八ッ場あしたの会は八ッ場ダムが抱える問題を伝えるNGOです

八ッ場ダム:国、代替地提供せず 新駅の土地

 吾妻線の新線は10月1日に開通し、川原湯温泉の新駅も開業する予定ですが、式典を前に、新線の線路や駅の用地が今も水没予定地住民の所有であり、国交省に代替地を要求し続けて来たのに提供されていない、という事実が大きく報道されました。

◆2014年9月29日 夕刊社会面(30日群馬版朝刊)
http://mainichi.jp/select/news/20140929k0000e040171000c.html 
ー八ッ場ダム:国、代替地提供せず 新駅の土地ー
 
 八ッ場ダム(群馬県長野原町)の建設に伴い高台に移転するJR吾妻線・川原湯温泉駅の新駅を巡り、底地の一部を所有する男性に対して国土交通省が15年前、底地の無償貸与を受ける見返りに代替地の提供を約束しながら、いまだ提供していないことが分かった。底地の固定資産税は今も男性が負担し続ける中、国交省からJRに転貸された土地には10月1日、新駅が開業する。【杉本修作、賀有勇、角田直哉】

 男性は長野原町で農業を営む元町議会議長の富沢吉太郎さん(74)。新駅の周辺に農地や山林を保有し、この中には新駅のホーム西端と駅東側の線路下の土地計約1500平方メートルが含まれている。

 この土地は富沢さんがブルーベリー畑などに使っていたが、1999年5月、国交省八ッ場ダム工事事務所から「ダムの関連工事に使いたいので、今後整備する代替地と交換してほしい。代替地が完成するまでは土地を無償で貸してほしい」との申し出があった。

 その際、国交省が差し出した契約書には▽国交省は富沢さんの許可を受けずに土地を工事に利用できる▽固定資産税は富沢さんが負担する−−と記され、契約の有効期間も「国交省が必要な期間」と定められていた。一方、代替地については提供される場所や面積、期限についての契約書は交わさず、口頭での約束だったという。

 一方的な契約内容に不安はあったが、当時はダムの建設計画も順調に進み、すぐに代替地が提供されると考え富沢さんは国交省との契約書にサインした。

 その後、当初2006年度完成予定だったダムの建設工事は大幅に遅れ、現時点での完成予定は19年度まで延びた。富沢さんはこれまで何度も国交省側に代替地の提供を求めてきたが、3年前に300平方メートル分の農地について将来的な提供の確約書を結んだだけで、大半の代替地についてはいまだ場所や時期も明示されていない。一方で土地はJR東日本に転貸され、同社が線路や新駅を建設した。

 富沢さんは「いつまで無償で土地を貸し、税金を負担し続けるのか。国からもJRからも全く説明がない。私に負担を押しつけたまま電車を走らせていいのか」と憤る。

  JR東日本広報部は「土地は国交省との協定に基づき、国交省が取得に責任を負うことになっている。弊社として地権者と個別に交渉をすることはできない」と話す。国交省八ッ場ダム工事事務所は「現在も地権者と協議中の事項を含むので、個人情報や信頼関係維持の観点から回答は差し控える」と文書でコメントした。

ー群馬・八ッ場ダム建設:国、代替地提供せず 新駅土地を無償貸与、今も税負担 佐々木信夫・中央大教授の話ー
http://mainichi.jp/shimen/news/20140929dde041010053000c.html

◇善意踏みにじる−−佐々木信夫・中央大教授(行政学)の話

 土地を無償貸与したのに税金を支払った上で代替地もなく、地権者にとっては損失でありアンフェアだ。国の対応は用地確保に協力した人の善意を踏みにじるようなもので、不誠実だったと言わざるをえない。代替地を速やかに提供して納得してもらうべきだ。もし手続き上、国に落ち度があったと判断するなら、これまで地権者が負担した税金と、地代相当分を国が払うなどの対応が必要になるのではないか。

—転載終わり—

 新駅プラットフォームと擁壁shuku
 上記の記事では、川原湯温泉の新駅周辺(写真右)の特定の地権者と国との契約について報じていますが、こうした住民にとってきわめて不利な契約がダム事業ではしばしば行われていることが知られています。

 八ッ場ダム事業では、高額な補償金額が週刊誌等で取り上げられ、ムダな公共事業の一面として批判されてきましたが、補償は土地などの財産を失う対価であるため、住民がダム事業用地にどれだけの資産を持っているかによって、補償額は異なります。多額の補償金を受け取る住民もいれば、生活再建が困難な住民もいます。
 また、補償金を受け取った住民は、これを元手に代替地の土地を買わなければなりませんが、国が造成している代替地は周辺地価よりはるかに高額であり、住民にとって大きな負担となっています。補償の問題は代替地の分譲地価、移転や地域破壊、職業転換等によって住民がこうむるダメージの大きさを合わせて考える必要があります。

 さらに、ダム事業を受け入れて以降、地元は常に国交省と群馬県の現地事務所と連携する有力者の勢力下にあり、住民同士の関係も分断されがちであるため、個々の住民にとってきわめて不利な契約でも結ばざるをえないような状況がみられます。
 
 2012年6月 上湯原代替地を下からshuku
 八ッ場ダム事業では、ダム湖予定地の周辺に住民の移転代替地を用意することになっていますが、代替地計画は地形地質に無理のある机上の計画であったため、造成事業が大幅に遅れています(写真右=造成中の川原湯温泉新駅周辺の代替地)。

 また、民主党政権時代に国交省関東地方整備局は、代替地の安全対策や地すべり対策のために、約150億円の対策費が必要と試算し、昨年から地質調査を実施してきましたが、調査結果はいまだ明らかにされておらず、対策が行われるのもこれからです。
 住民の多くは代替地への移転を望んでいましたが、造成の遅れ、代替地の分譲地価が周辺よりはるかに高額であることなどから、水没予定地住民の四分の三は他地域に転出していきました。

 上記の記事では、識者のコメントとして、「代替地を速やかに提供して(地権者に)納得してもらうべきだ」と書いてありますが、地権者が要求している代替地は今も完成せず、完成のメドも立っていませんので、国交省八ッ場ダム工事事務所は代替地を提供することができません。