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多摩川の治水計画見直しへ

 東京都と神奈川県の境を流れる多摩川の治水計画が変更されることが報道されています。
 2019年10月の東日本台風(台風19号)では、多摩川でも水が溢れ、大きな被害がありました。東京都側の左岸では、二子玉川駅(東急田園都市線)に近い世田谷区玉川で溢水が発生して周辺の家屋約40戸が浸水、右岸側の川崎市でも多摩川支流の平瀬川が氾濫しマンション1階の住民が水死、市民ミュージアムは地下収蔵庫が水没し収蔵品が大きな被害を受けました。
 洪水の際は水位計が流失し、正確な洪水流量を把握することが困難な場合が多いのですが、国土交通省関東地方整備局は、この時も同様で、流量が最も大きかった時の洪水ピーク流量を推定するのに時間がかかったと説明しています。試算の結果、2019年の洪水では現在の国の治水計画で想定された200年に一度の大洪水における最大流量を上回ったことが判明し、治水計画の抜本的な見直しが必要になったとのことです。

◆2022年10月10日 神奈川新聞
https://news.yahoo.co.jp/articles/677ac9043ffd38dde55b92cb6637dd9a0140e1d5
ー多摩川の治水計画見直しへ 想定超の流量、温暖化も考慮ー

 記録的豪雨となった2019年10月の台風19号(東日本台風)で、増水した多摩川のピーク流量が中流部で毎秒7千立方メートル(推定値)に上り、国の治水計画の想定値を上回っていたことが、国土交通省京浜河川事務所の試算で分かった。同台風では川崎市や東京都世田谷区などで深刻な水害が起きただけに、国交省は既存の計画に基づいて河川改修を進めても、気候変動で今後さらに激しさを増す雨を安全に流せないと判断。治水計画を見直し、抜本的な対策を検討する考えだ。

 流量の試算結果は、今月3日に開かれた多摩川河川整備計画有識者会議で報告された。公表まで3年近くを要した理由について、同事務所は「慎重に検討したため」と説明した。

 東日本台風が伊豆半島へ上陸した19年10月12日を中心に、多摩川の上流部では観測史上最多の雨量を記録。激流によって中流部の水位計は流失した。そのためピーク時の詳細な水位を把握できていなかったが、流されずに残っていた予備の水位計の記録を基に当時の流量を試算したという。
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 上記の記事は、以下の「第3回多摩川河川整備計画有識者会議(令和4年10月3日)」の資料3をベースにしています。

 国土交通省関東地方整備局ホームページより
 https://www.ktr.mlit.go.jp/river/shihon/river_shihon00000456.html”>第3回多摩川河川整備計画有識者会議(令和4年10月3日)

 https://www.ktr.mlit.go.jp/ktr_content/content/000840783.pdf”>資料-3 令和元年東日本台風(台風第19号)を踏まえた対応について(全25ページ)

 資料-3の最後に「まとめ」として以下のスライドが掲載されています。
 

 国土交通省の説明について、多摩川の治水問題にも取り組んできた水源開発問題全国連絡会共同代表の嶋津暉之さん(元東京都環境科学研究所研究員)は次のように述べています。

「驚かされるのは、この洪水では中流部の石原水位観測所(東京都調布市)のピーク流量が最大7000㎥/秒になっていることです。これは多摩川の河川整備計画の河道目標流量4500㎥/秒(戦後最大洪水を想定)をはるかに上回り、200年に1回の洪水を想定した河川整備基本方針の計画高水流量6500㎥/秒をも超えたことを意味しています。
 
 河川整備基本方針では石原地点の基本高水流量(流域に降った雨がそのまま川に流れ出た場合の流量)は8700㎥/秒で、ダムなどの洪水調節施設で6500㎥/秒に下げることになっています。しかし、その洪水調節施設については河川整備基本方針に「なお、 2,200m /sec3にに見合った洪水調節施設の具体的な施設については、さらに、詳細な技術的、社会的、経済的見地から検討した上で決定する」と書かれているだけで、具体的な今後の計画はありません。なお、多摩川の上流には小河内ダムがありますが、小河内ダムは東京都の水道専用の貯水池であって、治水機能はありません。

 このように、主に東京都を流れる多摩川の治水計画でも現実の洪水に対応できないものになっており、国や都道府県が策定している治水計画とは一体何なのかと思わざるをえません。」

以下の画像=「資料-3 令和元年東日本台風(台風第19号)を踏まえた対応について」よりスライド