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鬼怒川水害訴訟の控訴審判決

 河川行政においては、ダムやスーパー堤防など利権につながる巨大公共事業が推進される一方で、より実効性があり、費用も時間もかからない河川改修が後回しにされる状況が続いています。その原因の一つに、行政の裁量を最大限に認めてきた司法の姿勢があるといわれてきました。

 10年前の2015年、利根川水系の鬼怒川で発生した水害をめぐる鬼怒川水害訴訟では、2022年の水戸地裁判決で裁判所が国の瑕疵を一部認め、画期的な判決と注目されました。今回の東京高裁による控訴審判決でも、河川管理を怠った国の瑕疵が一部認められ、原告住民は「勝訴」の看板を掲げました。しかし、前回認められなかった上三坂地区の水害における国の責任は今回も問われず、判決文の中には国交省の意見が丸写しされた部分もありました。

 昨年は、鬼怒川水害訴訟を「支援する会」事務局として支えてきた染谷修司さん、水問題研究家の嶋津暉之さん、建設省OBの石崎勝義さんが相次いで亡くなりました。限られた命と無機質な行政組織との闘いが続きます。判決後に衆議院議員会館で開かれた原告による報告集会には、多くの報道関係者や支援者も駆けつけました。(写真右)

◆2025年2月26日 NHK首都圏WEB
https://www3.nhk.or.jp/shutoken-news/20250226/1000114602.html
ー茨城 常総「関東・東北豪雨」鬼怒川水害訴訟 2審も国に賠償ー

 10年前の「関東・東北豪雨」で鬼怒川が氾濫し、大規模な浸水被害にあった茨城県常総市の住民などが、国の河川管理が不適切だったと訴えた裁判で、2審の東京高等裁判所は1審に続いて国の責任を認め、賠償を命じました。

 2015年の「関東・東北豪雨」では常総市で鬼怒川の堤防が決壊し、災害関連死を含めて茨城県内で16人が死亡したほか、住宅およそ1万棟が水につかり、被害にあった住民や遺族など31人は、「国の河川管理が不適切だった」として、国に3億5800万円あまりの賠償を求めました。
 1審の水戸地方裁判所は原告のうち9人にあわせて3900万円あまりを賠償するよう国に命じ、双方が控訴していました。
 2審の東京高等裁判所の中村也寸志裁判長は判決で、越水の被害が出た若宮戸地区について、「実態として堤防の役割を果たしていた砂丘が掘削され、安全性が備わらない状態となった。国は砂丘を維持し、保全する必要があったが、しなかった」と指摘し、1審に続いて国の責任を認めました。
 一方で、慰謝料などを見直し、原告9人に1審よりも少ないあわせて2800万円あまりを賠償するよう国に命じました。
 また、堤防が決壊した上三坂地区については、「優先して堤防を整備しなかったことが不合理とはいえない」とし、1審に続いて訴えを退けました。

 判決が言い渡されたあと、東京高等裁判所の前で原告団は「勝訴」と書かれた紙を掲げました。
 取材陣に対し、原告団の共同代表の片倉一美さんは「1審と同じく一部勝訴したものの、国の賠償額が減額されてしまいました。1審よりも厳しい判決です」と話しました。

【原告団の共同代表“『勝訴』の旗出したが私の気持ちとしては敗訴だ” 上告する考え示す】
 判決後、原告団と弁護士が都内で会見を開き、原告団の共同代表の片倉一美さんは、「『勝訴』の旗を出したが、私の気持ちとしては敗訴だ。上三坂地区の賠償が認められず、なぜこうしたことを司法が認めるのか」と述べ、上告する考えを示しました。
 また、只野靖弁護士は、「昨今相次ぐ水害の被害の中で国の責任を認める判決は画期的で、一石を投じるものになった。国は上告せずに責任を認め、今後は、同様の多くの被害者に賠償する枠組みをつくってほしい」と話していました。

【国のコメント“国の主張が一部認められなかったと認識”】
 国土交通省関東地方整備局の岩崎福久局長は「国の主張が一部認められなかったと認識している。判決内容を慎重に精査し、関係機関と協議の上、適切に対処していく」というコメントを出しました。

◆2025年2月26日 毎日新聞
https://news.yahoo.co.jp/articles/c1fb9679d93211074ff5ae8f18000209be920f47
ー「1審より結果悪い」 原告団、悔しさにじませ 鬼怒川氾濫訴訟ー

 2審も国の責任が一部認められたが、原告の住民らに笑顔はなかった。2015年9月の関東・東北豪雨で、鬼怒川の氾濫などによる浸水被害が生じたのは国の河川管理に不備があったとして、常総市の住民ら20人が国に約2億2200万円の損害賠償を求めた訴訟。26日の東京高裁の判決では、22年の1審・水戸地裁判決と同様に若宮戸地区については国の責任が認められたが、賠償額は約1000万円減額。上三坂地区については1審同様、認められなかった。

 東京都千代田区の高裁前で原告団共同代表の片倉一美さん(71)はけげんな面持ちで「勝訴」と書かれた旗を広げた。原告団らは判決後に記者会見を開き、片倉さんは「気持ちとしては敗訴。1審より結果が悪かった」と悔しさをにじませた。

 2審判決でも若宮戸地区で堤防の役割を果たしていた砂丘を、国が開発を制限できる「河川区域」に指定せず、国の管理に不備があったと認められた。原告側代理人の只野靖弁護士は「水害訴訟で住民が勝てない冬の時代が続いていた。一部でも国の責任が認められたのは画期的。国が何をやっても断罪されることはないというのが終わるということだ」と意義を語った。

 一方で認められた9人は、家財などの損害額の算定を見直し、賠償額は1審判決より減額され約2850万円だった。賠償が認められた高橋敏明さん(71)は「経済的、精神的、肉体的に大変な思いをしているのにその気持ちを分かってもらえなかった。勝ったとは言えない気持ちだ」と怒りをあらわにした。

 上三坂地区の河川整備計画の策定に使われた評価方法について2審判決では「十分な合理性がある」と指摘。危険性が高いのに整備が後回しにされたという住民らの主張は認められなかった。片倉さんは「誰がどう考えても非常識。低い場所を手当てしなければ日本全国至る所で水害が発生するのでは」と述べた。片倉さんらは上告する考えを示した。

 判決を受け、国土交通省関東地方整備局の岩崎福久局長は「国の主張が一部認められなかったと認識している。判決内容を精査し、適切に対処する」とのコメントを出した。【信田真由美、斉藤瞳】

◆2025年2月27日 茨城新聞
https://ibarakinews.jp/news/newsdetail.php?f_jun=17405767249780
ー茨城・常総水害訴訟 「喜べぬ」笑顔なき勝訴 原告は上告意向ー

 常総水害訴訟の控訴審判決で東京高裁は26日、一審水戸地裁判決と同じく国の責任を認めた。ただ、茨城県常総市若宮戸地区の溢水(いっすい)により被災した住民9人への賠償額は約1千万円減額となった上、同市上三坂地区の堤防決壊で被災した住民の請求は一審同様退けられた。「喜びはない」「勝つまでやる」。20人の原告住民のうち、傍聴に訪れた10人は上告の意向を示した。

 同日午後2時10分ごろ。裁判所から出てきた原告共同代表の片倉一美さん(71)は「勝訴」と書かれた旗を広げた。カメラを構えた報道陣がポーズを求めると、「勝ったけどポーズは…。私たちにとっては悪い勝ち方だから」と困惑した表情を浮かべた。原告住民に笑顔は少なかった。

 片倉さんは上三坂の堤防決壊で被災。堤防は高さが不十分だったのに、国が改修を急がなかったためだと訴えていた。高裁でも請求が棄却され、「高裁は国側の準備書面を書き写しただけだ」と批判した。

 同じく堤防決壊により縫製業の工場が床上浸水した細川光一さん(74)は「同じ鬼怒川の水害なのだから、こっちの被害も認めてほしい」と憤った。

 若宮戸の溢水で被災した住民9人への賠償額も減額された。このうちの一人、自宅が床下浸水した女性(87)は「減額されるのはいいが、判決の冒頭で『国の瑕疵(かし)』をもっと強調してほしかった」と残念がった。

 「勝つまでやる」。判決後の集会で、弁護団の聞き取りに対し、原告住民10人は上告の意向を示した。

 一方、弁護団からは判決に一定の評価をする声も聞かれた。水害を巡り住民が国と争った訴訟では「他の河川と比べ対策が遅れていなければ、行政側に落ち度はない」などと行政の管理責任を限定した「大東水害訴訟」の最高裁判決(1984年)が司法判断の根幹となってきた。

 弁護団の只野靖弁護士は「これまで国は何をやっても責任を問われずに自由だった」と批判し、今回の判決により「河川管理の枠組みが広がった」と評価。国には「上告せず早急に賠償を」と訴えた。

 片倉さんは「大東の判例の部分で勝てないと私たちの勝訴はなく、全国で水害により悲しむ人が増えていく」と強調した。

◆2025年2月27日 朝日新聞社説
https://digital.asahi.com/articles/DA3S16158499.html
ー(社説)鬼怒川判決 国の瑕疵を再び認めたー

 河川管理の瑕疵(かし)(欠陥)を高裁が認めた事実は重い。国は治水のあり方を見直すきっかけにしなければならない。

 2015年の関東・東北豪雨で鬼怒川があふれ浸水被害が起きたのは管理の不備が原因として、茨城県常総市の住民らが国に損害賠償を求めた訴訟の控訴審で、東京高裁は住民側の一部勝訴とする判決を一審に続き言い渡した。

 訴訟では上流と下流の2地点について、堤防管理のあり方などが争点となった。

 判決は越水が生じた上流の若宮戸地区で、もともとあった砂丘には氾濫(はんらん)を防ぐ役割があり、それを「維持する必要があった」のに、開発に許可が必要な河川区域に国がずっと指定せず、結果的に太陽光発電の事業者が掘削したことで「安全性のない状態となった」と指摘、「河川管理における瑕疵がある」と認めた。

 一方で破堤した下流の上三坂については国の改修計画に「格別不合理な点はない」として、住民の訴えを退けた。

 過去の水害訴訟では「未改修や改修不十分な河川では過渡的安全性で足りる」と行政の瑕疵の範囲を狭く限定した大東水害訴訟の最高裁判決(1984年)が司法判断の根幹となってきた。

 今回の判決は上三坂ではこの論法を下敷きとした国の主張を認めつつ、若宮戸では、未改修であっても管理者は川の安全の維持を担う以上、砂丘の掘削を招いた不作為の責任を重くみたものだ。

 河川の改修には予算も時間もかかり、危険な所から順に工事していくしかない。だが、現状の安全性が損なわれないように監視し、管理する責任があるのは当然だ。

 水害は川の形状や流域の開発状況で被害程度が異なる。大東判決後、司法は個別の原因を深く考慮せず行政の責任は問えないとしてきた面はなかったか。高裁判決は、過渡的安全でよしとする理屈で免れてきた管理者の責任のあり方に一石を投じたといえる。

 常総市は低平地が広がり、発災時は市の約3分の1が浸水、避難指示も一部で後手に回った。屋根や濁流のなか電柱にしがみつく人らがヘリコプターで救助された。

 被災者らが人災の疑いを深めたのは災害翌年の国との対話後だ。なぜ被害が拡大したのかという疑問に正面から答えない国に不信を抱いた住民らが、改修計画の問題点を自ら掘り起こした。

 気候変動を背景に、近年、経験のない大雨が頻発する。効果的な対策が本当にとられてきたのか。命を守る河川行政のあり方とは何か、いま一度、見直す必要がある。

◆2025年2月27日 東洋経済
https://toyokeizai.net/articles/-/861358
ー鬼怒川水害「二審勝訴」でも原告に笑顔ない事情 堤防整備のあり方を問題視したが、認められずー