八ッ場ダムの建設事業費は5320億円と、全国のダム事業の中で突出して高額でしたが、その中でダム建設そのものが占める割合は1割以下でした。ダム建設地は交通の要衝にあり、ダム事業用地には470世帯の人々が暮らしていたため、JR、国道、県道の付け替え、住民の移転等に巨額の補償事業が必要でした。
八ッ場ダム事業にはこの建設事業のほかに、「生活再建」と「地域振興」を目的とした水源地域対策特別措置法の事業(略称:水特法事業、約1000億円)と利根川・荒川水源地域対策基金事業(約178億円)がありました。補償事業やこれらの事業は「生活再建関連事業」と呼ばれました。このように、ダム事業の犠牲になった水没地域には大量の公金が投じられましたが、人口減少、住民の高齢化が進んでいます。
地元紙が八ッ場ダムの水特法事業で立ち上げられたイチゴ生産組合解散のニュースを伝えています。朝日新聞の報道によれば、ハウス建設などにかかった初期費用は約1億円だったということです。燃料費の高騰なども解散の理由に挙がっていますが、根本的な原因は当初から指摘されてきた「担い手不足」です。
群馬県の資料によれば、「長野原町園芸施設整備事業」には5億5400万円の予算が充てられおり、トルコギキョウの栽培なども行われてきました。水特法事業には、国費と共に利根川流域一都四県(東京・埼玉・千葉・茨城・群馬)、地元の負担もありました。
続報(6/8)によれば、イチゴ生産組合の解散で使われなくなったハウス4棟が公売にかけられ、3棟が地元住民に落札されたとのことです。
〈参考〉
〇八ッ場ダム三事業の負担額
〇群馬県資料「水源対策特別措置法の事業の執行状況」(2015年度末)
〇長野原町林地区施設園芸組合のトルコギキョウ栽培~(群馬県ホームぺージより)
◆2022年5月13日 上毛新聞
ーイチゴ生産組合が解散 八ツ場ダム建設に伴う生活再建で設置も担い手減少で 長野原町ー
長野原町は12日の町議会全員協議会で、八ツ場ダム建設に伴う生活再建事業の一環で発足し、長野原地区でイチゴ栽培を手がけてきた「長野原園芸生産組合」が今季限りで解散することを明らかにした。組合員の減少や燃料費高騰が要因。水没地区の農地の代替として町が下流都県の負担で建設し、組合に貸していたハウスなどの園芸施設は公売にかける。
町農林課によると、組合は2008年に地元住民8人で発足した。ダム受益者の下流都県が負担金を拠出する水源地域対策特別措置法(水特法)に基づく事業として、町が10年度に栽培棟や管理棟、育苗棟を建設。組合は施設の賃貸借契約を町と結び、新たな特産品にしようとイチゴ栽培を手がけてきた。
栽培は当初は順調だったが、組合員の高齢化に伴って担い手が徐々に減少。イチゴの生育不良や老朽化した施設の修繕費がかさむなどして収益が悪化したほか、昨年以降続く燃料費の高騰により、事業継続が難しくなった。現在は季節雇用のパートを含む数人で運営しており、今季限りで栽培を終了する。
施設は水没地区住民の生活再建のために下流都県の負担で建設した経緯があるため、町は町民への売却を軸に考えている。今月末に現地説明会を開き、6月中に公売を実施する。ただ、土地は別の地権者が所有しているため現在地での事業継続はできず、購入者が施設を別の場所に移す必要があるという。
担当者は「できればイチゴ栽培を継承してくれる人に託したい。イチゴ栽培での活用を最優先に、町内で売却先を選びたい」としている。
◆2022年5月28日 朝日新聞
ー八ツ場ダム生活再建事業のイチゴ生産組合が解散へ 長野原町ー
八ツ場ダム(群馬県長野原町)の建設に伴う生活再建事業として整備され、長野原地区でイチゴ栽培を手がけてきた「長野原園芸生産組合」が、今シーズン限りで解散することがわかった。組合員の高齢化や、燃料費の高騰などが要因となった。
町農林課などによると、組合は2008年、ダム事業で農地を手放した長野原地区の兼業農家8人でつくり、イチゴのハウス栽培を始めた。
施設は、管理棟、育苗棟のほか、1千平方メートル超の栽培棟が二つある。ダム受益者となる下流都県が負担金を拠出する水源地域対策特別措置法に基づく事業として町が2010年度に建設し、組合に貸していた。ハウス建設などにかかった初期費用は約1億円という。
イチゴ栽培は当初は順調だったが、組合員の高齢化が進み、担い手が徐々に減っていった。16、17年と担い手募集のチラシを水没5地区(川原畑、川原湯、横壁、林、長野原)に配ったが、応募者はゼロだった。施設も老朽化したうえ、ここ最近の燃料費の高騰が追い打ちをかけた。
昨年から組合長を務めている浅沼清一さん(83)によると、ハウスの暖房用に使っていた重油の値上がりで、この冬の3カ月だけで300万円ほど持ち出しがあったという。
浅沼さんによると、イチゴ栽培は初めての経験だったが、農業の指導者に教わりながら取り組んだ。「やよいひめ」と「章姫(あきひめ)」の2品種を育て、地域の名前を取って「幸神(さいのかみ)いちご」としてPR。道の駅などに出荷し、多い時は年間700万~800万円の売り上げがあったという。今シーズンは栽培法を改良。「イチゴが大きくて甘くなった」と評判もよかった。
現在は、浅沼さんやパートの女性らがイチゴを収穫し、パック詰めなどの作業を続けている。今シーズンの収穫が終わる6月をめどに、ハウス内の水を止め、栽培を終える予定という。「組合を続けていく後継者がいない。だれかが続けてくれればよかったけれど、仕方がない。残念です」
組合の解散方針を受け、町は「引き続き活用をしてもらいたい」と施設を公売にかけることにした。まずは町民を対象に6月2日に町役場で公売(競り売り)を開く予定だ。町の担当者は「できればイチゴの栽培を引き継いでもらえれば」と話している。(前田基行)
◆2022年6月8日 上毛新聞
ーイチゴ施設3棟 地元2人が落札 八ッ場再建事業 長野原町が公売ー
長野原町は7日の町議会全員協議会で、今季限りで解散する「長野原園芸生産組合」に貸していたイチゴ栽培施設の公売を2日に行い、町内の2人が施設4棟のうち3棟を計16万5千円で落札したと報告した。
町農林課によると、落札者はいずれもイチゴ栽培で活用する意向という。残るハウス1棟は個別に事業者に買い取りを呼びかける。
同組合は八ッ場ダム建設に伴う生活再建事業の一環で2008年に発足した。栽培施設はダム受益者4である下流都県の負担で建設された。組合は町と施設の賃貸借契約を結び、水没地区の長野原地区でイチゴ栽培を手がけてきたが、組合員の減少や燃料費の高騰で事業継続が難しくなり、今季限りで解散が決まった。(前原久美代)