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鬼怒川水害めぐる国家賠償訴訟の控訴審、東京高裁で公判開始

 2015年、利根川支流の鬼怒川を襲った洪水は、15人が亡くなる(災害関連死含む)など流域に大きな被害をもたらしました。この水害をめぐる控訴審が9月9日に東京高裁で始まりました。
 2022年に水戸地裁で判決が出た一審では、原告住民の主張が一部認めらました。わが国の水害訴訟では国の全面勝訴が長年続いてきました。河川管理者である国の権限は限りなく大きく認められており、治水に関する予算の使い方について流域の一般住民の声はほとんど反映されることがありません。鬼怒川は国が多額の予算を投じて巨大ダムを四基も建設してきた河川でしたが、ダム下流で降った豪雨に対してダムは役に立たず、国の治水対策の弱点が露呈しました。
 水戸地裁の判決では、被災地にもともとあった自然堤防(砂丘)を民間業者がソーラーパネルを設置するために撤去してしまい、住民が水害の危険性を訴えていたにもかかわらず国がこれを無視したことが問題とされました。一部であっても河川管理者としての国の瑕疵を認めた判決は画期的と言われました。国はこの判決を不服として控訴し、原告側も国の瑕疵が認められなかった点について控訴したため、東京高裁で控訴審が始まりました。
 鬼怒川水害訴訟は建設省OBの石崎勝義さんと東京都OBの嶋津暉之さんという専門家お二人が力を尽くして闘ってこられた裁判でもあります。お二人の訃報という悲しいニュースが続きましたが、控訴審で改めてお二人が訴えた治水の在り方が問われることになります。
 関連記事をまとめました。

◆2024年9月9日 NEWSつくば
https://newstsukuba.jp/53294/09/09/
ー堤防改修の優先順位めぐる安全評価争点に 鬼怒川 水害訴訟ー

東京高裁で第1回口頭弁論
 2015年9月の鬼怒川水害で、常総市の住民が甚大な被害に遭ったのは国交省の河川管理に落ち度があったためだなどとして、同市の住民20人と法人1社が国を相手取って約2億2000万円の損害賠償を求めた国家賠償訴訟の控訴審 第1回口頭弁論が9日、東京高裁で開かれた(9月7日付)。越水し決壊した同市上三坂地区の堤防をめぐって住民側は、堤防の改修工事が後回しにされていたのは国が誤った安全評価に基づいたためで優先順位に問題があったなどと主張した。

 一審で水戸地裁は、国の河川管理の落ち度を一部認め、国に対し、原告住民32人のうち9人に約3900万円の損害賠償を支払うよう命じる判決を出した。原告住民と被告の国の双方が控訴していた。
 控訴審で住民側は、一審で主張が退けられた同市上三坂地区の越水・決壊した堤防について「鬼怒川下流域で一番堤防の高さが低く、最も危険な場所だった」とし、国が堤防の安全性判断基準としている「スライドダウン評価」に誤りがあったなどとした。

 これに対し国は「安全度などのバランスを見て(河川の整備は下流からとする)『下流原則』に基づき改修を行った」として、水害発生当時、被害のあった上三坂地区より下流域にあたる同市中妻地区や羽生町の改修工事を進めており、被害は、上三坂地区に改修が及ぶ前に「経験したことのない記録的な降水量」の豪雨にあったことで起きたもので、「国に法的責任はない」と主張した。

 原告団共同代表の片岡一美さん(71)は「スライドダウン評価は(机上の)空論の世界での条件で、危険だ。国が、現実に危険なところにきちんと対処すれば、今後も防げる水害があるはず。(一審は)間違っている条件で判決を出した」と批判した。さらに「上三坂地区の下流にあたる地域から堤防を改修していた」とする国の主張に対しては、国が例に挙げた中妻地区や羽生町などよりさらに下流にある小貫地区で、2015年と19年に鬼怒川の氾濫による被害を受けている場所があるとして「下流原則」は実際には行われていないとした。

 第2回口頭弁論は11月11日午後1時30分から東京高裁で開かれる。(柴田大輔)

◆2024年9月8日 茨城新聞
https://news.yahoo.co.jp/articles/8b5a91d553b4a28581a14f9c508faa3010965fc1?source=sns&dv=sp&mid=other&date=20240909&ctg=loc&bt=tw_up
ー茨城・常総水害訴訟 河川管理 責任問う 控訴審、9日に第1回弁論ー

 2015年9月の関東・東北豪雨で鬼怒川の堤防決壊などによる浸水被害が起きたのは河川管理の不備が原因として、茨城県常総市の住民らが国に損害賠償を求めた訴訟の控訴審第1回口頭弁論が9日、東京高裁(中村也寸志裁判長)で開かれる。控訴審では、堤防が未整備だった若宮戸地区に限り国の責任を認めた一審水戸地裁判決の妥当性などが争点になる。

 常総市では当時、鬼怒川沿いの上三坂地区で堤防が決壊。上流の若宮戸地区など市面積の約3分の1が浸水、5千棟以上が全半壊した。

 控訴審では、訴えが認められなかった上三坂地区の住民に加え、勝訴した若宮戸地区9人のうち3人も賠償額などを不服として控訴。原告は一審の32人(うち法人1社)から20人(同)に減った。計約2億2000万円の賠償を求める。

 22年7月の一審判決は、堤防未整備の若宮戸地区にあった砂丘が「自然堤防」の役割を果たしていたと認定。しかし、国が河川区域に指定しなかったため太陽光発電事業者が砂丘を掘削して「危険性を生じさせた」と国の責任を認め、同地区住民9人に計約3900万円の賠償を命じた。

 国側は控訴理由書で「砂丘を河川区域に指定しなかったことについて管理の瑕疵(かし)は認められない」と反論。仮に河川区域に指定し、砂丘掘削が許可されなかったとしても「溢水(いっすい)の発生は回避できなかった」と反論している。

 一方、堤防が決壊した上三坂地区について、一審判決は、治水安全度の設定や改修計画について「格別不合理ではない」として訴えを退けた。

 住民側は、決壊した堤防は高さが不十分として、整備を後回しにした国の落ち度を主張。一審判決が合理性を認めた治水安全度の評価方法についても、「越水に対する安全評価ができない。判決は誤った判断」と訴える。

 国側は上三坂地区について、改修計画が同規模河川の管理や社会通念に照らし「格別不合理なものと認められない」としている。

 水害を巡り住民が国と争った訴訟では、「他の河川と比べ対策が遅れていなければ、行政側に落ち度はない」など行政の管理責任を限定した「大東水害訴訟」の最高裁判決(1984年)が司法判断の根幹となってきた。

 住民側の片倉一美共同代表は「最高裁まで勝ち抜き『これからの判例は鬼怒川だ』となるまで持っていきたい」と力を込める。

 国側は「被害に遭われた方にはお見舞いを申し上げる。過去の判例から是正が必要と考えている」としている。

◆2024年9月6日 東京新聞茨城版
https://www.tokyo-np.co.jp/article/352490
ー常総水害訴訟 9日、控訴審第1回口頭弁論 国の治水方針に問題提起へー

 2015年9月の関東・東北豪雨の際、鬼怒川の氾濫などで被害を受けた茨城県の常総市民らが国に損害賠償を求めた訴訟の控訴審第1回口頭弁論が9日、東京高裁(中村也寸志裁判長)で開かれる。22年の水戸地裁判決は「河川区域指定を怠った」と国の責任を認め、一部原告への賠償を命じた。控訴審では、浸水地域の堤防整備を後回しにした国の計画の妥当性などが争点になる。 (青木孝行)
 地裁判決時の原告は32人で、うち9人に計約3900万円の賠償が命じられた。双方が控訴し、住民側は控訴審で20人が計約2億2200万円の賠償を求めている。
 関東・東北豪雨では、鬼怒川流域の常総市上三坂地区で堤防が決壊。上流側の若宮戸地区などを含め7カ所で住宅などが浸水した。堤防が未整備だった若宮戸地区には、鬼怒川と宅地の間に砂丘があったが、太陽光発電事業者によって掘削されていた。原告側は、国の河川管理の不備が浸水被害の原因と訴えた。

 地裁判決は砂丘について「上流と下流の堤防に接し、堤防の役割を果たしていた」「開発に管理者の許可が必要な河川区域に指定する義務があったのに国が怠り、掘削で危険な状態になった」と指摘。一方、上三坂地区の堤防整備を後回しにしたとの原告側の主張は、国の改修計画に盛り込まれていた点などから「国は流域状況を考慮し、できる場所から進めていた」と退けた。
 控訴審を前に、住民側の片倉一美共同代表(71)は取材に「若宮戸地区の堤防は他地区より低く、水害の危険性が高かった。優先順位が間違っている」と地裁判決に異を唱える。さらに「ダム優先の河川行政をやめ、越水に耐えられる堤防整備を基本にすべきだ」と、国の治水方針に問題提起したいという。
 地球温暖化の影響からか、近年は各地でゲリラ豪雨などが頻発する。片倉さんは「堤防の越水までは覚悟しなければいけない時代。越水しても決壊せずに耐えられる堤防となるよう、基準を変えてもらいたい。そうしないと川の近くでは暮らせない」と語る。
 控訴審の第1回弁論は9日午前10時半~正午、東京高裁で行われる。国は「太陽光発電事業者による掘削の前後で、砂丘の形状自体に変化は確認できなかった」との調査結果を基に、「砂丘を河川区域に指定しなかったことが河川管理の瑕疵(かし)には当たらない」と、地裁判決の取り消しを求めている。

<常総水害訴訟の控訴審の争点>
・常総市若宮戸地区の砂丘を河川区域に指定すべきだったか
・同地区の堤防整備を後回しにした国の河川改修計画は妥当か
・同市上三坂地区の堤防整備を後回しにしたのは妥当か