八ッ場あしたの会は八ッ場ダムが抱える問題を伝えるNGOです

JR東日本、10月1日吾妻線付け替えと発表

 八ッ場ダム予定地を走るJR吾妻線について、JR東日本は10月1日より新線の運行を開始すると発表しました。
http://www.jreast.co.jp/takasaki/news/docs/20140520.pdf
【八ッ場ダム建設事業関連】
吾妻線一部付替え工事完了と新設線の運用開始について
2014年5月20日 東日本旅客鉄道(株)高崎支社

切換工事日 :平成26年9月24日(水)最終列車運行 終了後より25日夕刻まで約1日間。
営業開始日 :平成26年10月1日(水)始発より
(川原湯温泉駅新舎も同日始発より 供用 開始 )

八ッ場ダム本体工事予定地を走る吾妻線

八ッ場ダム本体工事予定地を走る吾妻線

 吾妻線はダム水没予定地とダム本体工事予定地を走っているため、八ッ場ダム事業により1999年から付け替え工事が行われてきました。付け替え鉄道はトンネル工事が難航し、わずかな地上部の用地買収にも時間がかかりました。15年間かかって進められてきた10.4キロにわたる付け替え工事が完了すると、八ッ場ダムの本体工事を行う条件が一つ整うことになります。

 

付け替え鉄道(東吾妻町松谷地区)

付け替え鉄道(東吾妻町松谷地区)

 総工費は約376億円。従来の吾妻線とつながる下流部(東吾妻町松や地区)と上流部(長野原草津口駅周辺)では、単線にしては巨大はコンクリートの鉄橋が周囲を威圧するように聳えています。

川原湯温泉駅shuku 東京・上野始発の特急草津は2時間20分余りで川原湯温泉駅に到着します。この駅も八ッ場ダム事業によって水没します。

温泉駅4 現在のJR吾妻線は、1945(昭和20)年1月2日に長野原線として開通しました。第二次大戦下の1942年、奥地の群馬鉄山から首都圏に鉄鉱石を運搬するために着工され、地元住民の労力奉仕、朝鮮人の徴用、学徒動員などによって突貫工事が行われました。長野原町誌によれば、時局柄、資材難のため、鉄橋の橋げたなどは再利用のものが多く、隧道は素掘りのものもあり、土留めその他、不完全な工事でようやく全線開通をみたということです。

 開通当時は蒸気機関車が鉄鉱石を搬出した長野原線も、沿線住民の要望により、翌年からは客車の運行が始まります。1956年にはディーゼル車が導入され、翌57年には東京・上野から直通列車の運行、1968年には全線電化が実現しました。
 川原湯温泉駅の開業は1946年4月20日、当初は川原湯駅という名称で、八ッ場ダム計画が発表された1952年の乗降客は一日平均500人を超え、ダム計画が頓挫したかに見えた1962年には764人に達しました。(長野原町誌より)
 しかし、その後ダム事業の進行に伴い、地域の人口減少、川原湯温泉の衰退が進み、以下のJR東日本の資料によれば、乗降客数(一日平均)は2000年度ー87人、2005年度ー52人、2012年度ー24人と減少の一途をたどっています。 http://www.jreast.co.jp/passenger/2012_09.html

 

JR東日本高崎支社による吾妻線付け替えに関する発表資料より

JR東日本高崎支社による吾妻線付け替えに関する発表資料より

 現在の吾妻線は、谷間を縫うように走ります。オレンジと緑の普通列車、えび茶と黄緑色の快速リゾート、白を主体とした特急草津、いずれも周囲の景観をバックに映えるため、格好の被写体となっています。
 吾妻渓谷の下流部にある樽沢トンネルは、全国で一番短いトンネルとして鉄道ファンに人気です。水没はしないものの、付け替えに伴いトンネルを含む渓谷下流部の区間も廃線となります。
 このところ、失われてしまう景色を撮影しようと、多くのカメラマンが現地を訪れています。切り替え時期が正式に発表されたことで、9月に向けてカメラマンはさらに増えるでしょう。
 吾妻線は新線付け替え後は円グラフに示されているように大部分がトンネルになります。
 使われなくなる旧来の吾妻線にトロッコ列車を走らせれば、水没予定地の観光振興として脚光を浴びることでしょう。

新・川原湯温泉駅トリミング 
 八ッ場ダム事業によって、水没線よりわずかに高い山の中腹に、川原湯温泉の新駅がつくられました。しかし、計画されている駅前広場、アクセス道、地域振興施設はまだつくられていません。斜面に平らな土地を造成するために、線路の山側には巨大なコンクリートの擁壁が造られています。

桜沢の砂防工事

桜沢の砂防工事

この場所は過去何度も土石流に襲われた土地で、切り土断面に厚い崖錐堆積物層がみられます。ダム事業ではここを「上湯原代替地」として整備することになっていましたが、代替地に移転する人々が殆どいない状況の中で、計画は頓挫しました。過去の災害を知る地元の人々は、この土地の安全性に不安を抱いており、専門家らも問題を指摘しています。
 八ッ場ダム事業では背後の沢筋に幾重もの防災ダムを造って安全性に配慮することになっていますが、疑問は何も払拭されていません。

 川原湯温泉駅の乗降客数に表れているように、自然景観と歴史文化に恵まれた川原湯温泉をはじめとするダム予定地は、この半世紀の間にダム事業によって取り返しのつかないダメージを受けてきました。
 新聞報道によれば、地元の有力者らは交通網の整備が観光振興につながると期待しているとのことですが、ダム事業がもたらしたマイナス面を直視することなく、現実から遊離した綺麗ごとを並べているように見えます。

 関連記事を転載します。

◆2014年5月21日 上毛新聞
ーJR吾妻線 新設区間 10月1日営業開始 新駅舎も 八ッ場建設で付け替えー

 長野原町の八ッ場ダム建設に伴い一部が水没するJR吾妻線の付け替え工事で、JR東日本高崎支社は20日、新設区間の営業を10月1日に始めると発表した。この区間にある川原湯温泉駅の新駅舎も同日利用を開始し、1999年から続いた主な鉄道関連工事が完了する。基幹道路の付け替えは八ッ場大橋(湖面1号橋)が今秋開通する見通しで、地元住民の生活再建に必要な交通インフラの整備は大詰めを迎えている。
 同支社によると、付け替え区間は岩島駅(東吾妻町岩下)付近から長野原草津口駅(長野原町長野原)までの10.4キロ。八ッ場、川原湯、横壁の3トンネルで延長の8割を占め、風雨の影響を受けにくい。線路や鉄橋を設けるなどの工事は現在、最終段階に入っている。総工費は約376億円。
 付け替えに伴い、鉄道用としては日本一短い樽沢トンネル(全長7.2メートル)は使われなくなる。線路の切り替えや試運転のため、9月25~30日は一部の区間をバスで代行輸送する。
 一方、基幹道路となる国道145号と県道の付け替えも進む。県特定ダム対策課によると、現時点で全区間(24.4キロ)のうち92%に当たる22.5キロが利用されている。八ッ場大橋を含む県道川原畑大戸線(1.2キロ)が今秋開通すれば、利用率は97%に上昇。残る主な区間は長野原草津口駅近くで工事中の白砂川橋のみとなる見通しだ。
 吾妻線付け替え区間の営業日が決まり、地元も歓迎する。長野原町の萩原睦男町長は「目に見える形で一歩一歩整備されてうれしい。駅周辺もしっかり工事したい」とし、東吾妻町の中沢恒喜町長は「交通網が整備されることは観光振興につながる。展望は明るい」と話した。
 国土交通省は八ッ場ダム本体工事の落札者を8月に決め、10月にも着工される見通し。

◆2014年5月21日 産経新聞群馬版
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20140521-00000011-san-l10
ーJR吾妻線付け替え工事ほぼ完了 10月1日から新設線営業ー

 八ツ場ダム建設に伴う生活再建対策として進められてきたJR吾妻線の一部付け替え工事がほぼ完了し、10月1日から新設線での営業が開始される。JR東日本高崎支社が20日、明らかにした。
 付け替え工事が行われてきたのは、水没する岩島駅-長野原草津口駅間の約6キロを含む約10・4キロ。吾妻川左岸から南の右岸へ最大で900メートル移設された。
 ダムに沈む川原湯温泉駅は標高差約70メートルの高台に新設される。付け替え工事の結果、区間の構造物構成はトンネル77%(現在14%)、地上区間13%(同81%)、橋梁10%(同5%)となるという。
 吾妻線全線(渋川駅-大前駅)は現行から300メートル短い55・3キロとなり、運賃は区間によって90円の増減が発生する。
 現在の線路を切断し、新たな線路と接合する切り替え工事は9月24日の最終列車後から25日まで実施。25日は中之条駅-大前駅間でバスによる代行輸送が行われる。26~30日はバス輸送に加え、岩島駅まで列車を運転する。岩島駅-長野原草津口駅間では安全運行のため乗務員の訓練が行われる。
 付け替え工事は、国土交通省の委託を受けてJRが平成11年11月から取り組んできた。駅構内の改良など最終的な工事完了は平成27年度末になる。総工費は約376億円。

◆2014年5月20日 レスポンス
http://response.jp/article/2014/05/20/223594.html
ー吾妻線、10月1日から新ルートに…八ッ場ダム建設で線路移設ー

 JR東日本高崎支社は5月20日、八ッ場ダム(群馬県長野原町)建設の一環として実施している吾妻線の線路移設工事について、10月1日から新ルートによる営業運転を開始すると発表した。現行ルートでの運転は9月24日限りで終了する。
 吾妻線は、上越線の渋川駅(群馬県渋川市)から分岐して大前駅(嬬恋村)までの55.6kmを結んでいるJR東日本の鉄道路線。途中の川原湯温泉駅(長野原町)とその前後の区間が八ッ場ダムの建設で水没することから、水没範囲を含む岩島~川原湯温泉~長野原草津口間の約10kmを新しいルートの線路に付け替える工事が行われている。
 現在の吾妻線は渓谷沿いの険しい地形を縫うような線形で、カーブの最小半径も200~300mとなっている。
 これに対し新ルートの線形は八ッ場トンネル(4489m)と川原湯トンネル(1870m)、横壁トンネル(1720m)で構成されるトンネル主体の直線的なルートで、最小半径も600mに緩和。高崎支社は「降雨・積雪等に対する防災強度の向上、曲線改良・踏切除却等による安全・安定輸送の確保がなされ、お客さまの利便性の向上が図られます」としている。
 一方、日本一短い鉄道トンネルとして知られる岩島~川原湯温泉間の樽沢トンネル(7.2m)は八ッ場ダムの水没範囲から外れているが、水没範囲の前後に伸びる新ルートからは外れており、現行ルートでの運転終了に伴い使用を中止する。
 線路の切替工事は9月24日の終列車運転終了後から翌25日夕刻まで実施。その後、10月1日の初発列車から新ルートでの営業を開始し、同時に川原湯温泉駅も新ルート上に移設される。
 これに伴い9月25日は中之条~岩島~大前間で列車を運休し、9月26~30日は運休区間を岩島~大前間に短縮する。バスによる代行輸送は9月25日から30日まで、中之条~大前間で実施する。
 また、新ルートへの移設で10月1日から営業距離が変更され、吾妻線全体では現在より0.3km短い55.3kmに。岩島~川原湯温泉間は0.6km長い6.5km、川原湯温泉~長野原草津口間は0.9km短い5.0kmになる。
 これにより運賃も一部の駅間で変更され、小野上温泉~川原湯温泉間は現在より90円高い500円、川原湯温泉~羽根尾間は30円安い210円になる。
 付替区間をまたぐ駅間では、金島~羽根尾間が80円安い760円、市城~群馬大津間が80円安い500円、郷原~袋倉間が90円安い410円になる。《レスポンス 草町義和》

~~~転載終わり~~~

滝見橋から見えた吾妻線の走る風景(2014年3月22日撮影)

吾妻渓谷を走る普通列車(滝見橋より)(2014年3月22日撮影)


吾妻渓谷を走る吾妻線の普通列車。(2013年12月2日)

吾妻渓谷を走る吾妻線の普通列車。(2013年12月2日)

吾妻渓谷から川原湯温泉駅に向かう吾妻線の普通列車

吾妻渓谷から川原湯温泉駅に向かう吾妻線の普通列車(2007年10月28日撮影)

川原湯地区と川原畑地区を結ぶ千歳橋を走る快速列車リゾートやまどり(2014年5月10日撮影)

川原湯地区と川原畑地区を結ぶ千歳橋を走る快速列車リゾートやまどり(2014年5月10日撮影)

林地区久森(くもり)を走る特急草津(2014年5月10日撮影)

林地区久森(くもり)を走る特急草津(2014年5月10日撮影)

水没予定地の川原畑地区を走る特急草津 手前のプレハブは、遺跡発掘調査の作業場(2009年6月1日)

水没予定地の川原畑地区を走る特急草津 手前のプレハブは、遺跡発掘調査の作業場(2009年6月1日)

水没予定地の川原畑を走る吾妻線の普通列車。背後の山の中腹に川原湯温泉街。撮影の5日後にダムの補償基準が調印された。(2001年6月9日撮影)

水没予定地の川原畑を走る吾妻線の普通列車。背後の山の中腹に川原湯温泉街。撮影の5日後にダムの補償基準が調印された。(2001年6月9日撮影)