八ッ場あしたの会は八ッ場ダムが抱える問題を伝えるNGOです

戸倉ダム(利根川水系片品川)建設再開求め、5市町村長ら期成同盟設立

 19年前に中止された戸倉ダムの事業再開を要請するために、昨日、ダム予定地域の5市町村(片品村、沼田市、川場村、昭和村、みなかみ町)の代表者、国会議員らが参集し、建設促進期成同盟会を立ち上げたとのことです。
 https://www.kensetsunews.com/archives/718160

 戸倉ダムは水資源開発公団(現在の水資源機構)が計画したダムですが、東京都、埼玉県、千葉県が水需要の低迷を理由に事業から撤退したため、2003年12月25日に国土交通省が中止を決定しました。
〈参考ページ〉国土交通省ホームページより「戸倉ダム建設事業について」
       「中止の戸倉ダム、地元振興事業終了へ」(読売新聞) 

 戸倉ダムは総貯水容量9200万㎥と八ッ場ダムに匹敵する規模でありながら、水没住民はおらず、JRの付け替えなど八ッ場ダムのような膨大な「生活再建関連事業」の必要がなかったため、建設事業費は1230億円でした。ダム建設が予定されていた片品村は尾瀬の玄関口であり、周辺は日光国立公園に指定されています。 右図=国土交通省ホームページより

 利根川水系では、2003年当時、国土交通省が八ッ場ダムの事業費を2110億円から4600億円に増額する計画変更案を提示していました。東京都、埼玉県、千葉県は八ッ場ダムにも参画し、増額が各都県の負担増となったことから、八ッ場ダム増額の影響が戸倉ダム中止をもたらしたといえます。

 戸倉ダム撤退の理由で明らかなように、水需要の増加を見込んだ水源開発(ダム)は時代遅れで、八ッ場ダムも見直しが必要でした。しかし、他のダム事業を中止してまで推進された八ッ場ダムは2020年に完成しました。(八ッ場ダム事業費はその後5320億円に増額)

 2019年秋の東日本台風襲来時には、試験湛水中の八ッ場ダムが満杯となり、利根川の「救世主」とPRされましたが、ダムの治水効果はダムから離れるほど減衰します。利根川流域における八ッ場ダムの治水効果は、ダムに最も近い群馬県の平野部であってもわずか十数センチにすぎませんでした。堤防整備に全国でも突出して投資されてきた利根川本流では、東日本台風時の最高水位と堤防の天端の高さに2メートル以上の余裕がありましたから、八ッ場ダムのおかげで水害を免れたわけではありません。

 水源開発を目的とした水資源開発公団(水資源機構)が事業主であった戸倉ダムは、都市用水の供給など水源開発という目的がなければ成り立ちませんから、利根川流域都県で水需要が増加しなければ、同じ計画の再開は無理です。八ッ場ダム事業が終了した群馬県内では、ダム事業に従事してきた様々な業種が新たなダム事業を待望しているのでしょうか。

〈参考)「保坂展人のどこどこ日記」ー「八ッ場ダムと同規模の戸倉ダムが6年前に消えたのはなぜ?」
 

◆2022年7月13日 上毛新聞
ー戸倉ダム(片品村)建設再開を 5市町村長ら期成同盟会ー

 洪水被害が多発する中、「戸倉ダム建設促進期成同盟会」の設立総会が12日、沼田市内で開かれた。利根沼田地域5市町村の首長や議長、国会議員らが出席し、19年前に建設が中止された戸倉ダム(片品村)の事業復活に向けて、協力していくことを確認した。

 戸倉ダムは大清水周辺の片品川で計画された治水、利水の多目的ダムで、1987年度に着工。その後、水資源機構が事業を進めた。用地取得はほぼ完了し、工事用道路も一部できていたが、水道用水確保のため事業参画していた埼玉、千葉、東京の3都県が撤退し、2003年12月に建設を中止した。

 会長に就任した梅沢志洋片品村長は、当時の総事業費は約1230億円で、うち24%が投資済みと説明。熊本県の川辺川ダムの復活例を挙げながら「異常気象で防災の面から建設が中止されたダムに関心が集まっている。戸倉ダムの建設に向けて協力をお願いしたい」と語った。

 本年度は、関係機関と連携して国など当局に対する請願、陳情を行うことを決めた。  (紋谷貴史)

◆2022年7月13日 建設通信新聞
https://www.kensetsunews.com/archives/718160
ー戸倉ダム建設再開を/群馬・片品村ら 期成同盟会が発足ー

 2003年12月に事業を中止した戸倉ダム(群馬県片品村)の建設再開に向け、片品村、沼田市、川場村、昭和村、みなかみ町の群馬県内5市町村で構成する「(仮称)戸倉ダム建設促進期成同盟会」(会長・梅澤志洋片品村長)が発足し、12日に沼田市内で設立総会を開いた。
 戸倉ダムは、片品川・利根川流域の洪水調節や水道用水の供給などのため、1987年度に建設事業に着手し、水資源機構が事業を進めていたが、水道用水確保のために参画していた埼玉県、千葉県、東京都が撤退し、事業を中止した。
 設立趣意書では、気象災害の激甚化、頻発化が進む中、治水対策を着実に進める必要があるとし、「大部分の用地取得が完了している、中止となった戸倉ダム地点で進めることが時間的、経済的な観点からも大変効果的」とした。
 当時の総事業費1230億円のうち、用地買収、工事用道路工事、地質調査など299億円を建設中止までに投資した。当時の計画規模はダム高158m、総貯水容量9200万m3だった。
 建設再開に向け、地元の戸倉地区の区長、役員からも前向きな回答があり、片品村議会からは21年9月に戸倉ダム建設推進についての提言書が梅澤村長に提出されていた。

◆2021年11月18日 郡馬建設新聞
https://www.nikoukei.co.jp/news/detail/447914
ー梅澤志洋片品村長インタビュー 戸倉ダム建設計画再開へー

 片品村長選挙が10月19日告示され、無投票で2期目の再選を果たした梅澤志洋村長。「より一層の責任を感じる」と気持ちを引き締めるとともに、感謝と謙虚の気持ちが大切だと語る。2期目は新型コロナ感染症対策を念頭に置きつつ、さまざまなシステムや公共施設のランニングコストを見直し、未来に向けた財政基盤を作り上げたいと意気込む。戸倉ダム建設計画再開への動きも見せる中、今後の見通しや運営について聞いた。

-2期目を迎えた抱負は

梅澤 無投票での再選となり、より一層の責任を感じている。従来のさまざまなシステムを見直し村の特徴に合わせ、残すものは残し必要なものは刷新するという考えで、2022年度を迎えるまでに検討を行う。

また、ランニングコストを抑えながら公共施設を運営し、未来に向け安定した財政の基盤を築き上げたいと考えている。効率よく資金を動かしていき、将来に向けた貯蓄を作っていきたい。

-最重要課題は

梅澤 新型コロナ感染症対策の収束が最も重要。村民の安全・安心を守るためにも、感染症の収束に向けて全力を注ぐ。次に経済、特に観光や農林業振興をより強く進めていく。観光に関しては、これからを見据え民間の力を借りながら進めていく。

-国土強靱化について

梅澤 19年に大きな被害をもたらした台風19号において、同年10月から試験湛水を開始していた八ッ場ダムが治水面で大きな話題となった。また、熊本県で建設凍結されていた川辺川ダムが、集中豪雨の被害により計画容認に変更されるなど、ダムに対する考え方も変化が出てきている。当初は利水対策として計画されていた戸倉ダムだが、今後は治水に向けた取り組みとして考える必要がある。そのため、国土強靱化や防災を兼ねて戸倉ダムの建設事業再開を実現したい。

-戸倉ダム建設計画の再開に向けて

梅澤 戸倉ダムは八ッ場ダムの90%程度の貯水量が見込まれている。また、計画当時の総工費として1230億円が掲げられており、すでに関係工事などで24%に当たる約299億円を投資している。加えて、ダム予定地の大部分を現在の水資源機構が所有しているため、新たな土地買収が少ないなど計画再開に向けたメリットも多い。そして、議会、役場、戸倉の地元住民から反対する意見は全く聞こえない。

計画再開に向け慎重な意見も出ているが、片品方面の利水・治水を見ると利根川合流までの間、薗原ダム以外に大きなダムがない。いろいろな災害が想定される昨今において、下流域となる首都圏の安全を確保するため、戸倉ダムが必要だといっても過言ではない。

9月27日には議会から「戸倉ダム建設の調査・研究について」の提言を受けており、今後は戸倉ダム建設実現に向けて国や県に話を進めていく。

-村営住宅解体が行われるが

梅澤 須賀川地内にある村営住宅は、21年度内に1棟を除いて解体を行うことが決定している。合わせて、新たな村営住宅建設に向けた土地購入を見通している。

活性化の一つである移住促進については、2拠点生活から始めてもらえればと考えている。最初から意気込んで村に移住するよりも、関係人口を増やしていくことが大切。今後は、空き家を村でリフォームして貸し出すといったことや、土地も村で斡旋できるようにしていきたい。

-交通網について

梅澤 国道120号の年間通行と国道401号の福島県への開通は、20年以上に渡り要望し続けており、今後も訴えていきたいと考えている。また、村道や林道の整備はもちろんのこと、熟している森林整備についても手を付けていかなければならない。

一方で、現在計画されている利根町から片品村に繋がる(仮)立沢バイパスには期待をしたいところ。椎坂トンネルができて、沼田市からのアクセスが格段に向上したように、(仮)立沢バイパスが開通すれば大きな効果が期待できるだろう。