今年も梅雨末期の豪雨の時期を迎え、各地で河川が氾濫し、水害が発生しています。
豪雨が長時間降り続くことで、容量が限られたダムが満杯になると、ダムは決壊を防ぐために貯まった水を大量に放流しなければならなくなります。このような緊急放流を行う時、豪雨が降りやまず、河川の水位が上昇していると、更に水位が急上昇し、水害が拡大してしまいます。このような事態を避けるため、ダムを操作する担当者は、少しでも緊急放流を行うタイミングを遅らせようとし、その間に下流域の住民に避難を呼びかけるのですが、線状降水帯が停滞すると豪雨のさなかに緊急放流を実施しなければならなくなったり、避難指示が伝わらないという事態がしばしば起こります。
先月6月には、富山県が管理する白岩川ダムが緊急放流を行いました。死者こそ出なかったもののダム下流で多くの被害が発生し、ダムを巡る様々な問題が指摘されています。ダム事業を推進するためにダムの効果は過大にPRされる傾向がありますが、ダムによる治水には限界があることがもっと周知される必要があります。
◆2023年6月29日 NHK富山放送局
https://www3.nhk.or.jp/lnews/toyama/20230629/3060013646.html
ー28日夕方 立山町の白岩川ダムで緊急放流ー
ところで、住宅や水田の浸水被害が相次いだ立山町白岩地区から約600メートル上流にある白岩川ダムでは、28日夕方、流入する水を貯めずにそのまま下流に放水する緊急放流を実施していました。
県の河川課によりますと、立山町の白岩川ダムでは28日午後4時10分に、水位が緊急放流の判断基準のひとつとなる「緊急放流判断水位」に達し、その後もさらに水位が上がりダムが決壊する危険性があったことから県は午後4時20分から緊急放流を実施しました。
国土交通省のデータでも白岩川ダムに流れ込む水の量は、きのう午後2時の時点で毎秒6.86立方メートルでしたが、2時間後の午後4時には毎秒356.41立方メートルと約50倍にまで急増したということです。
その一方で、県が立山町に緊急放流の実施を通知したのは、直前の午後4時15分ごろでした。
そして、放流開始から約20分後の午後4時43分には、立山町消防本部に「白岩地区の堤防が崩れそうだ」といった通報が入り、消防が現地に向かったところ、すでに白岩川の水があふれ白岩地区に流れ込んでいたということです。
この緊急放流について県河川課は「今回の大雨は極端な降り方でダムの貯水スピードが速かったことから短時間で緊急放流の判断をしなければならなかった。規則に従って緊急放流を実施したという認識だが、自治体への連絡などについては今後事実関係を確認していく」と話しています。
◆2023年6月29日 富山テレビ
https://www.fnn.jp/articles/-/549937
ーダム緊急放流後に下流で堤防決壊…白岩川の氾濫は防げなかったのか ハードルの高い雨量予測と事前放流ー
28日の富山県東部を中心とした大雨で堤防が決壊し氾濫した白岩川。
その25分前には上流のダムで緊急放流が行われました。
氾濫は防げなかったのか、検証しました。
白岩川ダムからおよそ600メートル下流にある、立山町の白岩地区です。
道が壊れ、白岩川の堤防が決壊した様子が確認できます。
*リポート
「白岩川の堤防が決壊した場所です。こちらから水が流れ込み、田んぼだった場所には大きな石や木が流れ着いています」
*白岩地区の住民
「農作物がいっぱいなっていた。大事に育てていたのに」
この地区でも床下浸水した住宅があり、住民は朝から片付けに追われていました。
*白岩地区の住民
「だんだん河川の水位があがった」
「津波を見ているようだった。ダムの放流にちょっと問題があったのでは」
*リポート
「白岩川ダムです。平常の水位には戻っておらず、きょうも放水されています。きのうダムの完成以降初めて行われた緊急放流、下流では浸水などの被害が出ましたが、その対応は問題はなかったのでしょうか」
こちらは、ダムに設置されているカメラの映像です。
ダムの流域で本格的な雨が降り始めたのは、28日の午後1時。
その頃ダムはほとんど平常に近い水位でした。
しかし、その1時間後からは激しい雨が降り出し、流域の雨量計(上市町小又)では午後2時までの1時間で40ミリ、午後3時までに88ミリ、午後4時までに69ミリを観測しました。
*県白岩川ダム管理事務所 水野豊彦所長
「3時間に200ミリくらい降った」
午後1時から4時までのわずか3時間で降ったおよそ200ミリの雨。
午後4時頃のダムはほとんど満水で、午後4時20分、ダムが完成して49年で初めて「緊急放流」に踏み切りました。
*県白岩川ダム管理事務所 水野豊彦所長
「(下流の被害は)緊急放流の影響があると認識している。ダムの決壊をする大きなリスクと水を多く流すのをどちらかをとるか。苦渋の決断」
ただ下流に住む住民によると、堤防が決壊したのは、緊急放流が行われた25分後だったといいます。
*白岩地区の住民
「流れすぎ。目の前で堤防が壊れた。放流したから水が増えた。ダムの責任だ」
これに対して河川災害が専門で、県内のハザードマップの作成にも携わった手計教授は。
*河川災害が専門・中央大学 手計太一教授
「集中的に雨が降っている。もともと対応できるようなダムの貯水能力でない。今回のように空間、時間的に超集中型で降った場合は、流入量の予測よりも、気象側の雨の予測の高度化を図らないと」
では、今回のような被害を防ぐ手立てはなかったでしょうか。
*県白岩川ダム管理事務所 水野豊彦所長
「県としても事前放流に取り組んでいる。それは気象庁から出る雨量予測で判断しているが、今回の雨は予想をはるかの上回る雨。(事前放流を)する予想ではなかった。だから通常の洪水対応で進めた」
白岩川ダムでは増水時に備え、降雨量が24時間で210ミリの予報がでれば、貯水している水を事前に放流し貯水量を調整する決まりでしたが、28日朝の時点では、24時間で100ミリにも満たない予報が出ていました。
しかし結果的にはわずか3時間で200ミリの雨が降り、24時間で250ミリ以上の雨が降ったのです。
*河川災害が専門・中央大学 手計太一教授
「利水、治水の両方の役割を果たさないといけないダム貯水池は、事前放流はそんなに容易く了解を得られることはない」
近年、異常気象が頻発するなか、防災のあり方を今一度考えていく必要があります。
今回、緊急放流が行われた白岩川ダムの役割は2つ、下流域を洪水から守る「治水目的」それに農業用水などに利用する「利水目的」です。
そもそも今回は想定外の短時間の雨で事前放流はできませんでしたが、今は農作物を育てる時期、水不足の解消のためにも、事前放流のハードルが高いという側面もありました。
◆2023年6月 チューリップテレビ
https://news.yahoo.co.jp/articles/76d2fd1997d2101f6649edac9ec81e237f0d15c7
ーなぜより早く放流できなかったのか?白岩川ダムの緊急放流を考える 富山ー
28日に記録的な大雨で被害を受けた富山県立山町の住民からは「白岩川ダムの緊急放流が被害を拡大させたのでは」という疑問の声が数多く聞かれました。緊急放流は適切だったのか取材しました。
28日、貯水量を上回る大量の雨が流れ込み緊急放流に踏み切った白岩川ダム。29日、被害が出た川の周辺地域を取材すると…。
立山町の住民:「ダムが一気に吐き出したからこんなんになったんや。少しずつ出してくれればよかったのに、一気に吐き出さんと…」
上市町の住民:「結局、ダムの放流、ダムの放流の是非を取材してほしいわ。もうちょっと少しずつ事前に放流できんかったんかとかさ」
立山町の住民:「自然災害と言えばいいか、人為的ミスと言えばいいかわからん…。今までこんな水の出し方せなんだと思うよ」
富山県は立山町の白岩川ダムが越水する恐れがあるとして、28日午後4時20分から午後5時3分まで緊急放流を実施しました。
緊急放流のあと白岩川ダムの下流立山町の白岩橋付近では水が住宅地や田んぼへと流れ込んでいる様子がみてとれます。
緊急放流とは、大量の雨がダムに流入し続け水位が限界に達する見通しになった場合さらなる水位の上昇を避けるため流入量とほぼ同じ量の放流を行う操作のことです。
富山県によりますと県内のダムで緊急放流を行ったのは2017年の室牧ダムに次いで2回目。白岩川ダムでは1973年の竣工以来初めてでした。今回、なぜ緊急放水に踏み切ったのか?判断は適切だったのか?白岩川ダムの管理責任者を取材しました。
所長「通常はこれですね、これが通常ですね…」「(きのうの)16時30分の段階でここからこぼれている」「ここの高さがダムの洪水時の最高水位の高さになるんです。ここを超える流入量だったと」
赤線で示した場所がダムの限界水位です。3時間後の午後4時には限界水位に迫っているのがわかります。
所長:「計画規模の1.5倍以上のもの想定しているものよりも大きい非常に大きい洪水の量だった」「緊急放水しなかったら水位がどんどん上がっていってオーバーフローする懸念がある」
その緊急放流を避けるためにも行うのが事前放流です。これは水位が限界に達すると想定される場合、あらかじめダムの水位を下げる措置です。
白岩川ダムでも気象庁の降雨予測をもとに事前放流を実施するかどうか判断しています。
所長:「今回、(気象庁の)データをみていますと、それほど降らないデータでもあったということもあって事前放流という形での対応は取っていなかった」「それだけ今回、強烈に短時間に強い非常に強い雨がもたらされたと」
所長:「これみていただいたらわかるんですけど」「この3つが色が変わっていますけど、強烈な雨、3時間で200ミリくらい降っているわけです」
事前放流をしていない中で短時間に予想を超える大量の雨がふったためダムが崩壊し人命への被害が出るのを避けるためにも緊急放流に踏み切らざるをえなかったとしています。
所長:「やむを得ず緊急放流の対応をさせていただいた」「ダムも水を貯めて持ちこたえるもの。耐えている間に逃げてもらうものだと理解していただければと思う」
もっと早く放流していれば、という声に対して県も「事前の予測を上回る雨が降って緊急放流せざるを得なかった」としていますが、住民に対しては丁寧な説明が必要だと思います。
◆2023年7月12日 チューリップテレビ
https://yamba-net.org/wp/wp-admin/post-new.php
ー緊急放流のサイレン聞こえず「避難しないといけないとは思わなかった」課題は住民への連絡 富山ー
先月28日の富山県東部を襲った大雨で、浮き彫りになったのが白岩川ダムの緊急放流です。住民への連絡体制のあり方です。
これは、記録的な大雨が降った先月28日の白岩川ダムの映像です。午後1時時点での水位は低くこの程度です。
しかし、その後、午後2時から3時までの1時間にダム上流で88ミリを超える雨を観測。一気に水かさが増します。
ダムへの流入量を見ると午後1時にはわずか1秒あたり2トンでしたが午後3時40分、1秒あたり181トン。90倍を超える水がダムに流れこんできました。
午後3時49分、ダムの管理事務所はこのままだと限界水位を超えると判断し、県に緊急放流を午後5時から実施する意向を伝えます。しかし、その30分後、午後4時10分。ダムへの流入量は1秒あたり最大422トンまで達しました。
白岩川ダム管理事務所 水野豊彦 所長:「1秒あたり422トン。普段流れている量が1トンから2トンですので、桁が三桁ですのでまさに桁違い」
そして、午後4時20分、ダムはついに限界水位を超え予定よりも40分も早く緊急放流に踏み切りました。
緊急放流とはダムが貯水量の限界を超えて崩壊したり制御が効かなくなる最悪の事態を避けるため上流から流れてくる水とほぼ同じ量の水を下流へと流す緊急的な操作です。
緊急放流の際は管理事務所が実施30分前に川の周囲に設置されたサイレンで下流住民に連絡することにしていましたが…。午後4時20分の緊張放流とサイレンを鳴らすのが同時になってしまいました。
サイレンがなってからおよそ1時間10分後午後5時半ごろの白岩川橋周辺の様子です。女性の自宅には白岩川から溢れ出した大量の水が流れ込んでいましたが逃げ遅れました。その原因は…。
女性:「今から放流しますのサイレンがなった。その30分後には水が来ていた。避難しないといけないとは思わなかった」
白岩川ダム管理事務所の水野所長は…。
白岩川ダム管理事務所 水野豊彦 所長:「雨のときに聞こえないという声もあった。何度もならせばよかったかもしれない…」
今回の緊急放流について専門家は…。
中央大学理工学部 手計太一教授:「急流河川。雨がふってなくても…増えてくる。県はもっと周知する必要がある」
富山県内の河川は流れの激しく、下流では前が降っていなくても上流から一気に激しい雨が降ってくることを住民一人一人が意識することが重要だといいます。
またサイレンの鳴らし方についても…。
中央大学理工学部 手計太一教授:「専門用語があって、分かりづらかったりする…サイレンの音を変えるとかっていう方法も考えていいかもしれない」
豪雨被害から2週間。いつ来るかわからない豪雨に備えて改めて住民ひとりひとりの意識と緊急放流時にどうのように住民に対して情報を提供するのか対策が求められます。