ダム予定地住民13世帯の抵抗が続く長崎県の石木ダム事業では、ダム事業者の長崎県が4月20日に11年ぶりとなる地元、川棚町民への説明会を開いたとのことです。長崎県は本体工事に向けて事業を加速させたい意向ですが、「佐世保市の利水」と「川棚川の洪水調節」というダムの目的には根拠がなく、長崎県は住民を納得させることができないままです。
この説明会は長崎県の主催ですが、ダムに反対する住民とともに問題に取り組む専門家らによる「市民委員会」が長崎県に要請する形で開かれました。説明会は市民委員会が昨年8月に長崎県に提出した具体的な質問に県河川課が答える形で進められ、約180人の聴衆が集まったとのことです。
長崎県、朝日新聞の記事では、市民委員会のメンバである国交省OBの宮本博司さんの意見が比較的詳しく取り上げられています。かつて国交省本省で治水対策と住民参加の政策立案に携わった宮本博司さんは、治水対策としての石木ダム事業は合理的な説明が不可能であり、地元住民の意思を排除しようとする長崎県の姿勢には根本的な問題があることを指摘しています。
◆2025年4月22日 長崎新聞
https://www.nagasaki-np.co.jp/kijis/?kijiid=469705c6444640f49790733a1f08f5c9
ー石木ダム11年ぶりに地元説明会 長崎・川棚、県は治水の正当性強調ー
長崎県と佐世保市が東彼川棚町で進めている石木ダム建設事業で、県は20日、地元説明会を同町で開いた。反対派の市民団体は治水効果や地盤の適格性に疑問を示して計画の見直しを求めたが、県は事業の正当性を改めて強調した。県による地元説明会は約11年ぶり。
事業に反対する市民団体「市民による石木ダム再評価監視委員会(市民委)」の要請を受けて開催した。市民委が、技術的な疑問点をまとめた「15の評価ポイント」のうち利水関係を除いて県が説明。市民委メンバーで元国交省河川局防災課長の宮本博司氏が質問を重ねた。
宮本氏は、気候変動による水害の激甚・頻発化を受け、国交省の治水の考え方が河川とダム中心から、流域全体の多様な対策を組み合わせた「流域治水」に転換していると説明。「治水計画の根本を見直す時期だ」とただした。県は、県管理の2級河川では、直ちに見直しが必要な事例はないと反論した。
このほか宮本氏は、ダムの貯水池の周辺地盤が水を通しやすく、地下水位が低いために漏水が起きる可能性があると指摘。県の担当者は「現地で歩き回って調査し、ダムサイトとして適切と判断している」と述べた。
県は「ダムの必要性については司法判断が確定し、議論する段階にない」という立場だが「(水没予定地の)13世帯に説明を尽くす必要がある」として説明会を開いた。
説明会後の取材に、市民委の西島和委員長は「県が公開で対話の機会を設けたことについては前向きに受け止めている。今後も説明の姿勢を継続してほしい」、県の中尾吉宏土木部長は「住民の理解を目指す考えに変わりはない。今後の説明は、どのような形かも含めて検討したい」とそれぞれ述べた。
水没予定地に暮らす反対住民を含む約100人が傍聴。反対住民の岩下すみ子さん(76)は「こちら側の質問を突きつけることができたのは何年ぶりだろう。県はまともに回答できなかった」と話した。一方、ダム建設に理解を示す川棚町の70代の男性は「市民委の質問は県をあげつらうばかりだった」と批判した。
◆2025年4月21日 NHK長崎NEWS WEB
https://www3.nhk.or.jp/lnews/nagasaki/20250421/5030023835.html
ー石木ダムの建設巡り 長崎県が11年ぶり地元説明会 川棚町ー
長崎県と佐世保市が川棚町で進めている「石木ダム」を巡って、県は20日、建設に反対する地元住民や団体のメンバーを対象にした説明会を開きました。
県による地元住民への説明会が開かれたのはおよそ11年ぶりです。
石木ダムは、長崎県と佐世保市が流域の洪水調整や水道用水の確保などを目的に建設を進めているダムですが、完成時期が何度も延期され、昭和50年の事業採択から半世紀近くがたっても完成していません。
こうしたなか、長崎県は20日、川棚町でダムの建設に反対する地元の住民や団体のメンバーなどを対象に説明会を開きました。
県による地元住民への説明会が開かれたのは、平成26年以来、およそ11年ぶりです。
説明会は、事前に団体側から出されていた質問に県が答える形で進められ、県の担当者は「ダムがあることで下流の水位上昇を遅らせ、住民の避難に要する時間を確保することができる」などと効果を説明していました。
ただ、今回の説明会でも、双方の歩み寄りは見られず、建設に反対する地元住民の1人岩本宏之さん(80)は、説明会の終了後、「いまのやり方はおかしい、強制的に公共事業をやるべきではない」などと改めて反対していく考えを示していました。
また、説明会に出席した長崎県土木部の中尾吉宏部長は「疑問点について説明ができてよかった。補足が必要だと思うので、このあと対応させてもらいたい」と述べ、今後も住民らに対し、説明の機会を設けていく考えを示しました。
◆2025年4月22日 朝日新聞
https://digital.asahi.com/articles/AST4P4RXHT4PTOLB00DM.html
ー長崎県、石木ダム事業で11年ぶり説明会 反対派住民ら参加
(一部引用)
20日の説明会は、反対派住民とともに問題に取り組む「市民による石木ダム再評価監視委員会」(市民委員会)が進行役を務め、一般傍聴人も含め計約180人が集まった。かつて国土交通省でダム建設など治水に長く携わり、現在は市民委員会副委員長の宮本博司さんが、県が示す防災効果や費用対効果のもととなったデータへの疑義を訴えた。
建設地の地盤の適格性について宮本さんは、ダム周辺の地下水位が県の想定よりも広い範囲で常時満水時よりも低い可能性があると指摘。「(さらなる調査で)確認しないと、水漏れが生じたら膨大な対策費用が必要になる」などと主張した。
(中略)
終了後の取材に、宮本さんは「50年前の計画に固執しているため、取り扱うデータもその解釈も非合理なものを無理やりくっつけた形になっている」と話した。
◆2025年4月23日 毎日新聞長崎版
https://mainichi.jp/articles/20250423/ddl/k42/040/274000c
ー石木ダム、県が説明会 反対住民ら「根拠なき事業」 地元で11年ぶり /長崎ー
県は20日、佐世保市と進める石木ダム事業について、建設地の川棚町で町民向けの説明会を開いた。県による地元住民への説明会は11年ぶりで約150人が参加。県は治水面などについて説明し、反対住民からは「根拠なき事業は撤回すべきだ」などの声が上がった。
有識者らでつくる市民団体「市民による石木ダム再評価監視委員会」が県側に質問する形で説明会は進行し、町民が傍聴した。県が治水面について「気候変動に伴う降雨や流量増加に備えるためにもダムは必要」などと説明したのに対し、委員会側は「想定以上の雨量だった場合、被害増大につながる可能性もある」などと指摘した。
◆2025年4月29日 長崎新聞
https://www.nagasaki-np.co.jp/kijis/?kijiid=90bbc972a57a46cabd9f7896f4663a09
ー石木ダム説明会は継続…長崎・大石知事、出席は「状況踏まえて総合的に判断」ー
長崎県と佐世保市が東彼川棚町で進める石木ダム建設事業を巡り、大石賢吾知事は24日の定例会見で、県が同町で開いた技術的な疑問に答える説明会を今後も継続する意向を示した。自身の出席については「総合的に判断する」と述べるにとどめた。
説明会は、事業に反対する市民団体「市民による石木ダム再評価監視委員会(市民委)」の要請を受けて開き、水没予定地の反対住民も傍聴した。市民委が、ダムの技術的な疑問点をまとめた「15の評価ポイント」のうち利水関係を除いて県河川課の担当者が説明し、質疑応答にも応じた。
大石知事は「(水没予定地の)川原地区の住民の皆さまも出席する中で、説明の機会をいただけたことはよかった。時間内で全ての質問に答えられず、新たな質問も出たと聞いているので、引き続き丁寧に対応したい」と述べた。
一方、2022年9月を最後に途絶えている自身と反対住民との直接対話については「現時点では技術的な疑問に対する回答なので、担当部局からの説明が適切。状況を踏まえて総合的に判断する」とした。