石木ダム関連工事の差し止めを求めた訴訟の控訴審で、今月21日、福岡高裁の判決がありました。
残念ながら、またしても住民側の敗訴でした。原告住民側は上告するとのことです。
裁判のたびに、ダム行政を守る司法の壁を再認識させられます。朝日新聞が伝えているように、今回の裁判でも「水は必要なのか、ダムがないと洪水を防げないのかといった点について司法は、またも判断を避け」ました。ダムによる住民の人権侵害、自然環境等の破壊は必要悪とされてきましたが、ダムの必要性がないならば、その説明も成り立たなくなります。いったい何のための司法なのでしょうか。
今回の裁判の中で、一つだけ評価できるのは、長崎県がかつて住民と取り交わした覚書に言及したことでした。この覚書で、長崎県はダム建設着工前に地元住民の同意を得るとしていました。しかし、長崎県は住民の同意を得ぬまま、今年9月に石木ダムの本体工事に着手しました。福岡高裁は今回の判決の中で長崎県の不作為に言及し、「地元関係者の理解を得るよう努力することが求められる」としたのです。
◆2021年10月22日 長崎新聞
https://nordot.app/824084266894704640?c=174761113988793844
ー石木ダム差し止め訴訟 二審も住民敗訴、上告へ 「平穏生活権」認めずー
長崎県と佐世保市が東彼川棚町に計画する石木ダム建設事業を巡り、水没予定地に暮らす反対住民らが、県と同市に工事差し止めを求めた訴訟の控訴審判決で、福岡高裁(森冨義明裁判長)は21日、請求を退けた一審長崎地裁佐世保支部の判決を支持し、原告の請求を棄却した。住民側は上告する方針。
昨年3月の一審判決は、住民が主張する「平穏生活権」は抽象的で不明確としていた。21日の控訴審判決もこれを踏襲。その上で、事業による権利や利益の侵害については、事業認定取り消し訴訟で訴えるべきと退けた。取り消し訴訟は昨年10月、最高裁で住民敗訴が確定している。一審に続き、利水、治水面のダムの必要性については判断を示さなかった。
一方で1972年7月、当時の久保勘一知事が住民に対し、着工前に地元の同意を得ると約束した覚書に言及。「(住民は)知事を信頼し、覚書を取り交わしたが、いまだ地元関係者の理解を得るには至っていない」と指摘し、県と同市には「地元関係者の理解を得るよう努力することが求められる」と記した。
住民側は、川棚川流域に8月中旬に降った大雨のデータを基に、県の治水計画の問題点を指摘した専門家の論考を、結審後の9月に高裁へ提出。弁論の再開を求めていたが、採用されなかった。
原告住民で石木ダム建設絶対反対同盟の岩下和雄さん(74)は「弱い立場の住民ではなく行政の側に立った裁判」と批判し、上告する方針を示した。中村法道知事と佐世保市の朝長則男市長はそれぞれに「主張が認められたものと受け止めている」とするコメントを出した。
ー住民の願い、また届かず 石木ダム差し止め訴訟 「理由教えて」続く抗議ー
「理由を教えて」「不当判決だ」-。法廷を立ち去る裁判官の背中に傍聴席から不満の声が飛んだ。石木ダム水没予定地の住民らが、長崎県と佐世保市に工事の差し止めを求めた訴訟で、福岡高裁は21日、住民側の控訴を退けた。県が9月に本体工事に踏み切り、ますます混迷を深める中、古里に住み続けたいという住民たちの願いは、またも聞き入れられなかった。
原告住民13世帯を代表し1人で高裁に乗り込んだ岩下和雄さん(74)は短い判決を聞き終えると、硬い表情で出てきた。厳しい結果を予想していたが「(高裁が)県に話し合いを促してくれるのではないかという期待もあった」。中村法道知事との対話は2年以上実現せず、本体工事着手で県との溝はさらに深まった。
控訴審では、早期の結審を望む県市側の姿勢が目立った。原告側は6月の結審後、8月中旬に降った大雨のデータを「新証拠」に、弁論再開を求めたが、裁判所から返答はなかった。「結果は最初から決まっていたのでは」との疑問がくすぶる。「腹立たしいが、めげることなく反対を訴え、闘い続けたい」。報告集会で岩下さんが言葉に力を込めると、支援者から拍手が起こった。
この日も川棚町のダム建設予定地では、住民が抗議の座り込みを続けていた。「判決をみんなで聞きにいきたいがここを離れられない」と岩下すみ子さん(72)。当初は大勢でバスに乗り合わせ、傍聴に出向いていたが、工事が加速。業者が休む日祝日を除き、2カ所で早朝から夕方まで交代で待機する。
控訴棄却の知らせを受け、「一度くらいは『勝訴』と手を上げて喜びたい。こうやって座り込みながら老い続けていくのかな」と肩を落とした。
49年前、久保勘一知事は「地元の同意を得た後(工事に)着手する」と約束した。判決はこれが実現していないと指摘し、司法判断として初めて県側の不作為に言及した。口頭弁論で約束の効力を訴えた住民の石丸勇さん(72)は「裁判所が少しは配慮してくれたのだろうが、棄却だから意味がない。いくら裁判所が話し合いを促しても、県はダムの必要性ではなく、生活再建についてしか話さないから、私たちとはかみ合わない」と話した。
◆2021年10月21日 西日本新聞
https://www.nishinippon.co.jp/item/n/819701/
ー石木ダム工事差し止め、二審も認めず 建設妥当性触れず住民敗訴ー
長崎県と佐世保市が計画する石木ダム建設を巡り、予定地の同県川棚町住民ら約400人が工事差し止めを求めた訴訟の控訴審判決で、福岡高裁は21日、請求を退けた一審長崎地裁佐世保支部判決を支持し、住民側の控訴を棄却した。住民側は上告する方針。
判決で、森冨義明裁判長は「自己が選択した土地で継続的かつ平穏に生活する権利」などが侵害されるとの住民側の主張は「抽象的で不明確」と指摘。「社会生活上受忍すべき限度を超えた生活妨害などがあればともかく、事業自体が不合理なことなどを理由に、工事の差し止めを請求できない」と判断した。一方、県などには「地元関係者の理解を得るよう努力が求められる」と付言した。ダム建設の妥当性には触れなかった。
石木ダムは佐世保市の水不足解消と治水を目的として、1975年に国が事業採択。水没予定地の13世帯が用地明け渡しを拒んでいるが、2019年に所有権が国に移り、家屋などの強制撤去が可能な状態になっている。県などは9月、ダム本体の工事に着手した。住民らが国の事業認定取り消しを求めた訴訟は昨年10月、最高裁で住民側敗訴が確定している。(吉田真紀)
住民「本当のこと審理していない」
長崎地裁佐世保支部の一審判決と同様に、石木ダム建設の妥当性を判断することなく、住民側の控訴を退けた21日の福岡高裁判決。「行政の言いなりで、本当のことを審理していない」。土地の明け渡しを拒み、今も水没予定地で暮らす原告の岩下和雄さん(74)=長崎県川棚町=は判決後の集会で憤った。
弁護団は、石木ダムの治水効果に関して「ダムが全く不要だと明らかになった」として9月に弁論の再開を申し立てた。専門家による推計で、8月の記録的豪雨時の川棚川の水位などから、県がダム建設によって確保するとしている流量を超えた水が「現状でも余裕を持って流せる」と主張する。だが高裁は弁論を開かず、馬奈木昭雄弁護団長は「連絡もなく、一切無視された」と厳しい表情で語った。
判決は原告の主張をことごとく否定する一方、現地調査前の1972年に県と地元3地区が交わした「覚書」に言及し、県などに「地元関係者の理解を得る努力」を促した。岩下さんは「県は真摯(しんし)に受け止めてほしい」と求めた。
同県の中村法道知事は「(原告の住民らは)工事続行禁止を再度認めなかった司法判断を重く受け止めていただきたい」とのコメントを発表した。(山口新太郎)
◆2021年10月22日 朝日新聞
https://digital.asahi.com/articles/ASPBP6TXHPBPTOLB00D.html
ー控訴棄却 「平穏生活権は不明確」と司法 住民側、上告を決意ー
長崎県と佐世保市が計画する石木ダム(川棚町)事業の工事差し止めを求めた控訴審は、自分の選んだ土地で平穏に暮らすという住民の権利は「抽象的で不明確」と断じた長崎地裁佐世保支部の一審判決を踏襲して終わった。水は必要なのか、ダムがないと洪水を防げないのかといった点について司法は、またも判断を避けた。原告・弁護団は上告の意思を表明した。
福岡高裁の法廷。「各控訴をいずれも棄却する」――。そう告げて引きあげようとする裁判長の背に、傍聴席から「何を審理したんだ!」と声が飛んだ。控訴人席で背筋を伸ばして判決を待った岩下和雄さん(74)はその瞬間、背もたれに身を預けた。
判決では、平穏生活権を「抽象的で不明確、成立要件や法的効果も不明確」と退けた。さらに、住民側が8月の豪雨をもとに「100年に1度の大雨でも洪水は起きないと証明する新データが得られた」と、6月に結審した裁判の審理再開を裁判所に求めた申し入れには言及もしなかった。
その一方、従来の裁判ではほとんど触れられることのなかった1972年夏の「覚書」に言及。県は地元の了解なしでダムは造らないとするこの書面を水没予定の3集落と交わして予備調査を始めながら、建設可能と判断すると約束を反故(ほご)にして手続きを進めた。住民が「裏切り」の証拠として記憶する文書だ。
判決では、地元の理解はまだ得られていないとして覚書を踏まえ「今後も理解を得るよう努力することが求められる」と県に説いた。同時に、覚書で事業の継続は左右されないと釘を刺すことも忘れなかった。
判決言い渡し後の報告集会には長崎や福岡の支援者約60人が詰めかけた。水没予定の13戸は抗議の座りこみを続けているため、住民は岩下さんだけだった。「覚書を踏まえ、県には話し合いを求めていく。上告もする。だが、裁判の結果には左右されない。我々の戦いは司法の場だけではないのだから」と語った。
この日の控訴審判決を受け、中村法道知事は「第一審に引き続き、裁判におけるこれまでの県の主張が認められたものと受け止めている。石木ダム建設事業は、地域住民の皆様の安全・安心に直結する重要な事業であり、整備を急がなければならない。原告、控訴人は工事続行禁止を再度認めなかった司法判断を重く受け止めていただき、事業推進についてご理解とご協力いただきたい」とのコメントを出した。(原口晋也)
◆2021年10月21日 毎日新聞
ー長崎・石木ダム差し止め2審も認めず 住民側の控訴棄却ー
長崎県川棚町で建設が進む石木ダムを巡り、水没予定地の住民や支援者ら403人が建設主体の県と佐世保市に工事差し止めを求めた控訴審の判決が21日、福岡高裁であり、森冨義明裁判長は差し止めを認めなかった1審の長崎地裁佐世保支部判決(2020年3月)を支持し住民側の控訴を棄却した。住民側は最高裁に上告する方針。
住民側は利水と治水の両面で必要性がないダム事業で故郷を奪われるのは人格権などの侵害だと主張していた。高裁は住民が侵害されると訴えた平穏生活権などが「抽象的で不明確」とし「(住民は)差し止めを求めうる明確な実態を有しない」と判断した1審判決を支持。差し止めの理由にはならないと述べた。住民側は判決後に集会を開き、水没予定地に住む岩下和雄さん(74)が「本当に腹立たしい。めげずに闘い続ける」と話した。【平塚雄太】
◆2021年10月21日 NHK長崎放送局
https://www3.nhk.or.jp/lnews/nagasaki/20211021/5030013081.html
ー石木ダム建設差し止め訴訟 2審も反対住民側が敗訴ー
長崎県川棚町で進められている石木ダムの建設に反対する住民などが、長崎県と佐世保市に建設工事の差し止めを求めた2審の裁判で、福岡高等裁判所は「平穏に生活する権利を侵害するおそれは認められない」として、住民側の訴えを退けました。
川棚町で建設が進められている石木ダムの建設に反対する住民などは、ふるさとで平穏に生活する権利が奪われるなどとして、建設工事などの差し止めを求める訴えを長崎地方裁判所佐世保支部に起こし、これを退けた1審の判決を不服としておよそ400人が控訴していました。
住民側は先月、ことし8月の記録的な大雨で川棚川を流れた水の量を計算した結果、ダムがなくても川の水は安全に流れることが専門家の検証で明らかになったとして、6月に終えた審理を再開するよう求めましたが、認められませんでした。
21日の2審の判決で福岡高等裁判所の森冨義明裁判長は「住民が主張する平穏に生活する権利を侵害するおそれは認められない」として、住民側の訴えを退けました。
一方で「長崎県などは、いまだ得られていない地元関係者の理解を得るよう努力することが求められる」と指摘しました。
石木ダムの建設をめぐっては、国の事業認定を取り消すよう求める訴えも起こされましたが、住民側の敗訴が確定しています。
判決について、長崎県の中村知事は、「第1審に引き続き、これまでの県の主張が認められたと受け止めている。石木ダム建設事業は、近年、自然災害が頻発するなか、県民の生命と財産を守るため整備を急がなければならないと考えている。原告のみなさまには、司法判断を重く受け止め、事業推進にご理解とご協力をお願いしたい」とするコメントを発表しました。
判決後、原告の岩下和雄さんは「私たちに不利な判決を出すのではないかと思っていたが、結果を聞いて腹立たしい。県は話し合いを持とうとしていない。
県と戦い、反対を続けていきたい」と話したうえで、最高裁判所に上告する意向を示しました。
◆2021年10月21日 テレビ長崎
https://www.fnn.jp/articles/-/257237
ー「裁判官は弱い者の立場に立っていない」と憤り…石木ダム建設差し止め求める控訴審判決で住民側訴えを棄却ー
東彼・川棚町の石木ダムをめぐり、建設予定地の住民などが長崎県と佐世保市に工事の差し止めを求めている裁判の控訴審で、福岡高裁は1審に続き住民側の訴えを棄却しました。
東彼・川棚町の石木ダムの建設に反対する住民などは長崎県と佐世保市に対し、ダムの建設や県道の付け替え道路の工事差し止めを求める訴えを起こしています。
一審の長崎地裁佐世保支部は2020年3月原告の訴えを退けていました。
21日、福岡高裁で開かれた控訴審の判決で、森冨 義明 裁判長は一審の判決を支持し、住民などの訴えを棄却しました。
判決で「快適な生活を営む権利などの平穏生存権を主張しているが内容が抽象的で、不明確」などとして工事の差し止めを請求できないなどとしています。
岩下 和雄 さん 「裁判官は我々弱い者の立場に立ってやっていない。行政の側に立って裁判をやっていると思った」
馬奈木 昭雄 弁護士 「最高裁にもう一回挑戦するが、最高裁が勝たせてくれる勝つことで工事が止まるということではない」
判決を受け、長崎県の中村 知事は「これまでの県の主張が認められたものと受け止めている」とコメントを出しています。