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人吉の災害公営住宅建設 計画の撤回求め住民監査請求

 2020年の熊本豪雨で球磨川が氾濫した人吉市では、その後、災害公営住宅が建設されることになりました。しかし、建設予定地が浸水想定区域となっているなど、この災害公営住宅を巡っては問題が噴出しており、これもショックドクトリン(惨事便乗型資本主義)の典型例だと言われています。
 このほど、この建設計画をめぐり、人吉市民が計画見直しを求める会を立ち上げ、住民監査請求を行ったとのことです。JBpress に一か月ほど前に掲載された解説記事と共にお伝えします。
 被災者住民らは水害からの復興に汗を流しながら、理不尽な計画に反対する運動に取り組まなければなりません。

◆2023年9月6日 NHK熊本放送局
https://www3.nhk.or.jp/lnews/kumamoto/20230906/5000020089.html
ー人吉の災害公営住宅建設 計画の撤回求め住民監査請求ー

 3年前の7月の豪雨を受け、人吉市が市の中心部に建設を計画している災害公営住宅をめぐって、計画の撤回を求める市民らが、「浸水した地域に建設するのは、市の条例に違反する」などとして、土地と建物の購入費用の差し止めなどを求める住民監査請求を行いました。

 人吉市は3年前の7月の豪雨を受け、市中心部の九日町と大工町に、鉄筋コンクリート造り5階建ての災害公営住宅2棟の建設を計画しています。

 この計画をめぐり、6日、計画の撤回を求める市民20人余りが市役所を訪れ、市民あわせて379人が請求人となっている住民監査請求書を市の監査委員に提出しました。

 請求によりますと、建設予定地は3年前の豪雨で最低でも1.5メートルほど浸水した地域で、国の「洪水浸水想定区域図」では今後も浸水が生じる可能性があるとされていて、市の条例に違反するなどとしています。

 そのうえで、建設予定地の土地と建物の購入費用の差し止めなどを求めています。

 このあと、グループのメンバーらは記者会見し、「浸水した場所になぜ建設するのか。計画を撤回し、早急に計画を立て直してほしい」と訴えました。

 市の監査委員は、請求を受理した場合は地方自治法に基づき、60日以内に監査結果を通知することになっています。

◆2023年9月4日 テレビくまもと
https://news.yahoo.co.jp/articles/3b6786227e8248570dc6886a2d1ad663b18b6cdc
ー人吉市の災害公営住宅の建設計画で見直しを求める会発足ー

 3年前の豪雨で人吉市が市の中心部で計画している災害公営住宅の建設をめぐり3日反対する被災者らが計画の見直しを求める会を立ち上げました。

人吉市は豪雨で被災した中心部の大工町と九日町に災害公営住宅2棟合わせて45戸の建設を計画しています。

3日の結団式にはおよそ40人が参加、3年前の豪雨で被災した市民などが共同代表となり、計画の見直しを求める会を立ち上げ、6日に人吉市に住民監査請求を行うことなどを報告しました。

会では、「5階建ての災害公営住宅は地域に不釣り合いで、災害防止の観点も全く欠落している。近隣住民のプライバシーへの配慮もない」と指摘。「計画の白紙撤回を強く求める」との決議文を読み上げ、ガンバロー三唱をして団結を誓いました。

■2023年9月6日 テレビくまもと
https://www.youtube.com/watch?v=_jhIOO2mg18
ー人吉市の災害公営住宅建設計画 反対の市民らが監査請求ー

 

◆2023年8月11日 JBpress
https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/76459
ー熊本県人吉市、浸水想定5~10m地域に「災害公営住宅」を建設する非合理
 【川から考える日本】建設ありきで地域住民に説明なし、市民の声ないがしろに まさのあつこー

■水害に見舞われた人吉市で揺れる新たな問題
 国連のグテーレス事務総長が「地球沸騰化の時代が来た」と表現した。

 異常気象で誰でも被災しかねない。日本でも豪雨や台風被害が甚大化し、頻発化している。鬼怒川(茨城県)で2015年、小本川(岩手県)で2016年、筑後川(福岡県)で2017、2020、2023年、小田川(岡山県)で2018年、千曲川(長野県)で2019年、球磨川(熊本県)で2020年、今年も雄物川(秋田県)ほか各地で浸水被害が起きている。

 住居を失った被災者が、避難所から仮設住宅やみなし仮設に移り、自宅再建が難しい被災者には、自治体が災害公営住宅を建設、提供することも一般化した。

 しかし、賢明なのは、今後新たに建てる住宅は、災害が想定される地域をできる限り避けることではないか。

 国土交通省は2021年に「水災害リスクを踏まえた防災まちづくりのガイドライン」を発表。自治体が条例で災害危険区域を指定したり、特定都市河川浸水被害対策法で浸水被害防止区域を指定し、住居の建築を制限したりすることを勧めている。

「うちは逆なんですよね。浸水想定区域に建てていく」と、熊本県人吉市が進める災害公営住宅について6月19日の人吉市議会で指摘したのは、大塚則男市議だ。

 同市は、3年前の「令和2年7月豪雨」による球磨川などの氾濫で甚大な浸水被害を受けたが、現在、市内2地区で、土地建物提案型(プロポーザル方式)で災害公営住宅の整備事業を進めている。

 そのどちらも浸水区域に位置しているのだ。

 プロボーザル方式とは、民間業者が土地を見つけてその売買価格と建設工期などを提案し、最高得点を得た業者を選んで整備させて、市が買い取る方式だ。

 市内2地区のうち、先行する相良地区は3年前に90センチ浸水した。ここでは広々とした道路に面する市有地に1メートル(m)盛土して、120戸分の災害公営住宅を建てる提案が採用された。現在建設中で、今年11月には完成する。

一方、大塚市議が問題にしたのは、もう一つの東校区地区の計画だ。

 こちらの浸水深は1.5mだった。この場所と選定プロセスの双方について、今、地域住民から疑問の声が上がっているのだ。

■自宅前に5階建て?新聞で知った「災害公営住宅」建築
 現地を訪れると、その理由は肌で感じることができる。ナビゲーション通りの運転で向かったが、「ここじゃないよな」と一度通り越してしまったほど、計画地は、住宅・店舗が密集する路地に面している。

 この狭い路地を挟んで、九日町の空き地に5階建て19戸、大工町に5階建て26戸の災害公営住宅を建てる提案が、東校区地区においては選定された。

 取材させてもらったのは、九日町の計画地の真向かいにある寿司屋をかつて夫と営んでいた田代隆子さん(70歳)。そして共に、計画に異論を発してきた府本いさ子さん(80歳)や増田慶さん(90歳)たちだ。

 彼女たちが計画を知ったのは、3月30日の人吉新聞。1958年から続く地域密着型の日刊紙だ。見出しは「中心市街地に災害公営住宅 人吉市 場所と事業者決定」。九日町と大工町に1棟ずつの集合住宅が建つ鳥瞰図も掲載されていた。

 それを見て初めて、自分たちの住居の真向かいに5階建てが建設されることが「決定」したことを知った。

「新聞を読んで、慌てて市役所に電話したんです。そしたら、『なんで5階建と知っているんですか』と聞き返された」と一人が言えば、一人は「私も電話しました。『何も聞いていないから、今からでも市役所に出向いて行くから正式に説明を聞きたい』と言ったら、『まだ決定していないから、来ても説明できません』と言われました」と言う。

 田代さんは「そうは言っても、私たちが(対面に住んで)いるから3階ぐらいにして、道路も広くしてくれるんじゃないかと思っていたんです」という。

 ところが、田代さんも慌てることになる。4月のある日、家の前を行ったり来たりする人がいた。「何かありますか」と聞いたら、市に選ばれた業者だった。

 1月の提案募集に応じた3者の中で、最高得点を得て3月29日に選定されたのは「丸昭建設・セルアーキテクトONS・京成不動産連合体」(以後、丸昭建設ら)だった。

 盛り土はせず、1階は柱だけの空間(ピロティ)にして2階から住居を設けて5階建にするプロポーザルだった。

 田代さんが、「道からどれくらい引いて建てるのか」と聞くと1mだという。

「ここは商業用地ですから引かなくてもいいんです」と言われ、「でも、日照権は?」の質問にも「商業地ですから発生しません」との返事だった。

 後に「災害公営住宅建設反対の会」は、公営住宅法に基づく整備基準で「地域の良好な居住環境を確保するために必要な日照、通風、採光、開放性及びプライバシーの確保、災害の防止、騒音等による居住環境の阻害の防止等を考慮した配置でなければならない」とされていることを知る。必ずしも誠実な回答ではなかったのだ。

■ただの「立ち話」が「戸別訪問」という詭弁
 田代さんは、「『また来ます』と言われたので、どこの人ですかと聞いたら丸昭建設の方で、『上役が後からご挨拶に参ります』と言われた」と、立ち話を再現してくれた。

 そこで、町内会長に「説明会をするよう市に頼んでください」と府本さんたちと頼み行った。5月11日に説明会が行われると、多くの異論や疑問が噴出した。

 市が作成した最新のハザードマップでは、計画地は最大規模の降雨で想定される浸水深は5〜10mであることも明らかになった。1階をピロティにしても2階以上の浸水を免れない。

 3年前の被災後、復旧や再建を諦めて、土地を離れてしまった人々もいる中で、残った住民たちは皆、自宅を復旧させ、戻ってきた被災者だ。車も浸かる、エレベータも止まる、垂直避難ができてもライフランが止まる。泥まみれになった家財道具は何もかも捨てた。そんな記憶は生々しく残っている。そんな場所に、なぜ集合住宅を作るのか、解せないのである。

 それでも災害公営住宅を必要とする住民がいる限り、同じ地域住民が建設反対の声を上げることは容易ではないのが人情だ。

 そこで、声を上げられない人々の分まで年長者の3人が代弁して「災害公営住宅建設反対の会」として、前に出て声を上げるようになった。

 田代さんたちの相談を受けて、市議会で質問に立ったのが大塚市議だった。

 6月19日、「地域住民に(事前に)理解と同意を得ていれば反対の声は出なかったんじゃないですか」と松岡隼人市長と復興建設部長に語りかけた。

 大塚市議が「5月8日に説明会の案内が配布されて、11日10時からの開催では(急すぎて)、地域住民無視、建設ありきだと取られても仕方がない」と諌めると、復興建設部長が「事業者に戸別訪問をおこなった。説明会の要望があったので住民説明会を実施した」旨を弁明した。

 しかし、これには大塚市議が呆れて言い返した。

「戸別訪問というが、(事業者は)玄関先の立ち話で、『後で上のものが説明に来ますから』と言ったけど、その後、来ていない。だから説明会の要望が出たんですよ。この要望がなかったら説明会はあったんですか、なかったんですか」とたたみかけると、「予定としてはありませんでした」と復興建設部長が正直に答弁した。

県議親族の土地、プロポーザル開始後に動いた所有権
 住民が不信感や疑問を抱いたのは、第1に市による説明も調整もなかったことだったが、それだけではとどまらなかった。

 第2の疑問は、土地の予算1億9188万6000円の行方だ。

 選ばれた土地は国の地価公示で坪10万円程度。しかし、提案された土地面積で割ると、その3倍以上の坪30万円以上となる。

 筆者も市の住宅政策課に取材し、その算定根拠を聞くと、敷地7000m2分の予算を取ったが、九日町(822m2)と大工町(1326m2)の土地は計2000m2程度となったのだと言う。

 では、大幅な予算縮減となりますねと聞いたが、売買契約はこれからなので、と曖昧な答えしか返ってこない。

 5月11日の説明会で、住民から計画の見直しなどが要望された結果、5月30日にも2度目の説明会が行われた。今度は、建設事業費は18億円であるという情報も共有された。45戸で割れば1戸4000万円。これも土地代同様、過大ではないかという疑問も沸き起こったのである。

 第3の疑問は、公示価格の3倍で売買されかねない土地は、人吉市を選挙区とする県議の親族の土地なのである。

 しかも、「プロポーザルが始まった時から、所有権が動き出した」と登記簿をもとに大塚市議が議会で指摘した。「土地の売買は個人の自由です。ただ、タイミングがプロポーザル時に集中しているから、不信感を持つ」(大塚市議)。

 筆者は、その県議の地元事務所に、親族の土地がどのような経緯で整備事業に活用されることになったのか、提案された今回の事業が浸水想定区域にあることについての地元県議としての見解を聞きたいと取材を申し込んだが、秘書を通じて、断られてしまった。

 そこで、市の住宅政策課にも尋ねた。

 同課は、「市としては土地の動きは知り得ない。大事なのは、現在土地を持っている人が、災害公営住宅の建設に協力してくれることに同意が取れているかどうかだ」という。

 しかし、土地所有者が売却益を得て、その売却益を付加した土地価格で市が買い取るとなると、税金の使い道に対して、住民は疑念を持つことになるのではないか。そう食い下がると、同課担当者は「登記簿を見ればわかる」と言い放った。登記簿を確かめて、最終的に両方の土地が昨年12月と今年3月、つまりプロポーザル応募に前後して所有者が変わっていたと告げ、市民への説明の必要性を再度尋ねたが「問題視しない」と繰り返すだけだった。

 第4の疑問は、プロボーザルの選定委員会が、現地を見ずに選定を行ったことだ。委員は人吉市長が任命した3人。副市長、熊本県土木部建築住宅局長、学識経験者(熊本大学大学院准教授)だが、誰も現地に行っていないことが6月28日の市議会質問で明らかになった。

 問われた副市長は「選考基準に従って選考した」と答弁を行った。

 しかし、選考基準の一つは「景観や周辺環境との調和」だった。選定委員たちは現地を見ずにどう評価できたのか。丸昭建設らはこの項目で最高点をとっていた。

 また、選考基準には「コミュニティに関する配慮」もあったが、丸昭建設らは10点満点。名前さえ公表されない他2事業者はどちらも6点だった。周辺住民に事前説明がなかった提案がなぜ最高点を取ったのかのかは謎に包まれたままだ。

 一方、客観的な判断が可能な「工期」と「売買価格」の評価点の合計は、丸昭建設らは最低点しか取れていない。他2事業者と比べ、工期は遅く、売買価格も高い提案が選ばれたことになる。

 「災害公営住宅建設反対の会」は6月14日に計画見直しを求める陳情を市議会に行い、採決に先立って議員アンケートを実施して問題意識を提起した。

 しかし、市議16人中9人の反対で不採択となった。

 市長、副市長、部長に2127筆の反対署名簿も提出したが、方針は変わらず、7月8日に同じ計画を進めるための3回目の説明会が開かれた。

 その説明資料では、2021年に市が行った地区別懇談会で、九日町では「賑わいづくりのためにまちなかに災害公営住宅を建設してほしい」との意見があったこと、大工町で「空き地が増えているため、災害公営住宅はまちなかに建設してはどうか」という意見があったことを説明している。

 市は戸別訪問を7月10日から8月21日まで行い、8月28日に開く説明会で結果報告を行うとしている。当初は6月に事業者と売買契約を結ぶ予定だった。住民に理解を求める良識を欠いたために、余計に時間がかかっている。

■44.2%が、浸水想定・土砂災害警戒区域の公営住宅
 それにしても、災害公営住宅には4分の3が国からの補助金で作られるのだから、「浸水想定区域に建ててはならない」といった決まりはないのか。

 調べるとないのである。

 例えば国は、洪水、雨水出水、津波、高潮による被害を軽減することを目的とする水防法を2013年、2015年、2017年、2021年と立て続けに改正(https://www.mlit.go.jp/river/bousai/main/saigai/kisotishiki/index3.html)し、大河川だけではなく中小河川も含め、最大規模の降雨を想定したハザードマップの公表を河川管理者に義務付けた。また、要配慮者利用施設(例えば養護老人ホームや身体障害者施設、保育所などいわゆる避難弱者が利用する施設管理者)には、避難計画の作成義務を義務付けるなど、水害対策を強化し続けてきた。

 しかし、人吉市のように、5~10mの洪水浸水想区域に新たに災害公営住宅を建設することを規制したり、浸水想定区域には補助金を出さなかったりするような縛りはない。

 また、丸昭建設らが進める災害公営住宅の入所予定者は7割が65歳以上を占めるが、避難計画の作成義務がかかる「要配慮者利用施設」の定義には当てはまらない。自治体の判断に任されている。

 では、洪水浸水想定区域とわかっていて災害公営住宅を建てた例は人吉市以外にあるのか。水防法の担当者に尋ねると、災害公営住宅のことなら復興庁に聞いてほしいという。

 復興庁が所管するのは、東日本大震災の被災地だけなのだが、仕方なく復興庁インフラ構築班に取材すると、東日本大震災の津波による被災地では「禁止されているわけではないが、基本的には建てないようにしている。他の地域のことはわからない」と、両省庁とも縦割り行政丸出しだった。

 国土交通省は2021年に自治体を対象に公営住宅団地の立地状況の調査を実施した。その結果、自治体の79.2%、団地数にして44.2%が、「洪水浸水想定区域」、「土砂災害警戒区域」、「高潮浸水想定区域」などに立地していることがわかった。

 調査したのは住宅局住宅総合整備課であり、冒頭で触れた2021年ガイドラインを作った都市局都市計画課とは別だった。なお、この調査結果は求めれば入手可能だが、公表はされていない。

 2023年版国土交通白書では、「氾濫域における土地利用や住まい方」として、「発災前の段階からより安全なエリアへの住居や施設の移転、人口動態や土地利用等を踏まえた居住誘導(略)を推進し、安全なまちづくりを促進していく」と明文化している。

 ちなみに、2021年の水防法改正は、善福寺川の記事(「川床を掘り下げる以外にないのか」善福寺川に見る住民参加型治水の試み)でも紹介した特定都市河川浸水被害対策法の改正とともに、通称「流域治水関連法」と謳われた。

 しかし、このように水防法を改正し、調査を行い、ガイドラインや白書で理想を謳っても、それらは部署ごとにバラバラで、自治体における運用や国の予算の付け方には反映されていない。

 自治体の良識を疑って是正を求める住民の良識は、自治体や議会によってないがしろにされている。少なくとも、これが人吉市での、ひいてはこの国の流域治水の現時点における到達点ではないか。