わが国では八ッ場ダムに代表されるように、計画から完成までに半世紀以上がかかるダム事業が少なくありません。
こうした公共事業の見直しを行うために、5年ごとに再評価を行うことになっていますが、再評価を行う委員会のメンバーはダム事業者によって選ばれるため、ダム事業が抱える様々な問題が委員会の議論の俎上に載ることはありません。
ダム事業は「小さく産んで大きく育てる」といわれ、事業が進むにつれて事業費が膨れ上がり、工期が伸びていくのが通例です。事業費増額や工期延長を伴うダム計画の変更は再評価の際の重要な論点ですが、これも御用委員会が追認しますので、歯止めがありません。
長崎県公式サイトより、事業評価監視委員会の委員名簿
友広 郁洋 (委員長) 前松浦市市長
大嶺 聖(副委員長) 長崎大学大学院工学研究科教授
梅本 國和 弁護士
狩野 靖 (株)長崎経済研究所常務取締役
中村 沙織 長崎国際大学薬学部講師
村上 智惠子 公募委員
五島 聖子 長崎大学大学院水産・環境科学総合研究科教授
———-
長崎県の石木ダム事業を国が採択したのは1975年です。当初の完成予定は1979年度でしたが、これまでに9回工期が延長され、さらに今月、長崎県はダムの完成予定を2032年度へと延長し、事業費をこれまでの1.5倍の420億円に増額する計画変更案を事業評価監視委員会に諮問しました。しかし石木ダムの事業用地では、今も13世帯の住民がダム建設に反対しており、2032年度でさえ実現性は不透明です。長崎県の事業評価監視委員会は通例通り、この計画変更案を了承し、事業継続を妥当としました。
長崎県ではこうした公共事業再評価のあり方に疑問を提起する動きが起きています。
石木ダムに反対する県内の市民らは、県の御用委員会に対抗する委員会を立ち上げました。第一回の委員会は7月15日に開催され、第二回の開催は8月3日でした。こちらの委員会のメンバーは以下の通りです。
関連記事をお伝えします。
◆2024年8月4日 長崎新聞
ー県評価監視委の審議検証 市民団体 石木ダム事業継続でー
県と佐世保市が東彼川棚町に計画している石木ダム事業について、市民団体「市民による石木ダム再評価監視委員会」は3日、事業継続を妥当とした県公共事業再強化監視委員会の審議内容を検証した。事業を中止すべきだとして、意見書の作成や県に説明を求めることなどを決めた。
県評価監視委は2日、石木ダム事業の再評価を実施。総事業費を現行の約1.5倍となる420億円、完成時期を7年遅れの2032年度とする県の方針を承認した。
長崎市桜町の県勤労福祉会館で開いた会合には約四十人が出席。市民委は先月、再評価の際に事業の問題点に関する十分な説明や専門家へのヒアリング実施を県などに求めていたが、委員長の西島和弁護士は県評価監視委の審議について「要請したことに関する議論はほぼなかった」と報告した。
出席者からは県が示した費用対効果や工期延長、総事業費増額に関する説明に疑問の声が上がった。建設に反対する地元住民の岩本宏之さん(79)は「予想通りの結果だった。7年延長すれば病気になったり亡くなったりする住民も出てくるため、県はそれを待っているのではと思った」と話した。(荒木竜樹)
◆2024年8月3日 長崎新聞
ー不透明な先行き 変わらずー
解説
県と佐世保市が進める石木ダム建設事業について、県公共事業監視委員会は総事業費を135億円積み増し、完成時期を7年延長しても効果は見込めるとした県の計画を承認した。ただ、現状で建設に反対する地元13世帯の理解を得られる見通しはなく、時期を先延ばししても完成するかが不透明な状況は変わらない。
総事業費の増加について県は、建設資材の高騰などを理由に挙げた。これに対し、もし事業の便益が現行と変わらなければ、費用対効果は大幅に低下するはずだ。県は便益の方も資材高騰の影響を受けるなどしており、国の指示に従った方法で算出した結果だと説明するが、県民には理解しにくい話だ。
その上、費用対効果は現行より大幅に低下する。同事業を巡っては当初から地元住民の反対運動が続いており、県が全ての事業用地を取得した現在も建設予定地で13世帯が暮らしている。そうした中で、事業費を大幅に増額してまで建設が必要なのか。事業を進めるのであれば、県は反対住民に対してだけではなく県民に対しても、より丁寧な説明を行い理解を求める必要がある。(荒木竜樹)