大同特殊鋼渋川工場から排出される鉄鋼スラグは、六価クロムやフッ素などの有害物質を含むだけでなく、膨張する性質があります。本来は、産業廃棄物として処分しなければならないこの鉄鋼スラグが八ッ場ダムを含む群馬県内各地の工事現場で大量に利用されていたことが問題とされてきました。
報道によれば、1980年代に榛名山麓の宅地造成に使われた鉄鋼スラグについて、ようやく裁判所が撤去を命じたとのことですが、被害者が求めた損害賠償については、すでに買収請求権が消滅しているとして棄却されました。
スラグによる影響が目に見える形になるには、時間がかかります。
毎日新聞は八ッ場ダムの本体工事が落札された2014年8月、大同特殊鋼渋川工場の有害スラグが八ッ場ダムの事業用地に大量に投棄されていることを一面トップで報道しました。これを受けて国交省関東地方整備局がダム事業用地で調査したところ、水没地や水没住民の移転代替地に大量に投棄されていたことが判明しました。
投棄された大量の有害スラグは、地表に転がって雨ざらしの状態でした。その後、判明した大量のスラグは事業用地から撤去したことになっていますが、住民の移転代替地の造成で行われた数十メートルの深さの谷埋め盛り土などに使用されていれば、すぐにはわかりません。
〈参考ページ〉「鉄鋼スラグ問題と八ッ場ダム」
◆2025年4月16日 毎日新聞
ー大同にスラグ撤去命令 宅地盛り土 賠償請求は棄却 地裁ー
宅地の盛り土に使われた鉄鋼スラグが雨水などで膨張して家が傾く被害が出たなどとして、榛東村の建設会社社長の男性(65)らが大手鉄鋼メーカー「大同特殊鋼」(名古屋市)にスラグの撤去と約2億3000万円の損害賠償を求めた訴訟の判決が16日に前橋地裁であり、小川雅敏裁判長は大同側にスラグの撤去を命じた。損害賠償請求は棄却した。【加藤栄】
判決によると、男性の父親が1981~85年に作業所や住宅を建てた際、大同特殊鋼の渋川工場から出たスラグを含む廃棄物(推定質量約3665トン)が盛り土として約900平方メートルに渡って使用されたが、90年ごろから雨水などの影響で膨張し、床や廊下が傾くなどの被害が発生した。
大同側は、自社が排出したスラグと断定できず撤去義務を負わないとして全面的に争っていた。小川裁判長はスラグの鑑定結果を踏まえ、同工場での排出が推認できると認定。また環境基準値を超える有害物質のフッ素や六価クロムが検出され、「産業廃棄物に該当する」として撤去義務があると指摘した。一方、損害賠償は請求権が消滅する除斥期間(20年)が経過しているとして認めなかった。
原告の男性は記者会見し、「スラグは膨張を続け、被害は続いている。賠償がなければ家を建て替えることもできない」と憤った。代理人の高坂隆信弁護士は「スラグを産業廃棄物と認定し撤去を命じたのは画期的。ただ、撤去には建物を壊さねばならず、損害賠償がないのは現実的でない」として、控訴する方針を示した。
大同側は「判決内容を精査し、今後の対応を検討する」とコメントした。
◆2025年4月17日 上毛新聞社会面
ー大同特殊鋼にスラグ撤去を命じる 前橋地裁判決ー
大同特殊鋼渋川工場(群馬県渋川市)から排出された鉄鋼スラグが自宅や家業の建設業の作業所がある敷地に埋められ被害を受けたとして、榛東村の男性(65)らが同社にスラグの撤去と約2億3100万円の損害賠償を求めた訴訟の判決言い渡しが16日、前橋地裁であった。小川雅敏裁判長は排出元を同工場と認め、スラグを含む廃棄物の撤去を命じた。
判決文によると、スラグは男性の父親が宅地造成に際し、同社従業員の勧めで埋め土として提供され、1980~81年のいずれかの時期に搬入された。鑑定結果や工場との距離などから小川裁判長は「渋川工場から排出されたスラグと合理的に推認できる」と指摘した。
一方、スラグの膨張で自宅や作業所にひび割れや傾きなどが生じ、有害物質による土壌汚染もあったとして求めた損害賠償については、不法行為から20年の経過で賠償請求権が消滅する「除斥期間」が経過しているなどとして棄却した。
同社は「判決内容を精査した上で、今後の対応を検討する」とした。