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国交省、球磨川治水で耐越水堤防工法を導入

 新たに進められる球磨川の治水対策が地元紙で取り上げられています。
 「粘り強い堤防」とは耐越水堤防とも呼ばれ、従来の盛り土による堤防をコンクリートで被覆するなどして、越水による堤防崩壊をできるだけ防ぐことをめざすというものです。
 国交省は球磨川豪雨による水害(2020年7月)の後、球磨川の最大支流の川辺川のダム計画を復活させました。川辺川ダム建設の決定後、「耐越水堤防」が球磨川流域でも採用されるとは、なんとも皮肉なことです。川辺川ダムの必要性はさらに薄れるでしょう。

 球磨川流域では川辺川ダムの反対運動の過程で「粘り強い堤防」(耐越水堤防)の建設を国に求めてきましたが、これまで国は住民の要望を受け入れませんでした。
 旧・建設省土木研究所は1975~1984年にかけて耐越水堤防工法を研究開発し、その工法が全国の9河川で実施されました。さらに2000年には関係機関に「河川堤防設計指針(第3稿)」を通知し、耐越水堤防工法を全国に広めようとしました。
 ところが翌2001年、熊本県で川辺川ダム住民討論集会が始まり、耐越水堤防を整備すれば川辺川ダムが不要になるのではないかという問題提起があると、建設省の姿勢は一変します。耐越水堤防工法が川辺川ダムはじめ、各地のダム事業推進の妨げになると考えた国交省は2002年、「河川堤防設計指針(第3稿)」を廃止しました。
 2019年10月の東日本台風の後、千曲川流域の水害被災者から「耐越水堤防」を求める声が高まり、国交省は20年近くお蔵入りさせていた工法の封印を解きつつあります。

◆2022年1月22日 熊本日日新聞
https://kumanichi.com/articles/535311
ー人吉市内に「粘り強い堤防」 球磨川治水で国交省検討 越水後も決壊しにくくー

 国土交通省が2020年7月豪雨で甚大な被害が出た熊本県の球磨川の治水策として、川の水が堤防を越える越水が起きても決壊しにくい「粘り強い堤防」の整備を人吉市内で検討していることが21日、分かった。策定を進めている球磨川水系の河川整備計画に堤防の強化を盛り込む方針だ。

 粘り強い堤防は、水害の激甚化で越水する場合を想定。従来の盛り土による堤防をコンクリートで被覆するなどし、越水した水が川に戻る際の浸食から守り、堤防が崩壊しにくくする。越水から決壊までの時間を稼ぐことで住民の避難時間を確保する目的がある。

 従来の堤防より費用が高いため、決壊による被害が大きいとみられる場所への整備が前提で、人吉市以外も検討する。コンクリートによる堤防の補強自体は国交省も既に導入済みだが、粘り強い堤防の技術はまだ十分に確立できていないという。より効果が高い整備を目指し、22年度中に民間事業者から補強技術を公募する予定。

 上流で堤防を強化すると下流に流れる水の量が増える。国交省幹部は「上下流のバランスを考えて整備していく。堤防を整備できない下流では水量が増える分、河道掘削などの治水策で対応する」と話した。

 7月豪雨では、球磨川の堤防が人吉市中神町の2カ所で決壊し、大きな被害が出た。堤防を越えて低地の市街地にあふれた水が再び川に戻る力が、堤防を破壊したとみられる。

 国交省は昨年12月、球磨川水系の治水の長期目標を定めた河川整備基本方針を変更した。ただ、方針に沿って流水型ダムや遊水地を整備をしても、7月豪雨級の洪水が起きれば堤防が水を安全に流せる水位を超える区間が生じるとの試算も示している。(嶋田昇平)

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