国道145号線はこれまで住民の生活道路として、観光道路として利用されてきました。しかし国道沿いの吾妻渓谷に計画されている八ッ場ダムの建設事業のために、事業者である国土交通省関東地方整備局は国道を本体工事専用道路としたい考えです。
国道沿いにはJR吾妻線が走っていますが、JR東日本は5月20日、吾妻線を今年10月1日に新線に切り替えると発表しました。その後、国交省の職員らが水没予定地の住民らを訪ね、国道の廃道化を了承してほしいとの説得を行っています。
水没予定地の住民は、国道を生活道路として利用していますが、国道が使えなくなると、地区内の細い道を付け替え国道や付け替え県道まで上っていかなければなりません。道路は曲がりくねっているうえ、冬場は凍結することも多い坂道です。
また、国道沿いには水田が広がっており、国道が使えなくなれば耕作ができなくなります。
水没予定地に住んでいる住民は10世帯足らずとなっており、国土交通省は国道の廃止について説明する際、代替地の図面を示して水没予定地から早く立ち退くよう促しているようです。
これに対して、複数の住民が国道の廃止を了承できないとしており、このことを6月9日、群馬県議会産経土木委員会で角倉邦良議員(リベラル群馬)が取り上げました。群馬県は、地元民の立場に立つとは答えたものの、具体的な回答はありませんでした。
一方、塩川鉄也衆院議員(共産)が6月13日に国交省本省の八ッ場ダム担当者にヒアリングを行った際、伊藤ゆうじ群馬県議がこの件を問いただしたところ、八ッ場ダム担当の村山英俊課長補佐は、「国道145号線は群馬県が管理している」、「本体工事については落札業者が決める」と説明し、国道の廃止については国交省は関与していないという趣旨の説明をしました。
3ケタ国道である145号線が群馬県の管理であることは事実です。しかしそれなら、なぜ国交省八ッ場ダム工事事務所の職員は、落札業者が決まっていない今の段階で、国道の廃止を住民に了承させようと、住民を説得して回っているのでしょう。
”日本ロマンチック街道”とも呼ばれる国道145号線沿いには、国指定の名勝・吾妻渓谷、天然記念物・川原湯岩脈があり、変化に富んだ吾妻川の流れを堪能できる観光ルートです。
http://www.jrs-roman.org/
国道の廃道化は、観光客にとっても大きな打撃となります。立派な付け替え国道ができても、国道沿いのルートでしか見ることのできない見事な景観が広がっているからです。
富岡製糸場の世界遺産決定でわく同じ群馬県で、かけがえのない自然と文化が永遠に失われようとしていることを多くの方に知っていただきたいと思います。
●吾妻渓谷
吾妻渓谷の中に八ッ場ダム本体が建設されることになっています。渓谷上流はダムに沈み、下流部もダム直下となることから、ダムによる吾妻川の流れの変化による影響を免れません。
http://www.weblio.jp/content/%E5%90%BE%E5%A6%BB%E5%B3%A1
●川原湯岩脈
http://bunka.nii.ac.jp/SearchDetail.do?heritageId=160798