八ッ場あしたの会は八ッ場ダムが抱える問題を伝えるNGOです

川原湯温泉の老舗・山木館一時閉館へ

 水没地の川原湯温泉は、国交省が造成したダム湖畔の代替地に移転しましたが、かつて20軒あった旅館のうち、代替地で再建したのは6軒のみでした。
 代替地で再建した6軒の中でも、老舗の山木館は古材を再生利用して和の味わいを満喫できる旅館を建て、周辺の土地も購入して風情を醸し出す工夫を進めていたのですが、経営悪化により5月21日より閉館とのことです。「一時休館」と発表され、「家族経営による民宿のような形態での再開を目指す」とのことですが、再開時期は未定です。

★山木館ホームページ http://yamakikan.jp/

 ダム堤わきの代替地では、水没地の山ふところの温泉街にあった自然風土や歴史に培われた風情が失われ、名勝・吾妻峡との繋がりも断ち切られました。歴史ある老舗旅館にとって、真の観光資源が失われたことが大きな足枷となったことは間違いありません。代替地には今も買い手のない国有地の空き地が各所にあり、地元以外にも土地購入を呼び掛けることになるようです。
写真右=山木館の書斎「侘助」。川原湯温泉の歴史を伝える書籍や八ッ場ダム関連資料などもある。

 川原湯温泉の他の旅館はすべて家族経営です。地域振興施設「川原湯温泉あそびの基地NOA」でも地元住民の雇用は行われていないということです。水没地にあった川原湯温泉街は、地域経済の核でした。大きな旅館には従業員の寮があり、周辺の多くの農村地帯の住民の雇用の場でもありました。
 以下のページでは、八ッ場ダム事業が温泉街の人々にとって「川原湯つぶし」と伝えましたが、閑散とした代替地は17年後の現状を無言で訴えているようです。
〈参考ページ〉➡「水没予定地の破壊」(2005年5月30日)

◆2022年3月31日 上毛新聞
https://www.jomo-news.co.jp/articles/-/95103
ー老舗・山木館が一時閉館へ コロナ禍で経営悪化ー

川原湯温泉で最も古い約360年の歴史がある山木館(群馬県長野原町川原湯、樋田洋二社長)が、5月21日チェックアウトを最後に一時閉館することが30日分かった。八ツ場ダム建設に伴う高台移転を乗り越えた老舗旅館だが、コロナ禍の長期化で経営が悪化し、従業員を整理解雇した上で事業を見直すことにした。同館は「家族経営で再出発したいが、再開時期は未定」としている。

 同館は1661年創業。ダム建設に伴い2013年に高台に移転した。現在は樋田勇人さん(27)が祖母の実家に当たる同館に養子として入り、専務兼15代目当主として切り盛りしている。木造一部2階建ての全8室は「水車とムササビの宿」として知られた旧旅館の雰囲気を残す。源泉掛け流しの温泉で1泊2食付き1人2万~3万円の高級路線で営業している。

 コロナ禍が始まった2020年春以降、県や国の観光支援事業で混雑する時もあったが宿泊客が安定せず、特に今年の第6波以降は予約客がなく10日間連続で休業したり、週末の1組だけのために営業するなど苦しい状態が続いていた。

 「コロナゼロ」の語呂に合わせた5670円割引や、日帰り温泉事業などで集客に努めてきたものの正社員5人の雇用維持が難しく、一時閉館後に整理解雇する。

 4月から県独自の観光支援事業「愛郷ぐんまプロジェクト」が始まり、国のGoToトラベル再開の可能性もあるが、「一時的に宿泊客が増えても経営が厳しいことには変わりなく、コロナによって受けたこれまでの影響が大きい」(勇人さん)と判断した。

 旅館を運営する会社自体は存続させ、家族経営による民宿のような形態での再開を目指す。勇人さんは「ダム建設に伴う移転後も頑張ってきたので残念だ。今後はこれまでのような手厚いおもてなしは難しいが、セルフ形式を取り入れ、宿屋が存続できるよう考えたい」と話している。

 川原湯温泉協会によると、約20軒あった旅館はダム建設に伴う移転で6軒に減った。同温泉街には繁忙期だけ従業員を雇用する宿はあるが、同館の一時閉館に伴い通年で正社員を雇う規模の旅館はなくなる。

◆2022年3月31日 毎日新聞
https://mainichi.jp/articles/20220331/k00/00m/040/275000c
ー八ッ場ダム近くの山木館、5月から一時閉館 コロナで利用客減少ー

 完成から31日で2年となった八ッ場(やんば)ダム(群馬県長野原町)のそばにある川原湯温泉で、1661年創業の老舗旅館「山木館」が5月21日を最後に一時閉館することを明らかにした。ダム建設に伴う高台移転は乗り越えたものの、新型コロナウイルスの感染拡大により利用客が大幅に減少していた。同館は従業員を整理解雇した上で家族経営での再開を模索する。

 同館はダム建設に伴い2013年にダム湖を見下ろす高台に移転。木造2階建て全8室で、1泊2食付きで1人2万~3万円の高級路線で営業してきた。

 15代目の樋田勇人さんによると、コロナ禍により宿泊客が安定せず、特に今年1月からの「第6波」以降は、10日連続で休業することもあった。樋田さんは「1組だけのために営業することもあり、営業すると赤字が生じていた」と明かす。

 観光資源と見込んでいた八ッ場ダムは完成したものの、完成式典などが延期され、移転した同温泉をPRする機会も奪われた。そもそも、全国的に知名度が高い草津温泉が車でわずか25分の距離にあり、宿泊客が流れて集客も思うようには進まなかったという。

 県内も適用対象となった第6波によるまん延防止等重点措置が3月22日に解除となり、4月から県独自の宿泊支援事業「愛郷ぐんまプロジェクト」第4弾もスタート。国の観光需要喚起策「GoToトラベル」が再開される可能性もあるが、樋田さんは「旅館経営は繁忙期で稼いで閑散期をカバーするが、コロナ禍で今後の経営が見通せない」という。

 このため、同館は一時閉館後に5人の正社員を整理解雇し、経営を見直す。樋田さんは「宿の存続の道を探るため一時閉めたい。時期は言えないが、家族経営のような形で再開したい」と説明する。

 長野原町産業課によると、同温泉はかつて20軒ほどあった宿泊施設がダム建設により現在は6軒に減少した。同課は「川原湯温泉で最も歴史がある宿だけに、山木館の一時閉館の観光面での影響は大きい」と話す。【庄司哲也】

—転載終わり—

写真=ダム湖畔の打越代替地(川原湯地区)に佇む山木館。

写真=打越代替地とダム湖。山の切り土斜面の右端に山木館。

写真=八ッ場ダム事業で造成された打越代替地の売れ残った空き地。これらは国有地で、これまでは地元住民だけが購入する権利があったが、今後は対象を広げて販売するという。このページの写真はすべて2022年3月31日撮影。