昨年12月、国土交通省が愛媛県大洲市の肱川支流・河辺川に建設する予定の山鳥坂(やまとさか)ダムは、建設予定地が変わり、事業費が470億円も増額、工期も2026年度から2032年度に変わりました。この山鳥坂ダムをめぐり、愛媛県の市民らが建設中止を求める要望書を提出したとのことです。
山鳥坂ダムはもともと必要性がないとして2000年に当時の与党(自民党・公明党・保守党)が中止を勧告したものの、愛媛県の加戸守行知事(故人)らの巻き返しで継続されてきた事業です。
肱川水系では、2018年の西日本豪雨の際、国が管理する野村ダムと鹿野川ダムが緊急放流を行って大水害となりました。流域は復興途上にあり、河川改修などの喫緊の治水対策が必要とされています。同水系で三番目となる巨大ダム建設は、集中豪雨の際の危険性をさらに高めるのではないかと、心配の声があります。
山鳥坂ダムの建設目的は「洪水調節」と「河川流量の維持」で、総貯水容量における配分割合は右図(国土交通省四国地方整備局 山鳥坂ダム工事事務所HPより「山鳥坂ダム容量配分図」)の通りです。「河川環境容量」は「河川環境を維持する」ためとして、必要に応じてダムから川に水を流すために使われます。河川環境に決定的なダメージを与えるダムが河川環境をよくするために役立つとされる、ダム事業のブラックジョークの一つです。なお、「堆砂容量」はダムの寿命とされる100年間に上流からダムに流れ込むと想定される土砂量です。
関連記事を転載します。
◆2022年3月16日 愛媛新聞
https://www.ehime-np.co.jp/article/news202203160054
ー山鳥坂ダム建設中止を求め県に要望書提出 市民団体ー
大規模な地滑り対策に伴う建設予定地変更と事業費増額となった大洲市の山鳥坂ダム建設について、同市と松山の両市の市民らでつくる団体が16日、建設中止を求め
る要望書を県に提出した。
要望書を提出したのは、2018年の西日本豪雨で甚大な浸水被害を出した肱川水系について考える講演会を同年に実施した実行委員会有志。
要望書では、予定地は当初から地盤が緩いことを住民から指摘されていたにも関わらず、耳を傾けずに推し進めた国の責任が問われると指摘。多額の税金を投入する
大幅変更をダム事業費等監理委員会の少人数の了承だけで粛々と進める事も問題だとし、ダム建設工事の中止と流域治水への転換を求めている。
実行委のメンバー5人が県庁を訪れ、篠原真司水資源・ダム政策監に要望書を提出。大洲市菅田町菅田の農林業有友正本さん(73)は「計画を白紙に戻して、ゼロ
から見直してほしい」と話した。篠原政策監は「理解を得られるよう説明を続ける」としている。
同ダムを巡っては、建設予定地の右岸側下流域の岩盤で大規模な地滑り対策が必要と判明し、国土交通省山鳥坂ダム工事事務所は、予定地から上流約400メートル
の位置に建設地を変更すると明らかにしていた。(織田龍郎)
〈過去の参考記事〉
◆2021年12月29日 愛媛新聞
ーダム建設 疑問再燃 「山鳥坂」予定地変更 大洲 事業費膨張 工期も延長 安全性・効果 不安の声ー
国土交通省山鳥坂ダム工事事務所は20日、愛媛県大洲市の肱川支流・河辺川で進む同ダム建設事業について、建設予定地を約400メートル上流の位置に変更すると公表した。これまでの予定地周辺に大規模な地滑り対策が必要な岩盤があることが判明したためで、同事務所は、完成時期が当初予定の2026年度から32年度にずれ
込み、総事業費も約470億円増の約1320億円になると見通す。以前から同ダム建設には反対の声があったが、今回の建設地変更を機に、ダムの存在自体に疑問を呈す声が改めてあがっている。
事務所によると、これまでの地盤調査で、建設予定地より上流の見の越地区(2カ所)と奥の山地区の計3カ所で、貯水位変動に対する地滑り対策が必要と確認。予定
地の右岸側下流部の月野尾地区では、強度が不足する「ゆるみ岩盤」を確認していたが、掘削除去することでダム本体の施工は可能と推測していた。