八ッ場あしたの会は八ッ場ダムが抱える問題を伝えるNGOです

中止された戸倉ダムと倉渕ダムの事業計画の復活

 国土交通省は戸倉ダムと倉渕ダムの事業計画を復活させる手続きを進めています。
 戸倉ダムの建設予定地は尾瀬の玄関口である群馬県片品村です。倉渕ダムの予定地は烏川の源流、高崎市倉渕町(旧倉渕村)です。戸倉ダムは(独)水資源機構のダム事業で、水資源機構の前進である旧・水資源開発公団が進めてきた事業であることからもわかるように、都市用水の開発を主目的としていました。利水予定者は埼玉県、東京都。北千葉広域企業団と群馬県渋川市です。一方、倉渕ダムは群馬県の事業でした。

 いずれも水需要の低迷など時代状況の変化を理由に、事業途中で中止と決定されました。2000年前後は、巨大ダム事業が自民党の利権の温床として世論の批判を浴び、財政負担を背景にダム事業が中止になる事例が相次ぎました。そうした中、八ッ場ダムは事業費が倍増され、わが国で最も高額なダム事業となりました。このことが国土交通省より関係都県に通知された時点で、群馬県の小寺弘之知事らの働きかけにより、八ッ場ダムの事業費増額の受け入れと引き換えに戸倉ダムと倉渕ダムの中止の道筋がつくられたといわれます。

 今回の報道に先立って、1月に発信されたのが以下の記事です。国土交通省関東地方整備局が中止された6つのダム計画について検討した結果、戸倉と倉渕の二つのダム計画に絞り込んだことを利根川流域の関係都県会議で報告したとの内容です。

◆2026年1月16日 建通新聞
ー関東地整 利根川で中止ダムの再開等検討ー

 国土交通省関東地方整備局は利根川の八斗島上流域で中止ダムの事業再開や新規の調節池整備などを検討している。将来の気候変動を見込んで利根川・江戸川河川整備計画を変更し、八斗島上流域の洪水調節流量を毎秒3000立方㍍から4900立方㍍に増やしたためで、2025年12月の関係都県会議で既存ストックの活用だけでは課題があることを確認。これを踏まえて1月15日の関係都県会議では整備が考えられる洪水調節施設の効果や実現可能性などを示した。今後さらなる調査や確認を行って、実現可能性の高い対策の組み合わせを整理していく。
 関係都県会議での説明によると、中止ダムの事業再開は八斗島上流域の群馬県内に予定地があった六つのダムを挙げて可能性を検討。具体的には▽川古ダム(群馬県みなかみ町)▽倉渕ダム(群馬県高崎市)▽増田川ダム(群馬県安中市)▽戸倉ダム(群馬県片品村)▽平川ダム(群馬県沼田市)▽栗原川ダム(群馬県沼田市)―で、流量低減効果やおおむねの工期、コスト、補償家屋の有無を比べた。
 その結果、治水効果は戸倉ダムと平川ダムが「大きい」、その他の4ダムが「比較的大きい」と評価。また、戸倉ダムと倉渕ダムは一定程度の事業進捗により工期が比較的短いとしている。とりわけ戸倉ダムに関しては、建設促進期成同盟会から1月13日に事業再開を求める要望書を受け取ったことを伝えた。
 また、新規ダムの検討についても、烏川流域と神流川流域の2カ所を想定して中止ダムと同様の項目で可能性を検討。いずれも効果量は非常に大きいものの、事業費や工期、補償家屋数の面から「実現性に問題がある」ため対象から外した。
 一方、調節池の新設では、整備を計画する烏川調節池(群馬県玉村町、上里町)の効果を確認。毎秒20~710立方㍍の容量を確保でき、コストは約600億円と試算した。
 それ以外にも八斗島上流域で面積0・5平方㌔以上の平坦地を10カ所選んで調節池整備の可能性を検討。このうち5カ所は河床勾配が急で上下流の高低差が問題になるといった地形特性から非効率と判断。残る5カ所も鉄道の横断や土地利用の進展を理由に「社会的影響に大きな課題がある」とした。
 会議に参加した都県からは、「昨今の災害の激甚化を踏まえ、早期に整備ができることも重要な観点だ」「経済性や環境への影響など、総合的な観点からの検討結果を示してほしい」などの声が上がった。

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 そして今月発信された続報がこちらです。戸倉ダムと倉渕ダムの他に、薗原ダムの改造事業などの大規模事業も盛り込まれた大型の予算が「洪水対策」を名目として動き始めました。
 近年、気候変動により洪水が頻発しています。ダムはダムより上流で想定規模の大雨が降った時には、これを貯水することで下流の水害を軽減することが期待できますが、ダム下流の平野で大雨が降った時には無力です。またダムの洪水調節効果は、ダムから遠ざかるほど減衰します。ダム神話ともいえるダムへの過信は、かえって流域住民の避難行動を遅らせ、緊急放流など水害拡大の危険性もあります。しかし、そうした問題は最近では水害の犠牲者以外には殆ど知られていないのが実状です。

◆2026年3月16日 建通新聞
ー関東地整 2ダムの予定地活用へ調査 利根川水系の治水対策、事業費約4400億~6600億円ー

 国土交通省関東地方整備局は利根川水系の治水対策で、過去に事業を中止した戸倉ダム(群馬県片品村)と倉渕ダム(群馬県高崎市)の予定地を活用してダムを建設するための調査を始める予定だ。利根川・江戸川河川整備計画(2025年3月策定)に掲げる洪水調節目標流量の達成に向け、中止ダム予定地を活用した複数のダム建設と既存ダムの嵩上げを実施していく。これらにかかる事業費を4400億~6600億円と想定。3月16日の関係都県会議に示して承認を得た。18日に開く検討委員会で正式決定する見込み。
 治水対策のうち中止ダムの予定地活用を巡っては、11~23年前に事業が中止となった六つのダムを対象に可能性を検討。その中で戸倉ダムと倉渕ダムの二つは中止のタイミングで事業が一定程度進捗しており、ダムを建設する場合の工期が比較的短いことを確認したため優先的に調査を始める。
 戸倉ダム(03年度中止)は中止時点の有効容量が約8700万立方㍍、整備計画目標流量の調節に必要な治水容量が約1100万立方㍍で、おおむねの工期を15年、コストを約2000億円と試算した。約2割の用地買収を終え、残りの用地は東京電力が所有している。1月13日に地元の自治体などで構成する「戸倉ダム建設促進期成同盟会」から事業再開を求める要望書が提出された。
 また、倉渕ダム(03年度休止、15年度中止)は有効容量が約1080万立方㍍、治水容量が約600万立方㍍で、おおむねの工期を10年、コストを約500億円と試算。用地買収と付け替え道路の整備が完了している。
 一方、既存ダムの嵩上げは薗原ダム(群馬県沼田市、1966年完成)と下久保ダム(群馬県藤岡市~埼玉県神川町、69年完成)の2カ所で可能性を探った。このうち下久保ダムは周辺の地滑りが多いことから、薗原ダムを有力候補とした。嵩上げに要する工期は約20年、コストは約1400億円を見込んだ。
 いずれも事業実施時の基礎データで検討したため、▽地形、地質データ(測量データの確認や第四紀断層調査など)▽計画地周辺の土地利用状況の変化▽最新の技術基準との整合性―などのさらなる調査・確認を実施して実現性を見極める。中止ダムの予定地を活用したダム建設は最終的に2カ所程度に絞り込む方針だ。
 事業化に当たっては河川整備計画を変更して個別ダム事業の建設を明記。新規事業採択時評価を経て、建設段階に移行させることになる。

◆2026年3月23日 建設工業新聞
ー関東整備局/利根川水系治水対策/戸倉、倉渕ダムで現況調査、藤原ダムは設計着手ー

 ◇“令和の大改修”始動
利根川水系で効果的な流域治水対策を行うため、関東地方整備局は、事業を中断しているダムの活用で調査に乗り出す。上流で降った大量の雨水を安全に流すには、「中止ダム」の活用検討も必要と判断。群馬県内で戸倉(片品村)と倉渕(高崎市)両ダムの現況調査を実施し、藤原ダム(みなかみ町)は増強に向けた設計を行う。10年以上事業が凍結状態にある中止ダムの建設が再び動き出そうとしている。
異常気象による豪雨災害から流域を守るため、関東整備局は2025年度に「利根川・江戸川河川整備計画」を見直した。同計画では、基準地点がある八斗島(群馬県伊勢崎市)の目標流量を1秒当たり2万1200トンに修正し、うち1万6300トンを河道拡幅などで対応する。残る4900トンは上流部にある既存ダムなどを「洪水調節機能」と位置付け増強する。
治水対策の検討を進めていた関東整備局は整備メニューを盛り込んだ対応方針案を公表。既存ダムの事前放流に加え、下久保ダム(群馬県藤岡市、埼玉県神川町)の利水容量と藤原ダムの治水容量を入れ替える。現行の河川整備計画に位置付ける「烏川調節池」の整備、薗原ダム(群馬県沼田市)のかさ上げもメニューに加えた。
関東整備局は洪水調節機能をより増強するため、現在6カ所ある中止ダムが活用可能かを探る。まずは事業が進捗する戸倉、倉渕両ダムを優先的に調査する。両ダムを活用した場合のコストと工期は、戸倉が約2000億円で約15年、倉渕は約500億円で約10年と見通す。各種対策を行った場合の事業期間は約30年、事業費は5400億~7600億円と試算した。
18日に開催した「利根川水系における治水計画検討委員会」の会合で、関東整備局は対応方針案を提示した。検討委も方針案を「妥当」と評価。会合に出席した橋本雅道関東整備局長は「“令和の大改修”と銘打ち、抜本的な対策を進める」方針を表明した。二つのダムの調査と、26年度に藤原ダムの設計に着手するとした。
戸倉ダムは水資源機構が建設を推進していたが、03年12月に事業中止が決まった。倉渕ダムは群馬県が事業を進めていたが、03年度に事業を休止し、15年度には中止している。

—転載終わり—

 戸倉ダムの建設予定地がある群馬県片品村では、数年前からダムの復活を陳情する動きがありました。
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【参考ページ】戸倉ダム(利根川水系片品川)建設再開求め、5市町村長ら期成同盟設立

 戸倉ダムによって都市用水の供給を受ける予定だった東京都、埼玉県、北千葉広域企業団等は、利根川荒川水源地域対策基金によってダム建設が予定されていた片品村の地域振興事業を負担することになっていました。当初、基金の総事業費は約45億5000万円でした。2003年の事業中止までに約14億円が投入され、中止後に20億円投じられました。負担額は関係都県が10億2400万円、国等が9億7600万円でした。

【参考ページ】
2005/03/30 埼玉建設新聞 「総事業費20億円/戸倉ダム中止に伴い村支援」
       
2004/09/25 群馬建設新聞 尾瀬博物館盛り込む/戸倉ダム中止で基金事業/第3者委が実施提言