していく」と述べた。(安斎耕一)